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黒焔の復讐者は禁忌を宿して異世界を往く  作者: 美希昌希
第三章:セルディス王国編
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第083話 もう一度会いたい

 ——もう一度だ。


 エミルは目を閉じ、意識を集中させた。

 体の奥底に眠る力を呼び起こす。魔力が、ゆっくりと全身に広がっていく感覚。


 ——『空間転移』


 発動の瞬間を、強くイメージする。

 鉄格子の向こう側の廊下の暗がり。そこに——。


 ガンッ!


 透明な壁に叩きつけられたような衝撃。

 発動しかけた魔力が体内で暴れ、逆流する。胃の底から込み上げる吐き気を、エミルは歯を食いしばって堪えた。


「くそっ……!」


 石壁を殴りつけた拳に、鈍い痛みが走る。


 ——『極刑は免れんだろうがな』


 リシャールの言葉が、耳の奥にこびりついて離れない。


「おい、エミル。何度やっても無駄だって」


 バルディアが呆れたように声をかけてきた。


「……わかってる」


 エミルは血の滲む拳を見下ろしながら、冷たい壁に背中を預けて座り込んだ。


 視界に入るのは、鉄格子の向こうにある薄暗い廊下と、頼りなく揺れる松明の明かりだけ。湿ったカビの臭いが鼻をつく。


「この牢自体がおかしいんだ。魔力を妨害する魔石が使われてる」

「そんな魔石、聞いたことありません……」


 アヤメが呟く。その声には、隠しきれない動揺が滲んでいた。


「天然にはねえよ。多分、オラクルズの幹部連中にそういう特殊な魔法が使えるやつがいるんだ。師匠から聞いたことがある。オラクルズの武器の監修にも携わってたからな……厄介なもん作りやがって」


 バルディアは舌打ちをして、鉄格子を睨みつけた。


「魔力が使えない。脱出もできない。このままじゃ、司教殺しの犯人ってことで処刑台行きだ。……あのクソエルフ、司教に恨みが溜まってたに違いねえ。それでアタシらに罪をかぶせやがった。善意を利用しやがって……」

「…………」


 エミルは黙ったまま、血の滲む拳を握りしめた。


 ——善意を利用された。


 その言葉が、胸の奥で妙に重く響く。


 ——バルディアの言う通りだ。最初はそう思った。サラに騙された。信じた自分が馬鹿だった、と。

 なのにどうしてだろう。

 こうして冷静になってみると、どうにも拭いきれない違和感がある。


「……なあ、バルディア」

「ん?」

「本当に、サラがやったのかな」


 ぽつりと、疑問が口をついて出た。


「はあ? 何言ってんだエミル。アイツ以外に誰がいるってんだよ」

「昨日の、酒場での話だよ。どうにもな……嘘を言ってるようには見えなかった」

「おいおい、マジで言ってんのか。アタシらをこんな目に遭わせた元凶だろうが? 同情を引くための芝居に決まってんじゃねえか」

「そうかもしれない。けど……」


 ——そうだ。きっとそうなんだろう。

 全部計算ずくの演技。おれたちを嵌めるための布石。

 そう考えるのが、一番合理的だ。

 なのに——あの時のサラの顔が、どうしても頭から離れない。


「……あいつが言いたかったことは、あれが全てじゃない気がするんだ」

「全てじゃない?」

「ああ。直感でしかないけど……」


 ——本当に、あいつがおれたちを裏切ったのか?

 本当に全部、おれたちを嵌めるための芝居だったのか?


 考えれば考えるほど、心の奥底からどす黒い感情が湧き上がってくる。


 信じた人間に裏切られる。

 その痛みは知っている。嫌というほど。


 だからこそ、簡単に信じたくない。また傷つくのが怖い。


 それでも。

 沈みかけた意識を、無理やり引き上げる。


「おれは、もう一度サラに会いたい」

「正気かよエミル! あいつはアタシらを……」

「わかってる。わかってるんだよ、そんなことは」


 エミルは、自分に言い聞かせるように言った。


「もしサラが本当に黒幕だったなら、おれがケリをつける。だけど、もし……もしあいつも何かの罠に嵌められてるだけだとしたら? おれは確かめもせずに、あいつを切り捨てることになる」


 ——昨日の酒場では、手を差し伸べられなかった。そして今、ここで再び背を向けるのか。


「おれは、また何も救えないままってのは、嫌なんだ」

「マジかよエミル……確かにアイツから直接何も聞いちゃいねえけどさ……」

「そうです……ね。わたしも、あの方とまた話してみたいです」


 アヤメも、真っ直ぐに先を見据えていた。彼女もまた、サラの瞳の奥にあった絶望を、ただの演技だとは思いたくなかったのだろう。


「〜〜〜っ! 相変わらずお人好しばっかだなこのパーティは。まあ、だからアタシも一緒に旅しようと決めたんだ。乗るしかねえか!」


 バルディアは頭を掻きながら、仕方ないといった顔で笑った。


「アヤメ、バルディア……!」

「だけど勘違いすんなよエミル。アイツがおかしなことしやがったら、その時はアタシがやっつけるからな」

「ああ、構わないさ。じゃあ、ここから出る方法を考えないとな」


 三人が顔を見合わせた、その時だった。


「ヌハハハハハハ!!」


 牢獄には不釣り合いな、豪快な声が響き渡った。この三人の誰でもない。リシャールの声とも違う。


「「「!?」」」


 三人は同時に顔を上げ、周囲を見回した。声はどこから?


「ここから出たい? よろしいですぞ。では、吾輩が出してしんぜよう!」

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