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黒焔の復讐者は禁忌を宿して異世界を往く  作者: 美希昌希
第三章:セルディス王国編
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第076話 C級冒険者パーティの誕生

「え……? おれ?」


 エミルは素っ頓狂な声を上げた。


「ここはやっぱり、エミル様でしょう!」

「アタシも異論ねえな。オマエ、十七だったよな? ま、年功序列ってやつで敬ってやるよ」


 アヤメが即答すれば、バルディアもにししと意地悪く笑う。


「でも、おれはE級冒険者だぞ?」

「エミルさん。パーティ登録に、リーダーのランクは問わないんですよ? ね、ブラドさん」


 やり取りを見ていた受付嬢のベリンダが、食い気味に口を挟んだ。なぜか嬉しそうだ。


「ああ、そうだ。お前が始めに冒険者登録をして、そして二人を連れてきたんだ。お前が適任だろう」


 エミルはため息をつき、どこか居心地悪そうに頭を掻いた。


「……仕方ないか。あんまりそういう柄じゃないんだけどな」

「よし、決まりだな。ベリンダ、リーダー登録も済ませておけ」

「はい!」


 ベリンダは嬉しそうに頷くと、エミルのカードを手際よく処理していく。


「これでエミルさんは、正式にパーティリーダーです!」


 ほどなくして、カードが戻ってきた。

 表面には新たな刻印が加わっている。パーティリーダーを示す小さな紋章。


 たったそれだけのことなのに、カードがやけに重く感じた。


「さて、お前のパーティは、これで所属メンバーの過半数がC級以上になったわけだ」

「ああ。……それが、どうかしたのか?」

「どうかしたか、じゃねぇよ」


 ブラドは呆れたようにため息をついた。


「パーティ規定だ。聞いてねえのか? 冒険者の等級(ランク)に関係なく、パーティ内で最も多い等級(ランク)で、受けられるクエストが決まる。つまり、たとえリーダーがE級でも、お前らはC級クエストが受けられるってわけだ」

「……C級」

「ああ。本格的な『ダンジョンクエスト』も受注可能になる。これで勝手に魔物を討伐されても、俺が冷や汗をかかずに済むってもんだ」


 ダンジョンクエスト。

 その言葉に、エミルの目が光った。


 これで正式にダンジョンに潜れる。神獣や扉の手がかりを探せるだけでなく、通常の討伐クエストとは比べ物にならない報酬が期待できる。今後の活動資金も安定して稼げるはずだ。


「良かったですね、エミル様」

「へへっ、グロムハルト以外のダンジョンも楽しみだな」


 二人の笑顔を横目に、エミルは自分の手元を見つめた。


 輝かしいC級のカードを手にした二人。それに比べて自分のカードは、見慣れたE級のまま。


 ——リーダーがE級のままって、なんか格好つかないよな……。


 それに、ついこの間までただの引きこもりだった男が、いまやパーティのリーダーだ。現実感がまるでない。


 そんなエミルの内心を見透かしたように、ブラドがニヤリと笑った。


「ま、リーダーがしっかりしねぇと、パーティってのはすぐに瓦解するぞ。せいぜい、E級リーダーさんのお手並み拝見とさせてもらうぜ」

「はあ。まあとにかく、これで星読師(ステラノート)を探しにいけるわけだな」


 パーティ登録という予想外のイベントを終え、エミルは本来の目的を切り出した。


「それでブラド、頼みがある。推薦状を書いてくれないか? 星読師(ステラノート)を雇うには、ギルドの口添えがあった方が有利だと聞いたんだ」

「ああ、それは構わんが……。結局のところ、斡旋するのは教会次第だぞ?」

「……どういうことだ?」

「ギルドの推薦状があろうとなかろうと、相手が高名な商人や冒険者、貴族ほど腕利きの星読師(ステラノート)を紹介する。逆にそうでなけりゃ期待するなってこった」

「なんだそれ……。結局、コネと実績かよ」


 エミルは思わず頭を掻いた。異世界に来ても、世知辛いルールは変わらない。


「教会だって寄付で成り立っているところがある。人間がやっている以上、ピンキリだ。ま、推薦状だけは用意してやる。ちょっと待ってろ」


 ブラドが奥へ引っ込むと、三人は受付ロビーで待機することになった。夕方のギルドは、クエストから戻った冒険者たちの熱気と酒の匂いで満ちている。


 ガアンッ!


 その喧騒を、乱暴な音が切り裂いた。


 蹴り飛ばされたように扉が開き、四人組の冒険者がギルドに入ってきた。


 先頭を歩くのは、雷の意匠が施された黒い軽鎧の男。整った顔立ちだが、その表情には隠しようのない傲慢さが滲んでいる。


 男はギルド内を一瞥し、エミルたちの方へ視線を向けた。


「おい、邪魔だ。どけ」

「あ?」


 エミルが反応するより早く、バルディアの大きな口がつり上がった。


「んだ、テメエら……?」


 だが、男はバルディアを意にも介さず、その視線をアヤメ、そしてエミルの持つギルドカードへと移す。


 カードに刻まれた「E」の文字を見た瞬間、男の口元が侮蔑の形に歪んだ。


「ハッ、なんだありゃ。C級の小娘どもに寄生するE級(ゴミ)もいるんだな。情けねえ」


 侮蔑が色濃く込められたその言葉は、先ほどよりも大きくギルド内に響いた。


「ははは、だっせぇパーティだな」

「ヒモみたいな野郎だ。女の稼ぎで食う酒は美味いかよ?」


 後ろに控えていた仲間たちが、同調するように笑い声を上げる。犬の獣人族の女と、リザードマンらしき男。もう一人の重装甲の男は黙って腕を組んでいるが、その視線は明らかにエミルたちを見下していた。


「この……ッ!」


 バルディアが激昂し、アヤメの制止を振り払って飛び出そうとした。


「やめとけ、バルディア」


 エミルは、絞り出すような低い声でそれを制した。


 自分でも驚くほど、冷静な声だった。内心は煮えくり返っているのに、声だけが別人のように落ち着いている。


「エミル!? でも、アイツらよ……!」

「ここで揉めても仕方ない。……おれたちには、やることがあるだろ」


 エミルは男たちに背を向け、バルディアに視線を送る。バルディアは納得行かない様子で唇を噛み、俯いてしまった。


「エミル。推薦状だ、待たせたな」


 ちょうどそこへ、何も知らないブラドが戻ってきた。ピリついた空気に一瞬戸惑ったが、すぐにその原因に気づいたようだ。


「誰かと思えばエンデバーか? 久しぶりだな」

「……ああ。ちょっと野暮用でな。……チッ、行くぞ」


 エンデバーと呼ばれた男はブラドに短く応えると、仲間と共にギルドの奥へと消えていった。


「……なんなんだよ、アイツら!」


 バルディアが床を蹴りつける。


「あいつらはA級パーティ『黒鷲』の連中だ。リーダーのエンデバーは、実力はあるが性格に難があってな。まあ、積極的に関わる必要もないさ」

「……いいんだ。気にしてない」


 エミルは努めて平静を装い、笑ってみせた。


 ——気にしてないなんてのは嘘だ。

 エンデバーとかいう男のあの人を見下したような目は、否応なしにトラウマを抉ってくる。


 それでも、今はシオン国に向かうのが最優先だ。あんな連中に構う暇はないと自分に言い聞かせた。


「あとブラド、教会の場所を教えてくれるか?」

「ああ。教会なら、この中央広場を抜けて、西の大通りに出た先にあるぞ。一際大きな建物だから、すぐにわかるはずだ」

「ありがとう、助かったよ」


 エミルは推薦状を受け取ると、ギルドを後にした。


 胸の内には、A級冒険者から浴びせられた侮辱が、黒いシミのようにこびりついていた。

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