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黒焔の復讐者は禁忌を宿して異世界を往く  作者: 美希昌希
第三章:セルディス王国編
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第075話 お先に頂きます

 応接室に通されると、そこには見覚えのある水晶が置かれていた。


 エミルが冒険者登録の際に触れた、あの魔力測定用の水晶だ。あの時は何の反応も示さず、「無属性・E級」という烙印を押された。


「まずはチビちゃんからだ。手を乗せてみな」

「だからチビじゃねえっての! 見てろよ、おっさん!」


 バルディアはふん、と鼻を鳴らすと、自信満々に水晶へ手をかざす。


 次の瞬間、水晶は眩いほどの赤色に輝いた。


「ほう……火属性か。しかも、こりゃ相当な魔力量だ。さすがはあの頑固ジジイの弟子だな」

「にしし、当然だろ!」


 ブラドが感心すると、バルディアは得意げに胸を張った。


「次はそっちの嬢ちゃんだ」


 ブラドの視線がアヤメに向く。


「失礼します……」


 アヤメは緊張した面持ちで進み出ると、そっと水晶に手を触れた。


 エミルは固唾を飲んで見守った。


 ミストリアの長老・スランドルの言葉が、脳裏をよぎる。


 ——『その身に流れるは、古き「風」の力よのう』


 あれが本当なら、アヤメにもその片鱗が現れるはずだ。


 しかし。


 水晶は——なんの変化も見せなかった。


 微かな光すら灯らない。ただの透明な石のまま、沈黙している。


「……無属性、か」


 ブラドが短く告げると、アヤメの肩が、がくりと落ちた。


 ——無属性だと?

 話が違う。スランドルは確かに「風の力」と言っていた。あの爺さんが、でたらめを言うとは思えない。

 だとすれば——アヤメの中にある力は、この水晶では測れないのか?

 それとも、爺さんが言っていたギルドの水晶が「まやかし」とやらが関係しているのか……?

 

「そんな……わたしには、やっぱり魔法の才能は……」


 アヤメの声が震えている。


 だが、ブラドはそんなアヤメを見て、ニヤリと笑みを浮かべた。


「そう落ち込むなよ、嬢ちゃん」

「え……?」

「今回は特別だ。模擬戦はできるか? 俺の部下と軽く打ち合ってみないか?」


 その言葉に、アヤメの目に光が戻った。


「ぜひ、やらせてください!」


 アヤメが即座に頭を下げた。声に、さっきまでの弱々しさはない。


「おっ、楽しそうだな! アタシにもやらせてくれよ!」


 バルディアも、待ってましたとばかりに拳を握った。


 ブラドは満足げに頷くと、部屋の奥へ顎をしゃくった。


「ついてこい。訓練場に案内する」




 —————




 ドサァッ……!


 重苦しい音が、訓練場に響き渡った。


 ブラドの現在の部下であり、元C級冒険者である二人が、白目を剥いて伸びている。片方は盾ごと吹き飛ばされ、もう片方は刀の柄で鳩尾を打ち抜かれていた。


 その横で、アヤメは涼しい顔で刀を納めている。息一つ乱れていない。


「準備運動にもなりゃしねえな」


 バルディアは肩を回しながら、つまらなそうに鼻を鳴らした。ガントレットの爪には、かすり傷ひとつ付いていない。


「……ハッ。こりゃたまげた。とんでもねぇ逸材を拾ってきやがったな、エミル」


 ギルド長ブラドは、呆れを通り越して愉快そうに笑っていた。


「……おれが拾ったわけじゃないけどな」

「文句なしだ。二人とも『C級』からスタートさせてやる」


 ブラドの宣言に、アヤメが目を見開いた。




 —————




 受付に戻ると、ブラドは二人に真新しいギルドカードを手渡した。


「し、C級……!」


 アヤメが自分のカードを見つめ、感極まったような声を漏らす。


「エミル様! じゃーん! お先にC級、頂いちゃいますね!」


 アヤメはカードを見せびらかすようにして、自慢げな笑みを浮かべていた。


「……おい、ブラド。おれのときは模擬戦なんてやらなかったじゃないか」

「今回は特別だと言ったろ。お前をすぐに推薦できない、せめてもの取り計らいだと思ってくれ。……な?」

「……そういうことにしておくさ。おれの暴走を見ていたのは、あんただけじゃないしな」


 一方で、バルディアは不満そうに口を尖らせていた。


「ちぇっ。B級じゃねーのかよ」

「贅沢を言うな。最初からC級自体、滅多にないんだぞ」


 ブラドがバルディアの頭を鷲掴みにし、ワシャワシャとかき回す。薄金色の髪がぐしゃぐしゃになり、キツネ耳がぺたんと潰れた。


「あだだだだ! やめろって! アタシを子供扱いすんじゃねえ!」

「お前らの実力だけ見りゃB級……いや、それ以上でも通用するだろうよ。だがな、ギルドのランクってのは、それだけじゃ決まらんのだ。実績、経験、血筋……そういったもんが絡んでくる。最初からB級以上ってのは、本当に稀なんだよ」


 バルディアは髪を直しながら、むくれた顔で聞いている。


「ともかく、これでパーティメンバーは揃ったわけだな。となると、『リーダー』を決めないといけない。パーティとしてクエストを受けるにはリーダー登録が必須だからな」


 その言葉に、アヤメとバルディアが同時にエミルの方を向いた。


 真っ直ぐな視線が、二つ。


 迷いのない目が、エミルを見ている。


「え……? おれ?」

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