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黒焔の復讐者は禁忌を宿して異世界を往く  作者: 美希昌希
第三章:セルディス王国編
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第074話 星読師探し

 ミストリアの深い森を抜け、街道を歩くこと半日。


 視界の先に、見覚えのある巨大な城壁が視界に入ってきた。


「……戻ってきたな」


 セルディス王国の首都、ラグネシア。


 エミルにとっては異世界に来て最初の街であり、そして——己の力を暴走させ、ギルド長を叩きのめしてしまった苦い記憶の場所でもある。


 活気ある街の門をくぐり、石畳の広場へと足を踏み入れた。


 行き交う人々、響き渡る喧騒。景色は以前と変わらない。だが、それを見る心境は、あの頃とはまるで違っていた。


 あの時は右も左もわからず、復讐心だけで元の世界へ帰る方法を探していた。だが今は違う。


「戻ってきた感じがしますね、エミル様!」

「アタシも久しぶりに来たぜ! やっぱグロムハルトよりでけえな!」


 隣には、目を輝かせるアヤメがいる。背中には、周囲を見回すバルディアがいる。


 この世界の仕組みも、少しは理解できた。自分の中に眠る力——失われた第七の属性、闇属性。その本質が「吸収」であることも、ミストリアで掴んだ手がかりだ。


 胸のつかえが取れた部分もある。だが同時に、謎は増えるばかりだった。


 なぜ自分にこの力が宿るのか。なぜ闇属性は歴史から抹消されなければならなかったのか。元の世界に通じているかもしれない「扉」すら、まだ見つかっていない。


「……考えても仕方ないか。とにかく、やるべきことをやるだけだな」


 エミルは小さく頭を振り、思考を追い出した。後ろを振り返り、バルディアに声をかける。


「バルディアは、セルディスに来たことあるのか?」

「ああ。師匠と何度かな。師匠がギルドから追放される前だったから……もう何年も来てねえけどな」

「でもこれからは、ヘパイストス様も胸を張って来られますね」


 アヤメが純粋な笑顔を向けると、バルディアも「にしし、そうだな!」と八重歯を見せて笑った。


「さて、と。まずは腹ごしらえ……と言いたいところだが、先に寄りたい場所がある」

「冒険者ギルド、ですね!」

星読師(ステラノート)を雇うにしても、要領がわかんねえしな。アタシも賛成だ」


 三人は頷き合うと、街の中心広場に面した一角へと向かった。


 そこには、以前訪れた時と変わらぬ荘厳な建物がそびえ立っている。


「へえ、ラグネシアの冒険者ギルドは初めてだ。グロムハルトよりでけえな。なんつーか、洒落てやがる」

「中も広いぞ。迷子になるなよ?」

「そんなにガキじゃねえよ!」


 ギャイギャイと騒ぐバルディアの頭を軽く小突きながら、重厚な扉を開ける。


 途端に、熱気と喧騒が押し寄せてきた。


 依頼掲示板に群がる冒険者たち、酒場のカウンターで管を巻く男たち。その活気の中を縫うように進み、受付カウンターへと向かう。


「やあ、ベリンダさん。久しぶり」

「あら、エミルさん! お久しぶりです」


 受付嬢のベリンダは、エミルの顔を見るなり花が咲いたような笑顔を見せた。


「グロムハルトでのご活躍……聞いてますよ? なんでも国を揺るがす大事件を解決されたとか」

「はは……情報が早いな。まあ、俺だけの力じゃないさ」


 さすがギルドの情報網だ。エミルは苦笑いしつつ、背後の二人を示した。


「おや、また人数が増えました? そちらの方は……」

「紹介するよ。一緒に旅することになったんだ」

「バルディアだ。よろしくな、受付の姉ちゃん」


 バルディアは少し顎を上げ、物怖じしない態度でベリンダを見据えた。小さな身体に似合わない堂々とした佇まいに、ベリンダは目を丸くする。


「あら、まだ小さいのに立派ですね。よろしくお願いします」

「むっ……アタシはもう十三だぞ! 子供扱いすんなっての!」

「ふふ、ごめんなさいね」


 頬を膨らませるバルディアを横目に、エミルは本題を切り出した。


「ベリンダさん、相談なんだが……星読師(ステラノート)を雇いたいんだ。ギルドで斡旋してないか?」


 その問いに、ベリンダは少し困ったように眉を寄せた。


星読師(ステラノート)、ですか……。あの方々は基本的にアストレア教の所属ですので、ギルドで直接斡旋というのは難しいんですよね……」

「そうなのか……困ったな」

「教会に直接伺うと良いですよ。ただ……」


 ベリンダは言葉を濁し、申し訳なさそうに続ける。


星読師(ステラノート)を雇うとなると、それなりの身分や実績が求められることが多いんです。特に腕の良い方となると、貴族や大商人の依頼で常に手一杯でして……一見さんだと門前払いされることも……」

「なるほど、信用か……」

「ですが、ギルド長に相談すれば『推薦状』を出すことは可能です。そのためにも、まずパーティメンバーの正式な冒険者登録が必要になりますが……いかがなさいますか?」


 エミルが振り返ると、アヤメとバルディアは待ってましたとばかりに頷いた。


「わかった。じゃあ、二人の登録を頼む」

「承知いたしました。エミルさん、ついにパーティを組まれるわけですね!」


 ベリンダが嬉しそうに声を上げる。その屈託のない祝福に、エミルは少し照れくささを感じながらも頷いた。


 ——パーティ、か。

 まだ実感はないけど、悪くない響きだ。


「それではまず、こちらの測定用水晶で魔法属性と魔力量を測定していただくことになりますが……あら?」


 ベリンダが言いかけた、その時だった。


「ん……? おう、どこのE級冒険者がいるかと思ったら」


 ギルドの奥。重厚な扉が開き、中から厳つい大男が顔を出した。

 ギルド長であるブラド・ジェスタッドだ。


「ブラドか。人をランクで呼ぶのはやめろと言ったろ」

「お前のことはウォルコットに聞いたよ。グロムハルトでも活躍したみてえじゃねえか」


 ブラドは、苦笑しているエミルの背中を勢いよく叩く。


「さっきベリンダさんとも話していたんだけど、星読師(ステラノート)を雇いたくてな。二人の冒険者登録をしにきたんだ」

「ほう。お前がパーティを組むたあ、薬草摘みが立派になったもんじゃねえか。そっちのおチビちゃんは初めてだな」

「チビは余計だ、おっさん。アタシはバルディア・バルールって立派な名前があるんだぜ」

「……『バルール』か。ってことは、お前があの噂に聞く、ヘパイストスさんの弟子か?」

「ああ、世界一の師匠の世界一の弟子さ」


 胸を張るバルディアに、ブラドは「ほお」と感心した表情を見せた。


「なんだ、随分面白そうな連中引き連れてるじゃねえか。冒険者登録をしたいとか言ってたな。ちょうど応接室が空いている。こっちへ来い。お前ら二人の実力、この俺が直々に見てやる」

「おう、望むところだ!」

「よろしくお願いします……!」


 バルディアは待ってましたとばかりに拳を握り、アヤメも覚悟を決めた表情で頷いた。


 周りの冒険者たちが「おい、ギルド長が直接かよ」「あいつら何者だ?」とざわめく中、エミルたちは奥へと通された。

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