第064話 新しい武器
ダンジョンに潜って三日後。
魔石を手に入れたエミルとアヤメは、工房へと戻ってきた。
扉を開けた瞬間、待ってましたとばかりにバルディアが駆け寄ってくる。
徹夜明けの顔だった。目の下には濃い隈が刻まれ、髪は煤けてぼさぼさ。それでも瞳だけが、ぎらぎらと輝いている。
「おかえり! 魔石は見つかったか?」
「ああ、ばっちりだ」
エミルが魔石を取り出すと、バルディアの顔がぱっと明るくなった。まるで自分のことのように、拳を握りしめて喜んでいる。
「これでアヤメの父ちゃんも助かるな!」
その言葉に、アヤメが小さく頭を下げた。
「ありがとう、バルディアちゃん……本当に」
「礼はまだ早えって。お待ちかねの物、ちゃあんとできてるぜ?」
バルディアは誇らしげに胸を張ると、作業台の上に並べた三つの武器を示した。
最初にバルディアがアヤメの前に差し出したのは、一振りの刀だった。鞘に収まっていてもなお、ただならぬ気配が伝わってくる。
「アヤメ、これがオマエの新しい刀だ」
「こ、これは……」
アヤメがおそるおそる刀身を引き抜くと、淡い光がほとばしった。
刃文は水流を思わせる優美な曲線を描き、鍔には月下の花を象った繊細な彫金が施されている。
「刀身には希少な魔石を使ってる。オマエの剣筋は速くてしなやかだからな。扱いやすさを重視して、極限まで軽量化してある。それでも、強度はそこらの鋼の数倍だぜ」
アヤメが刀を構え、軽く振ってみる。その瞬間、目を丸くした。
「……すごい。軽いのに、手に吸いつくような……まるで、わたしの動きに合わせてくれているみたい」
「柄には魔物が吐く特殊な糸を縫い込んであるからな。衝撃を吸収して、長時間振っても手が疲れにくいぞ」
「ありがとうございます。大切にしますね!」
アヤメは刀を胸に抱き、その瞳をきらきらと潤ませている。そんな彼女を見て、バルディアの表情がふと真剣になった。
「なあ、アヤメ。オマエ、本当に魔法は使えないのか?」
「……はい。適性がなくて」
「そっか……。いやな、師匠から聞いたんだ。カルフール家は代々、風の魔力を剣技に宿すって。オマエの兄ちゃんも風魔法を使うんだろ?」
「はい、兄は……。でも、父もわたしも、その才能はなくて」
「なるほどな……」
バルディアは腕を組んで考え込んでいたが、やがて、にっと笑った。
「さっき言った魔石、あれは刃に魔力を通す導線にもなる。今後もし魔力を操れるようになったら、その刀が必ずオマエの道を切り拓いてくれるはずだぜ」
「……! わかりました!」
アヤメの瞳には決意がこもっていた。
バルディアは満足げに頷くと、今度はエミルの方を向いた。
「ほらよ、エミル。オマエにはこれだ」
差し出されたのは、黒銀に輝く一対のグローブだった。
手に取ると、ずしりとした重みがある。だが、手首を通した瞬間、その重さが嘘のように消えた。
関節部分に魔石が埋め込まれている。試しに指を曲げると、淡い光が回路のように走った。
「……なんだこれ。すごいな」
「拳を握った瞬間、魔力が前方に集中する仕組みだ。今までみたいにただ殴るんじゃなく、一点を穿つイメージかな。攻撃力は段違いに上がってるぞ」
「へえ……制御は自動か?」
「ものは試しだ。拳を握ってみな」
言われるままに、ぎゅっと拳を握り込む。
その瞬間、体内の魔力が何の抵抗もなく指先まで流れていくのがわかった。まるで自分の延長線上に、もう一つの拳ができたような感覚。
「な、なんだこれ……まるで神経が繋がってるみたいだ」
「にしし、そうだろ。魔力の流し方に応じて、増幅率が変わる仕組みになってるんだ。オマエのあの黒い焔と合わせれば、盾みてえな硬いもんでも難なく破壊できるはずだ」
「いいなこれ。ありがとう、バルディア」
「にしし、良かった! 魔法属性にも反応するから、土魔法の出力も上がってるぞ。あとは実戦で掴んでくれ!」
最後に、バルディアは自分のガントレットを突き出した。
漆黒に赤みが差した金属が、鈍く輝いている。以前より攻撃的なフォルムに生まれ変わっていた。
「アタシのやつも、ちょいとばかし強化しといたぜ。火に特化した改良を加えて、威力も範囲も一段階上げてある」
爪は鍛え直され、魔力の通りを良くするための魔導線が爪の内側に刻まれていた。殴る、裂く、爆ぜる——単純だが極めて攻撃的な構造。いかにもバルディアらしい武器だ。
「コイツから出る爆風を応用すれば、色々おもしろいこともできそうだ……にしし」
「みんな強くなったな」
「ええ、本当に。ありがとう、バルディアちゃん」
「へへっ、まあな!」
バルディアは照れくさそうに鼻の頭を掻いた。
——『黒焔』が制御できる。
暴走した結果、ブラドを叩きのめしてしまった記憶が蘇る。制御できない力への恐怖。人を傷つけてしまうかもしれないという嫌悪。
——こいつがあれば。
エミルは静かに拳を握り込んだ。




