第9話
フランとリリーナは地下から脱出した後、国民に事の顛末を説明。一時的国は混乱状態に陥ったが、生き残った現王派の貴族達によって、数ヶ月で国民は元の生活を取り戻した。
原理主義派は大元を握っていたガリュオーンが居なくなったせいで統率を失い、貴族の私兵や生き残った兵士達によって討伐された。
そんな国の様子を尻目に、俺とサクラは近くの森を一つ借りて修行に明け暮れていた。
そんな生活をして、三年が経過した。
「・・・29、30!」
「よしお前様、いつものメニューで行くぞ!」
「はいはい。サクラも手加減してくれよ?」
「したら修行にならんだろう、がっ!」
サクラが狼の姿になり、森の中を駆け始める。サクラの全力疾走は、普通の人間であれば追い付くのは到底不可能だ。
だが三年。三年この森でサクラから直々に授業を受けた俺ならば。
「追い付けるぞ!」
「おっほぅ!」
木の根を飛び越える為に一瞬減速したサクラに向かって飛び掛る。常にトップスピードという訳では無い。サクラは巨体故に小回りが効かない部分がある、俺はそこを突いた。ハードルの要領で木の根を飛び越え、サクラの真下に滑り込む。
四本の足が俺を踏み潰さない様に広がり、サクラのお腹で押し潰される。
「大丈夫かお前様!」
「全然平気だ、この三年で鍛え上げられたからな」
サクラは慌てて俺の上から退くが、俺には傷一つない。この三年間、俺はサクラ指導の元ただ強くなるために修行した。
「追い付いたのなら捕縛してみろ!」
「今日こそ観念しろよサクラ!」
サクラが人間の姿に変わり、俺に向かって拳を向ける。空気を切り裂き、神速の正拳突きが繰り出される。俺はそれを手の平で受け止め、握り締めて力を加える。
「【反転】!」
「くぅっ!」
衝撃が反転し、サクラの腕にヒビが入る。サクラは腕を引き、代わりにもう片方の腕で連撃を繰り出す。
俺は一つ一つを受け流し、サクラの体勢を崩すべく足払いを仕掛ける。
「甘い!」
サクラは上空に飛び上がり、俺に向かって蹴りを入れようとする。だが俺はそのサクラの足を掴み、近くの木に向かって投げ飛ばす。
土煙が立ち上り、サクラの姿が一瞬消える。次の瞬間、槍状の木片が次々と俺の顔面目掛けて投げ付けられる。
「【反転】ッ!」
「あだっ!」
俺の手の平に触れた瞬間、木片は飛ぶ方向を変え元の場所目掛けて飛んでいく。
サクラが土煙の中から額を腫らし、そこを擦りながら現れる。
「基礎的な身体能力、我の使う格闘術、飛び道具に対する反転を使った戦法、どれも申し分ないな」
「ありがとうサクラ、こんなに長い間付き合ってくれて」
「何を言うんだお前様。我はお前様の伴侶、我に出来ることなら何でもやるまでよ」
「それは認めた覚えがないけどな」
汗をべっとりとかいた服をパタパタとはためかせながら、俺達は拠点にしている小屋に向かう。
小屋近くになると、サクラが警戒した様に動きを止めた。
「誰かいる」
サクラの言う通り、小屋の前にはフードを被った大小二人の人影が見えた。
「いるのは分かっている! 出てこい《《英雄》》!」
「・・・あんな呼び方するのはアイツくらいだな」
サクラは肩を竦めて立ち上がる。その物音を聞き、大きな人影は剣を構えた。
「久しぶりだな、リリーナ」
「ふん、驚かせるな」
「お久しぶりです! ジハード様、サクラ様!」
リリーナは剣を納め、小さな人影がぴょこんと前に出る。
「フランも久しぶりだな、元気にしてたか?」
「はい、お陰様で! 今日はお弁当を作ってきたので、後で食べませんか?」
「もちろんですよ、《《女王様》》」
あの頃のフランとは違い背丈も大きくなったが、一番変わったのは位の高さだ。今では一国を治める女王になったのだから、その心労は計り知れない。
「もう、昔の様にフランで構いません!」
「ははは、恐れ多いな」
「フラン様、公務の最中に抜け出している事をお忘れなく」
「は、はい」
俺達は小屋の中に入り、フランが持参したお弁当を広げて食べる。
リリーナは相変わらずフランの近くに立ち、身動き一つ取らない。
「それで今日は何の要件で? また魔物退治ですか?」
「いえ、それが・・・」
「煮え切らんなぁ、さっさと言ったらどうだ?」
「も、もうサクラさん! まだ心の準備が・・・」
何故か余裕の笑みを浮かべるサクラに対し、フランが怒った様に机を叩く。それを見ていたリリーナはため息をつき、自分の持っていたポーチから一枚の紙を取りだした。
「報告書だ。災厄の魔王、及び他の魔王に関する情報全て探った」
「おぉ、これは! ・・・読めん、お前様読んでくれ!」
「ええっと・・・災厄の魔王に関しては何も無く、魔王に関してはおとぎ話や古い伝承だけ?」
「国の復興やトラブルに見舞われつつも探った結果だ。特にここを見てほしい」
リリーナは紙の下の方を指差す。
そこには魔王に関しての最新の情報が乗っていた。
「魔王の窟?」
「そう呼ばれるダンジョンがある。由来や伝承などは掴めなかったが、未だに未踏破な部分が多く残る古いダンジョンのようだ」
「ここから遠いのか?」
「ガリュオーン王国から馬車で半年と言ったところだ」
「遠いな」
「お願いがあります!」
フランが唐突に頭を下げる。
「私もその旅に連れて行ってください!」
「フラン様! その話は諦めたと!」
「どうか、どうか私も!」
「ダメだ。一国を治める立場になったんだ、そう簡単に国からは離れられないだろう」
「ですが、どうかお傍に・・・!」
「俺がしようとしている事はとんでもなく危険な事だ、命の保証も出来ない」
「覚悟の上です! あの日命を、国を救われてから私は!」
俺はフランの頭を優しく撫でる。
何かを察したのか、フランは大粒の涙を流した。
「ま、お前様には我もいるしな」
「どういう事だ?」
「ん〜? 旅の伴は事足りているって事だたわけ!」
何故かサクラに怒鳴られる。
俺は事態をあまり飲み込めないまま、フランの頭から手を離した。
「フラン様に触れた無礼、その手首切り落としても?」
「ダメよ、リリーナ」
剣に手を置いたリリーナを、フランが制す。フランは空になったお弁当を片付け、フードを被って小屋の入口に走る。
「どうか、旅の無事を祈っています! お元気で!」
そう言い残し、フランとリリーナは帰っていってしまった。
サクラが俺の肩に肘を置き、大きなため息をつく。
「いい子だねぇ」
「・・・あぁ、俺には勿体ない」
「お前様には我がいるだろうが、このすけこまし!」
サクラは俺の尻を蹴り上げ、せっせと旅の準備を始める。
俺はしばらく誰もいなくなった扉を見つめ、サクラの準備を手伝った。
その日のうちに俺達は、ガリュオーン王国を離れた。




