第46話
「この程度!」
リーリャンの体は潰れて炎になり、腕を這うように登って巨人の頭を火だるまにした。
巨人は息苦しそうに顔を掻き毟るが、リーリャンは離れようとしない。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
「こいつが死んだら次はお前だ!」
「おやおや、恐ろしいですね!」
エルはリーリャンを気にする素振りだけを見せながら、視線と弓の狙いをベルフェゴール卿に向けている。
「やぁぁぁぁぁぁ!」
「おっと!」
ナナが大剣でエルを叩き切ろうとする。だがエルは瞬時に避け、テーブルと椅子が真っ二つになる。
「ぶっ殺してやるであります!」
「どいつもこいつも蛮族ですか?」
「暗殺企ててる奴がよく言うぜ」
エルの後ろに回り込んだサクラが、エルの肩を掴む。そして拳を握りしめ、エルの顔面にパンチを放つ。
「なっ!?」
だがサクラの拳はエルの顔面には届かず、突如現れたブラックホールの中に吸い込まれていた。
「はい、ちょきりとな」
「危なっ!」
ブラックホールが閉じる瞬間に、サクラは腕を引っ込める。ブラックホールは跡形もなく消え去り、嫌な笑みを浮かべるエルだけがそこに立っていた。
「惜しいですね、あと少しで腕を落とせたのに」
「にゃろ、瞬き一つしやがらねぇ」
「主様!」
ナナが飛び上がり、サクラに合図を送る。
サクラはそれを瞬時に理解し、エルを素早く足払いで転ばせる。
ナナは大剣をエルに目掛けて振り下ろす。
「だから無駄ですって!」
またエルの目の前にブラックホールが現れる。しかしナナは空中で一回転し、地面に着地。そして落下する大剣を真横に振り抜き、ブラックホールを上手く躱した。
「うぉっ!」
エルは潰れる様に地面に伏せ、ナナの大剣を避ける。それと同時に弓を引き、ベルフェゴール卿に矢を放った。
「【反転】! ベルフェゴール卿は俺が守る、サクラ達はそいつに集中しろ!」
俺はひりつく手のひらを空中で振りながら、ベルフェゴール卿の前に立つ。
俺がいる限り飛び道具は効かない、問題は巨人だけだった。
「離れて!」
リーリャンの声と同時に、ナナの上に巨人が落下する。呼吸器を焼かれた巨人は息を止め、力尽きてその場に倒れたのだ。
リーリャンは人の姿に戻り、巨人の上に着地する。
「あっぶねぇでありますね!」
巨人の体を切り裂き、ナナが姿を見せる。
エルを三人で囲い、エルの反応をうかがう。
「お前は僕が殺す」
「ナナがやるであります」
「我がやってもいいんだぞ?」
「血気盛んですね、一度落ち着かれては?」
エルの一言に、各々が攻撃の準備を整える。
その瞬間、大広間の扉が開け放たれた。
それと同時に突然、大吹雪が部屋の中に降り注ぐ。
「なんだ!」
「ベルフェゴール卿、俺の後ろに!」
俺はベルフェゴール卿を自分の真後ろに寄せ、吹雪の出処を見つめる。開け放たれた扉の向こうに、誰かが立っている。吹雪はそいつから渦を巻くように放たれていた。
「扉の場所に誰かいるぞ!」
「こんな吹雪が僕に効くものか! 【フレイム】!」
リーリャンが手から魔術の炎を放ち、扉の周辺を火の海にする。
「熱い・・・僕はこんな役回りばかりだ」
「誰だ!」
「遅かったですね、《《七騎士》》のB」
ビィと呼ばれた男は白いため息を吐きながら、大広間に入ってくる。一歩一歩踏みしめた地面が凍り、足跡が氷柱の様に生えている。
「外は制圧完了したよL、あとは目標を殺すだけ?」
「そうです! 私とBがいれば無敵です! さぁやっておしまいなさい!」
「はいはい・・・!」
また吹雪が吹き荒れ始める。一瞬で周囲が白く暗転し、視界が奪われる。
『舐めるなぁ!』
リーリャンが炎を纏った鳥になり、吹雪の中で明るく輝く。そんなリーリャンの体に、紐の付いた矢が何本も突き刺さる。
『こんな弓矢程度で殺せるものか! 死ね!』
リーリャンは弓矢が飛んで来た場所に炎を吐く。だがそこには何もおらず、リーリャンは周囲に警戒を移す。
その瞬間、リーリャンに刺さった矢が次々と爆発した。
『ぐはっ!』
「リーリャン!」
「どうですか! 私お手製爆弾矢の威力は! 不死鳥すら殺すをセールストークにしましょうかねぇ!」
『この程度の痛み、レニィの街のみんなに比べればぁ!』
リーリャンは炎の温度を上げ、周囲の雪を溶かしていく。
そしてついに、ビィの姿を捉えた。
『燃え尽きろ! 【ファイアブレス】!』
更に高温の炎を吐き出し、ビィを焼き尽くす。だがまるで液体の様にビィは溶け、その場に崩れ落ちる。
「残念、それは雪像だよ」
俺の背後で声が聞こえる。
振り向くと、いつの間にかビィがベルフェゴール卿の後ろを取っていた。
そして、その後ろには笑顔のサクラが立っていた。
「うんうん、知ってるよ」
「えっ」
「おらぁ!」
サクラがビィを殴り飛ばすと同時に、吹雪が止む。
ビィは頬を抑えながら、逃げようと床を這う。そしてその背中をサクラに踏み付けられる。
「ふ〜ん氷柱の剣ねぇ?」
「ど、どうして僕の場所が!」
「お前らの目的は最初から変わってない、ならそこを狙うのは当然だろう?」
サクラは足を振り上げ、ビィの背中に踵落としを入れる。ビィは一度大きく仰け反り、そのまま地面に伸びてしまった。
「さて、あとはお前だけだな。エル」
「主様、旦那様、リーリャン。ここはナナに任せて欲しいであります」
ナナが前に進み出る。
「ベルフェゴールが招いたトラブルは、ベルフェゴールが解決するであります」
「・・・チッ、好きにしなよ」
「我はどっちでもいいぞ」
「ナナ、任せたぞ」
「ありがとうであります」
ナナは大剣を持ち上げ、エルに剣先を向ける。
「我が名はナナ・ベルフェゴール! 父を殺そうとした罪、そして魔族全体を弄んだ罪! ここで命をもって償わせるであります!」
「いいでしょう! 《《七騎士》》のエル、ボーディガン様の野望の為に皆殺しにして差し上げましょう!」




