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第32話

俺達は夜風を浴びながら馬車を走らせ、街から離れた平原までやって来ていた。

目印などはなく、平原の中にぽっかりと洞窟の入口が開いていた。


「ここか?」

「あぁ、間違いない」

「むむむ、確かにこの下から魔王の気配がするでありますね」


ナナが洞窟に足を踏み入れ、ぴょこぴょこと動くアホ毛を指さす。確かに洞窟の中に向かって伸びているように見える。

その時、サクラの鼻先に水滴が落ちてきた。


「ん、雨だ」

「濡れないように中に入ろう、馬は・・・そのままでいいだろう」

「ナナが先頭を行くでありますね」


ナナは大剣を引き抜き、洞窟の奥へと向かっていく。俺とリーリャンがその後に続き、サクラは一番最後に着いてくる。

洞窟の中は湿っており、湿気が充満している。雨のせいで月明かりも射し込まず、更には斜面になっているため雨が足元を走り抜けていく。


「足元気を付けろよ、こう暗いと足元も見えない」

「明かりなら僕が何とかしよう」


そう言うと、リーリャンの体がほのかに光を放ち始めた。


「体内で炎を燃やして光源となろう、これで足元も・・・」


そう言葉を続けようとしたリーリャンの首に、何かが撃ち込まれる。リーリャンの首には丸く穴が開き、そこから血がダバダバと噴き出す。


「敵襲であります!」

「洞窟の奥から何かが飛んで来ているぞ!」


リーリャンの首の穴から炎が溢れ出し、あっという間に再生する。洞窟の奥からの攻撃は、まるでリーリャンを狙っているかのように飛んでくる。


「僕がそんなに狙いやすいか! 【ファイアボール】!」


リーリャンの指先から火球が飛び出し、洞窟の奥へと飛んでいく。

一瞬の静寂が流れ、洞窟の奥から大量の攻撃が飛んできた。


「ぐっ! 超高圧縮した水だ!」


体に攻撃を受けながら、リーリャンがそう叫ぶ。

それを聞いたサクラは壁から岩を引っペがし、前方に向かって投げ付ける。一瞬で岩は穴まみれになり、その場に小石となって散らばる。


「ふむ、なるほど」

「どうする!」

「我が行こう、地面スレスレなら当たらん様だしな!」


サクラは人の姿で四足歩行になり、地面を滑るように洞窟の奥へと走って行った。俺達は岩陰に隠れながら、水の弾幕が止むのを待つ。

数十秒も経たないうちに、水の弾幕は止んだ。


「今であります!」

「おい待て! あの魔王がやられたって可能性も考えろ!」

「そんな事絶対ありえないであります、ナナは主様の実力をきちんと知ってるでありますからね」

「俺も同意する、サクラが負けるなんてありえない」

「ったく、少しは考えたらどうなんだ!」


俺とナナが岩陰から飛び出し、洞窟の奥へと走っていく。遅れてリーリャンが飛び出し、あっという間に俺達に追い付いた。


「お前様、ナナ、来たか」

「ここは?」


サクラは地底湖の入口で待っていた。その周辺に敵らしき影もなく、ただ漫然と地底湖が広がっていた。


「敵は?」

「我がここに来たらもういなかった」

「いなかった?」

「あぁ、影も形もない」

「う〜ん、でも反応は地底湖からするでありますね」


ナナは水面を覗き込む。次の瞬間背後に向かって勢いよく飛び退いた。


「目が合った! 目が合ったであります!」

「落ち着け、何とだ?」

「水自体とであります!」

「どうやら僕達は既に魔王のテリトリーにいるらしいぞ!」


リーリャンが叫ぶと同時に、地底湖の中心部分が盛り上がる。まるで水が形を得たように、中央には二つの目があった。


『我は不死魔王ヴェール、我の住処に何の用だ』

「スライムか!」

「ガルガンチュア程ではないですが、デカいでありますね」

「地底湖丸ごとコイツの体って訳だ」


ヴェールの問いかけに、リーリャンが進み出る。


「魔族の未来の為に、僕の成長の為に、魔王になった時の事を教えてもらいたい!」

『断る』

「どうして!」

『我にメリットがない、我は自分の得を追求する』

「そんな・・・何が欲しい?」

『我は力を欲する。更なる力、更なる命、不死であるが故に求める』


サクラがリーリャンを押し退け、一歩前に進み出る。


「じゃあこうしよう、我がお前を死ぬ寸前まで痛ぶる。そうすれば今ある命の大切さに気付いて、更なる命だとか傲慢な事言わんくなるだろう」

『不可能、我は不死なり』

「そう言ってた奴らを殺して来たのが我だ!」


サクラが地面を蹴って飛び掛る。

一瞬でヴェールに対して距離を詰め、その目玉を爪で引き裂く。だが切り裂かれた目玉は水に溶け出し、水面でまた新たな目玉として再形成された。


『敵と認識、排除する』

「先に撃って来たのはテメェだろうが!」

「ナナ、俺達も行くぞ!」

「はいであります!」


俺はナナに合図を送り、別々の方向に走り出す。ヴェールの目玉は相変わらずサクラの方を向いており、当のサクラは目玉を執拗に追い掛けて泳いでいる。


「勇者流・斬撃波!」


ナナが剣で衝撃波を飛ばし、水面を目玉ごと抉りとる。空中に飛び散った水滴が集まり目玉となり、ナナを見つめ動きを止めた。


「避けろナナ!」

「うわっと!」


超高圧縮された水がまるでビームのように、ナナに向かって飛んでいく。ナナは俺の声掛けで咄嗟に回避し、背後にあった岩に巨大な穴が空く。


『標的変更』

「今度は俺かよ!」


目玉は水中に戻り、幾つにも分裂して水柱を立てた。水柱は地底湖の天井に突き刺さり、神殿の柱の様にいくつも立ち並ぶ。


「【反転】!」


目玉が俺に狙いをつけ、水のビームを放つと同時に反転させる。俺の手に触れた瞬間水のビームは反転し、目玉を撃ち抜き水柱をへし折った。


「手応えなしか」

「よく見ろお前様、目玉は同じ組織で構成されている!」

「つまり地底湖に寄生したスライムって事か!」

「なら目玉を切り離して隔離すれば弱体化するでありますね!」

『不可能、お前達には出来ない』

「やってみなきゃ分からんだろうが!」


サクラが壁を蹴り、勢いよく水面に突撃する。吹き飛んだ水飛沫の中に目玉の一つが混じっており、地底湖部分から切り離され壁に叩き付けられる。


「捕まえろ!」

「分かったであります!」


壁に叩き付けられ地面に落ちた目玉を、ナナが捕まえようとする。だがナナが触れる直前に目玉は水に変化し、手をするりと抜けて地底湖へと流れていってしまった。


「水になるから捕まえられないであります!」

「どうすれば・・・!」

「僕に任せろ! もう一度目玉を飛ばしてこい!」


リーリャンが名乗りをあげる。サクラは大きく頷き、天井から垂れ下がる鍾乳石から水面に向かって飛び込む。目玉がまた地上に打ち上げられ、リーリャンが駆け寄る。


「【フレイム】!」

「おぉ! 水になった目玉が蒸発している!」

「僕はこう見えても魔術師でね、こういう時には役に立つのさ」

『排除』


水柱から一斉に水のレーザーが放たれ、リーリャンを穿つ。穴だらけになったリーリャンの体は燃え始め、一瞬で穴が塞がった。


「僕は不死鳥、そんな攻撃で死ぬ程ヤワじゃない!」

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