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第30話

街の地下にはコロシアムが内蔵されており、その中央では剣闘士らしき男達が拳を交えていた。

それを見るなりサクラは目の色を変え、階段を駆け下り観客の最前列に割り込んで行った。


『地下格闘大会、大盛り上がりです! 現在八連勝中のチャンピオンを打ち倒す者はいるのでしょうか!』

「なぁなぁお前様! 飛び入り参加とか許されるかな!」

「いやダメだろ、見るだけにしておこうぜ」

「くぅ〜〜〜! やっぱり戦いはいいな、我はこういう手に汗握るものの方が好きだ!」


コロシアムではチャンピオンの一撃が挑戦者に入り、挑戦者が担架で運ばれていく最中だった。


『次の挑戦者いないか!? 飛び入り参加もOKですよ!』

「聞いたか!? 我は行くぞ、止めてくれるなよ!」

「おい待て!」


サクラは安全の為に備え付けられた柵をよじ登り、コロシアムの中に入っていった。


「我こそは! ・・・名も無き闘争者サクラ、貴様に挑戦してやろう!」

『ここで新たな挑戦者だ! チャンピオンは挑戦を受けるようです!』


高らかにゴングが鳴り響き、サクラの猛攻がチャンピオンを襲う。ドレスを着ているにもかかわらずサクラの動きは俊敏で鋭く、チャンピオンは為す術なく防戦一方だった。


「こんなものかこんなものか! 我はまだまだ満足していない!」

『ドレス姿の挑戦者、まるで舞踏会の様な華麗なステップでチャンピオンを圧倒しているぞ!』

「もっと速度を上げるぞ、ついてこい!」


サクラのラッシュの速度が一段階早くなる。チャンピオンは防ぎ切れず、サクラのラッシュをモロに食らい吹き飛ばされる。


『ここでチャンピオンダウン! 新チャンピオンが誕生だ! まだまだ挑戦者を求めているので、腕っ節に自信がある者は飛び入りOKだ!』

「サクラ! あまり無茶するなよ!」

「もちろんだお前様! こんな奴ら我の敵では無い!」


その一言にカチンと来たのか、数人が柵を乗り越えコロシアムに降り立った。腕っ節に自信がありそうな奴らだが、サクラの敵ではないだろう。

俺は最前列から後ろに下がり、コロシアムが見下ろせるベンチに腰を下ろした。


「・・・」

「ん?」


さっきまで感じなかった視線を感じる。俺が振り向くと、そこにはフードを深く被った男が立っていた。


「えっと、誰ですか?」

「・・・」


その男は無言のまま、俺を見つめて立ち尽くしている。俺もベンチから立ち上がり、その男の顔をよく見ようとした。

その瞬間、男が俺の胸ぐらを掴みあげた。


「ぐっ!?」

「・・・」


男は顔を近づけ、俺の顔をじっくりと観察する。そして自分のフードに手を掛け、一気に引き剥がした。


「う、そ・・・だろ?」

「どうしてこんな所にいる」


男は短くそう言った。

俺はその男の顔に見覚えがあった。見覚えがあるなんてものじゃない。生まれてこの方忘れた事はない。あの時から、俺の悪夢に現れる。あの森で付けられた背中の傷が痛む。

そこにいたのは俺の兄、ベレッタ・バレンタインだった。


「兄上・・・?」

「何故だ、何故この街にいる」

「どうして兄上が、ここに・・・まさか俺を追って!」


俺は兄上の腕を掴み、脱出しようとする。しかし、俺の腹部に冷たいものが突き付けられた。


「騒ぐな、動くな」

「く・・・! 殺しに来たのか・・・!」

「・・・この街から失せろ」


兄上はそう言い放ち、俺を床に投げ捨てた。腹に刺傷もなく、俺は無事だった。

兄上はまたフードを被り直し、俺に背を向けて去って行った。俺はただ呆然と、その背中を見送る事しか出来なかった。


「はぁ、はぁ」


今更になって動悸が激しく鳴り響く。心音が脳に反響し、耳鳴りに近い音をうち鳴らす。汗が大量に噴き出す、目に入った汗が視界をぼやけさせる。俺は腰を抜かしたまま、コロシアムの最前列に向かう。


「サクラ! 戻るぞ!」

「なんだ? 我はまだ戦い足りん!」

「いいから!」

「しょうがないなぁ」


サクラは頬を膨らませながら、自分が倒した挑戦者達を足場にして柵をよじ登る。

俺の目の前に降り立ったサクラは、俺に起きた異常事態を感知したようだった。


「何があった?」

「兄上が・・・いた」

「何かされたのか、大丈夫か?」

「この街を出て行くよう言われた・・・俺は、どうすればいい?」

「落ち着け、一度宿に戻るぞ」

「あ、あぁ・・・」


俺はサクラに支えられながら、来た道を戻る。いもしないはずの兄上の襲来に怯えながら、情けなくサクラにそれを支えてもらっている。街中に出た時、俺の視界は激しく白んだ。

行き交う人々は皆顔を隠している。それが全て兄上の変装に見えた。

俺は理解した、あの夜起きた事が。あの時俺の見に起きた全てが。俺にとって深いトラウマになっている事を。


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