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第27話

朝の陽光が差し込む。俺の顔に直撃する陽の光を鬱陶しく思いながら、ゆっくりと体を起こす。

サクラは俺の隣で腹を出して寝ていた。仕方なく布団を掛けてやり、ベッドから抜け出す。


「おはようございます、旦那様」

「あぁ、ナナ。おはよう、今日も早いな」


ナナがサクラを起こさないように小声で話しかけてくる。ナナはテーブルの上に置かれたパンを半分ちぎり、俺に差し出してくる。


(起き抜けにパサパサのパンかぁ)

「コーヒーもあるでありますよ」

「・・・もらうよ」


ナナとは最近別行動が多かった。ナナはこの数日早朝に街に繰り出し、夜になって帰ってくる生活をしている。俺はと言えば、日中は寝るか街を散歩するか、サクラに言われた通り身体がなまらないように鍛錬する位だ。

肝心のサクラは大体寝るかフラフラと街に行くか。最近はつまらなさそうな顔を良くするようになっていた。

資金面ではまだ安心出来るが、刺激と言う点に置いては危機的状況だろう。


「旦那様」

「ん、どうした?」


俺はナナから受け取ったコーヒーを飲みながら、パンを噛みちぎる。


「本日はナナとお出かけしていただけませんか?」

「いいけど、どこに行くんだ?」

「それは秘密であります、準備が出来たら宿の入口に来てください。待ってるでありますからね」


ナナはウインクを残し、部屋から出ていってしまった。俺はパンの残りを口に詰め、服を着替えて宿の外に出た。


______________________

「お待たせ、ってなんか着替えてる」

「おでかけでありますからね、街の雰囲気に溶け込む施策でありますよ」


宿の入口にもたれ掛かるように、ナナは俺を待っていた。

ナナの服装はいつもの赤黒い鎧とは打って代わり、モノクロトーンのズボンと薄手のジャケットを羽織っていた。白くて長い髪の毛を後ろでいっぺんに纏め、だらりと垂れ下がったポニーテールが頭の動きに沿って揺れ動く。

目元は色の薄いサングラスで隠し、ナナのギラついた目の印象を薄めている。


「似合ってるな。それでどこに行くんだ?」

「まずは服屋でありますね。エスコートするでありますよ、旦那様」


ナナは俺の手を取り、目配せをした。ナナの独特な色気の様な物に当てられたのか、少し胸がドキドキする。


「旦那様は普段は何しているのでありますか?」

「俺は普通に・・・特に何もしてないな」

「まぁ情報が集まるか集まらないかは、リーリャンの働きによるでありますからね」

「そう言うナナは何していたんだ?」

「ナナは色んなお店を見たり、情報を集めたりしていたでありますよ」

「ちゃんとしてて偉いな、俺は街の雰囲気に飲まれて情報なんて集められそうになかったよ」

「魔族が多いでありますからね、人間とはコミュニケーションが違うので致し方ないでありますよ」


ナナが足を止める。俺はその店を見て、首を傾げる。


「男用の服屋か?」

「そうであります! まずは旦那様の服を見ようかと!」

「だから俺を連れて来たかったんだな」

「ささ、どうぞ中へ」


店の中に入ると、様々な服がハンガーに掛かり陳列されていた。価格帯としては中の上当たりから上が揃えられている店で、どれも生地からしっかりしているように見える。


「いらっしゃいませ! おや、ナナ様。本日はどの様なご要件で?」

「店主殿、この方の採寸を頼みたいでありますよ」

「あぁ例の」


店主は俺の前に来て、静かに頭を下げた。


「私はこの店の店主、イーゴルと申します。よろしくお願い致します」

「あぁ、どうも。ジハード・アーサーです」

「ナナ様には最近お世話になっていたんですよ、どうぞどうぞこちらへ」


ナナが手を振り見送る中、俺はイーゴルの持つ巻尺で採寸を受ける。何が起きているかは分からないが、勝手に話が進んでいるのは分かる。


「あの、一体ナナは何をしようとしているんですか?」

「おや、まだお聞きになっていないので? なら秘密に致しましょう、サプライズと言うやつです」

「はぁ・・・ナナは普段何を?」

「老体である私を気遣い店の手伝いをしてくれたり、倉庫から代わりに服を持ってきてもらったりと大変助かっております」

「どうして・・・? ここはナナの思い出のお店なんですか?」

「いえ、初めて来店されたのは数日前です。服を見に来られた時に、私が体調を崩していたので・・・」


イーゴルの話を聞き流しながら、俺は思考を巡らせる。ナナは何を企んでいるんだ、何も理解出来ない。ナナの事はつくづく分からない奴だとは思っていたが、突然俺の採寸をし始めるなど常軌を逸している様に思える。


「はい、終わりました。夕方頃には調整が終わっております、またお寄り下さい」

「さすがイーゴル、仕事が早いでありますな。さ、旦那様。次の店に行くでありますよ!」

「まだあるのか?」


ナナはまた俺の手を引き、街の中に繰り出す。通りをいくつか抜けると、土産物やアクセサリーを取り扱う屋台が多い通りに出た。


「旦那様、主様にプレゼントを買っていきませんか?」

「プレゼント?」

「そうであります! 主様に」

「どれが似合うかな・・・」

「旦那様のセンスに任せるでありますよ」


突然の押し付けに、俺は戸惑いながらも屋台を見て回る。

指輪、ネックレス、ピアス、色んな宝石や装飾が散りばめられた物から、簡素な作りで動き回るのに邪魔にならないような物まで。色んな物が並べられていた。

そんな中、俺は一つの屋台の前で立ち止まる。


「桜だ」

「どうしたであります?」


俺は吸い込まれるように一つ、手が伸びる。それは桜の花びらの様な形の、銀のネックレスだった。


「目がいいね兄ちゃん、それは異国の花を再現した首飾りだよ」

「値段は?」

「少し高いが、これくらいだ」


店主が提示した額は、払えなくはない程度の値段だった。ただ俺の一存でこれを買っていいのかと、少し葛藤する。


「じゃあ、これで」

「あいよ、毎度あり」

「後贈り物用に包装して欲しいであります」

「分かったぜ」

「え?」


いつの間にか、横からナナが支払いを済ませる。店主は桜のネックレスを紙袋に入れ、俺に手渡した。


「ナナ、どういう事だ?」

「まぁまぁ、それ落とさないように気を付けるでありますよ」

「あ、あぁ」


てんでナナの行動が分からない。思考を一つも読めない。ただ悪意は一つも感じられない。


「どうしてこんな事してるか不思議に思っているでありますね?」


ナナは心の中を見透かした様に、問いをなげかける。俺は思わず黙ってしまい、そのまま首を縦に降った。


「ふふ、お昼ご飯にするであります。いい店を知ってるでありますよ」


またナナは俺の手を引き、通りをスルスルと歩いていく。リードされっぱなしの俺は何も言えず、ただナナに従う事しか出来なかった。

ナナがたどり着いたのは、賑やかな大通りから離れた小さな路地のレストランだった。俺達はテラス席に座り、ナナが慣れた様子でウェイターを呼び付ける。


「看板に書いてあった本日のおすすめを、旦那様は何にするでありますか?」

「じゃあ、俺もそれで」


ウェイターはすぐに注文を書き留め、店の中に下がる。

ナナは俺の目を見つめながら、ゆっくりと微笑んだ。


「旦那様、これ。なんて言うか知ってるでありますか?」

「これ? これってどれだ?」

「デートでありますよ、男女が共にお出かけする行為であります」

「まぁ・・・いや、好意を持った男女二人だ」

「ではこれはなんと形容するであります?」

「・・・お出かけ?」

「ふふ、小賢しいでありますね」


ナナは平気な顔をしながら、俺の手を取る。その動作があまりにもスムーズで、俺は思わず手を引いてしまった。


「旦那様、主様の事どう思ってるであります?」

「どうって、どうもこうも・・・」

「好いてはいるんでありましょう?」

「好きとか嫌いとかそういう話じゃなくって・・・旅の仲間って話で」

「じゃあ別に主様じゃなくてもいいんでありますね?」


するりと伸びてきたナナの指が、俺の手に絡まる。小さく舌なめずりをするナナに、俺は思わず反射的に席を立とうとしてしまった。

だがナナが手に力を込め、それを制止する。


「ナナ、いい加減に」

「ナナか主様、どちらか選べと言われたらどうするであります?」

「いい加減に!」

「答えて欲しいであります」


ナナの真剣な目に、思わず俺は怯む。縋るような目ではない、一縷の望みを掛けている様子でもない、涙を浮かべる様子も、脅迫する様子もない。俺にはナナの行動が理解出来なかった。

だから俺は、正直に答える事にした。


「・・・頼りになると思ってる、二人とも」

「それで?」

「俺としてはどちらも大切な仲間だ、どちらかを選ぶなんて出来ない」

「どちらか、選んでください」

「・・・・・・申し訳ないが、俺はサクラを選ぶ」


そう答えると、ナナはクスリと笑って俺の手を離した。


「や〜っぱり好きなんじゃないでありますか〜!」

「な、なんだよ」

「ウジウジしてないでとっとと抱けって話でありますよ」

「急になんだよ!」


俺は思わず激昂し立ち上がろうとしたが、料理が運ばれてきた為落ち着きを取り戻した。


「冷めないうちに食べるでありますよ」

「本当になんなんだよ・・・」

「ん〜スパゲッティでありますね、美味しいであります〜!」


美味しそうに食事を摂るナナを見て、益々訳が分からなくなった。俺のスパゲッティは、味が特にしなかった。


「さて。食事も済ませましたし、次の場所に行くでありますよ」

「待てよ、さっきの話の続きだが」

「それはお預け、でありますよ」


ナナは俺の顔の前に手をかざす。

俺は渋々ナナに手を引かれ、またレニィの街を歩き始める。

すると先程見た通りに戻ってきた。


「服屋のあった通り?」

「次はここであります」


ナナが指を刺したのは、女性用の服屋だった。

俺を引きずり込むような形で店に入ったナナは、店員に声を掛け店の奥から大きな箱を持ってきてもらった。


「ご注文の品です」

「ありがとうであります! 旦那様、持ってください」

「荷物持ちかよ・・・」


俺は渋々その箱を持ち、ナナの後に続いて店を出る。

また通りをするりと歩き、朝来た店に立ち寄る。


「店主、どうでありますか?」

「えぇ、もう仕上がっております。簡易の包装もして用意しております」

「それじゃあ旦那様、それも持ってください」


俺は両手で抱えていた箱の上に服の入った紙袋を乗せ、ナナの後に続いて店を出た。


「それじゃあ帰るでありますよ!」

「なぁ、本当に今日はなんだったんだ?」

「まぁ帰ってからのお楽しみでありますよ」

「今じゃダメなのか?」


ナナは俺の様子を見つつ、宿に向かって歩を進める。

俺は正面すらまともに見えない荷物を持ちながら、ナナの後を必死でついて行く。宿に着く頃には空は暗くなっていた。


「ただいまであります!」

「・・・」


部屋に戻ると、サクラが布団を頭から被って眠っていた。俺は荷物を降ろすと、そのまま椅子に座った。


「お疲れ様であります、旦那様!」

「本当になんだったんだ? そろそろ教えてくれよ」

「ふっふっふっ、教えてあげるであります! それは」

「黙れ」


サクラが低い声で唸るように声を出す。それと同時に爪が伸び、ナナの目前を掠めて壁に突き刺さる。


「我というものがありながら、随分楽しそうだったじゃあないか。お前様、ナナ」

「えぇっと、どういう事だ?」

「我を差し置いてナナと手を繋いでスパゲッティ食ってた!!! お買い物もしてた!!!」

「あぁ見てたのか? 俺も連れ回されただけなんだよ」

「そうであります! 今日の目的はただ一つであります!」


ナナはそう言って、俺が持たされていた箱を開封した。そこには綺麗なドレスが入っており、後ろには尻尾を通す為の穴が空いていた。


「お二人、明日デートしてくるであります」

「「はぁ?!」」

「その為の服やセッティングはナナがやっておいたでありますから、お二人は気にせず楽しんでくださいませ」

「な、なんでそんなこと」

「そうだ! どうしてそんな・・・」

「旦那様が寝た後愛おしそうな顔で小さく鳴きながら寝顔見てるの知ってるんでありますからね!? それに対して《《コイツ》》は無自覚過ぎるし奥手だしで我慢の限界なんでありますよ! いつまでうだうだ言い訳しながら旅するつもりでありますか? ここで一発スパッと思い伝えあって解決しろであります!」


ナナは怒りながら紙袋から服を取りだし、俺に投付ける。中身は俺用に丈が調整されたスーツの様な服で、採寸された事を思い出した。


「まさかその為に今日一日連れ回したって言うのか?」

「そうであります! 今日の事思い出して、明日ちゃんとやり切ってくださいよ! じゃ、おやすみであります!」


ナナはそう言い切ると、ベッドにダイブして寝息を立て始めた。よく見ると目元には隈が出来ており、証言通りサクラによって睡眠が妨害されていたのが見て取れる。


「そんな事、してたのか?」

「し、していない! ・・・ちょっとしか」

「どうして?」

「だって、だって・・・」

「うるせ〜であります! とっとと二人も寝ろでありま〜す!!!」


俺達はナナの手によってベッドに引きずり込まれ、強制的に眠りの体勢につかされる。

以外にも暖かいナナの体温で、俺はすぐに眠ってしまった。

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