エピローグ
俺は兄上の手を取らなかった。
「ごめん兄上、俺は出来ないや」
「どうしてだ、もう父上はいない」
「なんと言うか・・・兄上も大切だけど、俺には今の仲間の方が大事なんだ」
「そうか・・・自分の道を進むのか、成長したな」
「俺は旅を続けるよ。サクラ、ナナ、リーリャン達とな」
「それは出来ない相談でありますね!」
部屋の外から、ナナの声が聞こえる。
扉を開けて入って来たのは、ナナとリーリャンだった。
「ナナ! リーリャン! もう大丈夫なのか?」
「もちろんであります!」
「不死鳥だからね、当然さ」
「それで、どうして出来ないって?」
ナナは腕を組み、俺の前で指を天に立てた。
「ナナは父様の元に帰るであります!」
「え? どうして?」
「旅の目的であった魔王討伐は果たしたと判断したであります! だから家に帰り、父様と一緒にガタついた魔族の立て直しをするであります!」
「そっか・・・そうだな、大事だもんな」
「そして人間や他種族との交友を行い、魔族への偏見を消して世界平和を目指すであります!」
「急に飛躍したな?!」
「な〜にを言うでありますか! ナナは勇者、世界平和を目指すのは当然であります!」
ナナは腰に手を当て、ふんぞり返って鼻を鳴らした。
ナナらしい目的と言える、俺は思わず笑顔になった。
「ジハード、実は僕も手伝えないんだ」
「そうなのか? ・・・いや、リーリャンは故郷があるもんな」
「そうだ、僕にはレニィの街の復興があるんだ」
リーリャンは鼻を擦りながら、俺から目を逸らす。
「言い方が悪いけど、今回の件で人間は進軍に使える優秀な駒を失った。その隙にレニィの街を取り戻して、ナナの手を借りつつ復興をしようと思うんだ」
「そっか、故郷は大事な事だもんな。いいと思うぞ!」
「まぁ、たまには遊びに行くでありますよ!」
「あぁ、手が空いたり余裕が出来たら揃って遊びに行くよ」
ナナとリーリャンは俺に笑顔を向ける。
「あぁ、待ってる。・・・そういえばホバとサクラは?」
「・・・」
二人の顔が暗くなる。
「えっと・・・ホバは・・・」
「ホバは居なくなったであります」
「居なくなった・・・?」
「このメモが残されていたらしいであります」
ナナは小さなメモを取り出した。
【王の元へ、風となって】
短く、そう書かれていた。
「そうか・・・サクラは?」
「・・・」
「じ、ジハード」
リーリャンが俺に声を掛ける。
ナナはそんなリーリャンを見て、首を振った。
だが、リーリャンは俺の肩に手を置いた。
「サクラは・・・?」
「・・・今ならまだ間に合う」
「え?」
「主様は、もう出発したであります」
「・・・は?」
理解が追い付かない。
出発、どこに。俺を置いて。
「行け、ジハード。まだ間に合う!」
「主様は覚悟を決めていたのであります」
「それでも行け! 行けジハード!」
俺は布団から抜け出し、ガクつく足で立ち上がる。
一度切断された下半身は言う事を聞かず、まともに動いてくれない。
「サクラ・・・サクラッ!」
俺は駆け出す。
アテも無いが、確信があった。
城の入口を抜け、街を転がる様に駆け抜ける。
街の入口に辿り着いた。
そこには、サクラの姿があった。
「サクラ!」
「なんで、なんであの手を取らなかったんだ」
「見てたのか・・・いや、言った通りだよ。俺はサクラといた方が楽しいんだ」
「うるさい! 我は、我は魔王だ。旅は辛く厳しいものだぞ!」
「でも俺は、サクラと一緒なら楽しいと確信してるよ」
「〜〜〜ッ!」
サクラは拳を固め、両目いっぱいに涙を溜める。
俺は覚束無い足取りで、サクラを抱き締める。
「俺も連れて行ってくれ」
「・・・どこまでも、一緒だぞ。お前様」
「あぁ。愛してる、サクラ」
俺は狼の姿になったサクラに乗り、俺達はガリュオーン王国を去った。
俺達の旅は、また始まった。
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その後。
・ベレッタ・バレンタイン
ベレッタは家を継ぎ、逆風の中家を立て直そうと努力した。今までのレオーネの暴走や他貴族への威圧で反感を買っていたせいで、家はゆっくりと衰退の道を辿る。後年貴族の称号を剥奪されるが、家族を大切にして静かにその生涯を老衰で終える。
・L
エルは治療後身柄を人間連合に拘束され、後に復興されたエルフの国に引き渡された。
ボーディガンの乱の実質的指導者として、その生涯をエルフの国の牢獄で過ごす。獄中からエルフの現体制の不合理性を訴え、それが若いエルフ達から反響を受ける。エルフの国は長い時を掛けて変化し、ギフトを使う事を許容する合理性のある文化に進化した。その始まりは、確かにエルのおかげだった。
・フラン・ガリュオーン
フランはボーディガンの乱を収めた功績者として、人間連合の中でも発言力を持つ。国民からの求心力も高まり、国は活性化。類い稀な好景気を記録した。
後に魔族との共存に関して、連合国の中でも推進派として活躍。腹心のリリーナに支えられながら、立派に国を発展させた。
各地で発生した魔王出現にも迅速に対応し、即座に兵を派遣するなど人間連合内では英雄視される。
原理主義者や人間連合内での立場を狙う者達に生涯に渡って暗殺を仕掛けられるが、腹心のリリーナと王国軍が全て撃退。晩年は自分の子供に王座を渡し、静かに引退生活を楽しんだ。
流行病によって、静かに病死した。
・ナナ・ベルフェゴール
ナナはデビルシティへ戻り、父ベルフェゴールの仕事を手伝いながら魔族の長として君臨する。それと同時に各地に足を運び、困っている人をたすけ回る勇者の活動を行う。その活動は魔族領域に収まらず、人間の領域でも勇者活動を行った。各地での評判や勇者の噂が広がり、魔族と人間の架け橋的存在となった。
また、新たに現れた魔王を生涯に渡って倒し続けた。その名と勇者の称号は未来永劫語り継がれた。
後に世界を襲った大天災の最中、救助活動を行いながら死亡した。
・リーリャン・イ・フェニキス
レニィの街を人間の支配から取り戻し、復興活動を行う。復興したレニィの街の統治を行い、ユートピアの様な行き場の無い者の受け皿となった。その結果世界でも有数の巨大交易都市として発展し、レニィの街は世界の中心となった。
後に世界を襲った魔術魔王ソロモンとの戦いで、消息不明となる。噂では、相打ちになったとされている。
・レオーネ・バレンタイン
消息不明。
各地で目撃例は挙げられるが、人を見掛けると逃げる珍獣の様な扱いを受ける。
・サクラ&ジハード・アーサー・バレンタイン
二人は世界を股にかけ、冒険者として活躍した。巨万の富を得たり、数度世界を救うが人々との関わりは薄い。
ナナやリーリャンのいる魔族領域に度々邪魔しては、騒動を収めて去っていく都市伝説の様な扱いを受ける。
ベレッタの子孫が困っている時に一度だけ現れ、家の危機を救った。その時の姿が家紋として刻まれ、世界が終わるその時まで続いた。
晩年、魔族化したジハードはサクラに看取られながら静かに息を引き取った。その数日後、サクラも眠る様に息を引き取った。




