ふっ、おさなごよ。いずれしるだろう、ざんこくなせかいのことわりを。
またまた視点変更。
誤字直しました。ありがとうございました。
はろはろ、やっほ~、はうでぃー? ちーっす、ウェーイ、にーはお、ぼんじゅーる、ぐーてんたーく、ハーイ、ちゃおちゃお、さわでぃーかー、アロハ~? われらは、下位精霊や微精霊と呼ばれる力の弱い精霊だ。
ちょくちょく人間のろまんしすに力を貸し、おかしを作るのを手伝ったりしている。先着十名という厳しい倍率だが、われはなかなかの出席率だ。えっへん!
ろまんしすの作るおかしは、『リッカ姉上が元気になりますように』『リッカ姉上が美味しく食べてくれますように』という願いと祈りが籠められていて、その想いがとてもおいしい。
ちょっと前にねぇねがお空に還って……その後ろまんしすはちょっと泣いてたけど。それでも、ねぇねやにぃに達の子供やその子供達の健康や息災を願う心と祈りは変わらない。教会に沢山やって来る人間の幼体達に食べさせる分も、変わらず心が籠っている。
故に、ろまんしすの作るおかしは、文字通り祝福の味がする。
明確に意識して聖職者としての気合の入った祝福ではないが、無意識の祝福で義務感も無いから純粋な優しさの、おいしい味だ。
そして、食べた人間の生命力がちょびっと回復するのだ。まあ、ろまんしす自身が聖者なのだし、回復魔術のリジェネが一番得意なのだから。おかしを作るときにその魔力が移れば、当然な気もする。われらも手伝っているからな! えっへん!
われら精霊は『祝福』を浴びたり、受けたり、食べたりして力を蓄えると、存在の階梯がちょびっと上がる。簡単に言うと、ほんのり進化するということだ。すごいだろ!
というワケで、なにげにろまんしすのいる教会周辺は下位精霊の進化スポットとして有名だ。
通常。自我の無い、世界を漂うばかりであった属性を持たぬ微精霊は、長い時間を掛けて属性を獲得し、ゆっくりと下位精霊に進化する。更に長い時間を掛け、自我を得て、中位の精霊に。更にちょ~永い永い時間を刻み、すっごくすっごい力を蓄えたものが上位の精霊にまで到達する。まあ、偶に無属性のまま微精霊から進化する変わり種もいるが。
ちなみに、夜様はそのうちのすっごくすごい精霊の一人だ。
この、微精霊が下位精霊に進化するまでに少なくとも数百年は掛かるのが当たり前だ。というのに、ろまんしすと出逢っておかし作りを手伝うようになり、微精霊から下位精霊に進化。更には、自我の芽生えまでに数十年という短い時間しか掛からなかったものもいる。
なにを隠そう、われもそのひとりだ。すごいだろ、えっへん!
ろまんしすとは、おかし作りを手伝い始めた頃から約定を交わしている。
なんか、ろまんしすの作ったおかしに、人間に有害になる成分が含まれたらそのおかしはわれらが食べていいという約定だ。
というワケで、本日もろまんしすとわれらの作ったおかしのあるところをパトロールするのだ!
なんか、ろまんしすのねぇねはおーぞくという、よく命を狙われる職業に就いていたらしい。食べ物にいっぱい毒とか入れられて大変みたい。だから、せめてろまんしすとわれらの作ったおかしくらいは安全安心で食べられるように、ということで交わした約定だ。
ろまんしすのねぇねはお空に還ったけど、ろまんしすは今でもわれらの手を借りておかしを作る。そして、ろまんしすのねぇねの子供とその子供達とか、ろまんしすのにぃにの子供の子供にもおかしを持たせるし、教会の子供達にもおかしを作る。
ということは、ろまんしすの作るおかしに人間に有害な成分が含まれたら、われらが食べていいという約定は今現在も続いているということだ。
ふっふ~ん、今日はどんな毒が入ってるかな~♪
ろまんしすのおかしに毒を入れるのは、圧倒的に人間が多い。
食べ物を粗末にする奴はめっ! て思うことが多いが、毒が入るとわれらが食べていいことになっている。故に、このおかしは粗末にはならない。むしろ、毒が入れられる瞬間を出待ちして、おかしを狙うのだ。
そして、ろまんしすのねぇねはおかしの感想やおかしに入ってた毒の種類をお手紙にして伝えると、ちょっと怖い笑顔でにこにこと喜んでいた。ねぇねの子供達やにぃにの子供達もちょっと怖い笑顔で喜ぶから、続けている。
偶に、われらでは対処できない呪術を掛ける人間もいる。そういうときには上位精霊のにぃにやねぇね達に『おかしをたすけてあげて~!』とお願いをする。
火や光のにぃに、ねぇね達は、ゴォォォっ!! だったりジュワッ! とおかしを箱のまま呪いごと燃やし尽くしたり、蒸発させる。火や光のにぃに、ねぇね強い!
水のねぇねは、穢れは嫌いと言って呪われたおかしの処理を手伝ってくれないけど、『もう、食い意地を張るのも大概になさいな。呪いは食べちゃ駄目でしょ』と、おかしを食べようとして穢れを受けたわれら下位精霊を浄化してくれる。ねぇね優しい♪
風のにぃにやねぇね達は気紛れ。ビュオォォ! と穢れを吹き飛ばして手伝ってくれたり、全く手伝ってくれなかったり。手伝ってくれる他のにぃにやねぇねを教えてくれたりする。
土のじぃじやねぇねは、『大地は、流された血も、死も、罪、厄、穢れ、禍事一切全てを呑み込むものよな』とぱっくんと食べちゃう。ふところが深いぜ!
夜様も『あらあら~? なかなかの狂気だこと』と言ってぱくっと食べたり、呪いを鎮静化したりしてくれる。夜様すごい♪
こうして、呪われたおかしは救われるのだ。にぃにやねぇね達、すっごくすごい!
ちなみに、呪われたおかしは箱ごと持って来るので、置かれてた場所に『のろわれたおかし たすけてくるね』とお手紙を出すのも忘れない。われらは気遣い屋さんなのだ。えっへん!
というワケで――――
『ほんじつも、おかしパトロールかいし!』
『『『おー!』』』
ねぇねの子供の子供に送る分の教会を出て行ったおかしを追跡するグループと、教会の子供達に配ったおかしを追跡するグループに……そのときの気分で分かれ、適当にあちこちを見て回る。
毒や異物混入されたおかしを食べるのは、早い者勝ちだ。
今日のわれは、教会を見て回る気分だ。
教会にいる人間の幼体は、生まれてまだ数年しか生きていないせいか、われらよりずっと幼くて偶にアホだ。
もらったおかしを早く食べればいいのに、誰にも食べられないようにと、実に様々なところに隠すことがある。そして、自分も食べられなくなるのだ。
木のうろや鳥の巣の中。ひび割れた壁の隙間。床下。屋根裏。暖炉の中に隠して、おかしが燃えたとギャン泣きしていた子もいた。
家畜小屋に隠した子は、実はおかしを食べる気がなかったのではないかと疑っている。動物は雑菌や寄生虫などが多いから、すぐにおかしが有害になるのに。
更には、おかしを隠した場所を忘れたりする。
そういう風に、忘れられたおかしや保管? 場所が悪くてカビたり腐ったり、虫が湧いたり、ネズミなどの動物がかじったりして人間に有害となったおかしを、われらが処理するのだ。
一応、おかしが無くなって体調悪くなるまでギャン泣きする子がいるし、可哀想だから、悪くなるギリギリまで待ってやる。しかーし、悪くなったら容赦なく食べるがなっ!!
われらは、そうやって教会内の子供達の安全を守っているのだ。すごいだろ、えっへん!
そして、今日も教会敷地内のあちこちに隠され、忘れられて傷んで行くおかしを処理して行く。
『あ、そろそろかびはえそー』
『たべてよし!』
『あ、むしがちゅーした』
『たべてよし!』
『あ、ネズミがふくろかじった』
『たべてよし!』
『きゃーっ♡』
『うまうま~♪』
『おかしはどこだーっ!?』
ふっ、今日は大漁だぜ。
『ハッ、たいちょー!』
『どうした?』
『あのこ、おかしをうめてみずかけてる!』
報告に、畑の方へと目を向けると、
「ふふっ、はやくおかしそだたないかなぁ♪」
幼い人間の幼体が、にこにこと満面の笑みを浮かべて、土に埋めたクッキーとキャラメルへと水を掛けていた。
『クッ、なんたることだ……っ!?』
『ぁ~……』
『ぅ、ううっ……かわいそー……』
あの人間の子供は、生まれてまだ数年しか経っておらず……この世界の残酷な理をまだ理解していないのだろう。
そう……『おかしは土に埋めても決して芽吹くことがない!』という非常に残酷な世界の理を、未だ知らぬのだ!
われらは知っている。あの絶望を・・・
あれは、数十年前。ろまんしすとおかしを作り、それをもらって食べて満足していた。
しかし、ふとこう思った。おかしが実れば、いつでも食べられるぞー! と。天啓が下ったと思い、とってもワクワクして、おかし作りを手伝った下位精霊一同でおかしを育てることにした。
土のじぃじに栄養たっぷりの土を分けてもらい、作物が育ちやすいという日当たりと水はけのいい土地を教わり、早速おかしを埋めた。が、全く芽が出なかったっ!
作物には水が必要不可欠であると知り、水のねぇねに美味しくてきらきらした水を分けてもらい、おかしに掛けて、芽吹くのを楽しみに待った。
しかし、いつまで経ってもおかしは芽吹かなかったっ!?
『なにしてんだ、お前ら?』
偶々通り掛かった風のにぃにに、おかしを育てているのに芽がでなくて落ち込んでいると事情を説明したら・・・
『ぷはっっっ!? ま、マジかよっ!! アハハハハハハハハハハハハハハハっ!! 火ぃ通って死んだもんが芽吹くワケねぇだろ! アホだっ、アホ共がいるっ!? アハハハハハハハハハハハハハハハ……』
と、ちょー大爆笑された。
われらはそのとき、笑われる屈辱と共に、この世界の残酷な理を知った。
『うわ~ん! かぜのにぃにがわらった~っ!!』
『う、ぅぅ……おかし、そだたないって……』
『ひっく……せかいが、かくもざんこくだとは……』
そして、むせび泣いた。おかしが芽吹かないことと、風のにぃにに大爆笑された屈辱に、心より慟哭した。
そして、埋めたのがクッキーだから駄目だったのかと、飴玉やキャラメル、シフォンケーキ、ブラウニー、アップルパイ、ビスコッティ、ガレット、ババロアなどなど。ろまんしすと一緒に作ったおかしを一通り埋めてみたが、全て、全て芽吹かなかったっ!!
あるとき、パンの木というパンの実る木があると知り、パンを埋めた。全然駄目だった!
パンはパンでも、パンという植物の木で、ロールパンなどは埋めても木にはならないと知り、またもや絶望した!
それならと、果物の飴掛けを埋めた。芽吹かなかった! 絶望した!
果物のチョコレート掛けを埋めた。芽吹いた! が、普通の果物に育っただけだった。チョコレートなど、どこにも掛かっていなかった。ちょっぴり残念で悲しかった。
その度、わざわざ見に来た風のにぃにに大爆笑された。風のにぃに、赦すまじ!
そんなことを思い出してちょっぴり涙目になりながら、きらきらした瞳でおかしをうめて水を掛ける人間の幼子に目を向ける。
『ふぅ……ざんこくなせかいのことわりをしらぬおさなごよ。おかしは、うめてもめぶかぬし、きにそだつことはないのだ』
そう、動物に掘り返されて食べられたり、土に住む虫に食べられたり、微生物に分解されるだけ。
『というワケで、たべてよし!』
『『『おー!』』』
けど、あの幼子が憐れなので、代わりにわれの全力の加護を与えることにした。
『はぁっ!!』
『あ、かごあげてるー』
『てつだうー』
と、数名で幼子へとわれらの全力の加護を与えた。
『ふっ、おさなごよ。いずれしるだろう、ざんこくなせかいのことわりを。げんきだせ』
ぽんと、背中を撫でてあげた。
こうして、本日の教会内おかしパトロールはちょっとアンニュイな気分で終了した。
翌日、われの全力の加護を与えし幼子は……危険な転び方したとき、一回だけふわっと転ぶというわれの全力の加護が切れていた。
なんてことだ。斯くも世界とは、人間の幼子にとって危険に満ちているとは……
『あ、あのこまたおかしうめてる~』
『たべてよし!』
『きゃー♡』
仕方ないから、もうしばらくこの幼子を見守ってやろうではないか。
おかしうま~♡
読んでくださり、ありがとうございました。
今回は、精霊視点。多分、よく号令掛けてる子。2~3歳児の中にいる5歳児くらいの賢さでしょうか。世話焼きさんになる予感がひしひしと漂っている。(*´艸`*)
全部ひらがなカタカナだと絶対読み難いので、こんな感じ。ꉂ(ˊᗜˋ*)
精霊視点書くのめっちゃ楽しかったので、また書くかも。風のにぃに襲撃とか読みたい方いますかね?(*>∀<*)
祝福の味ってどんなの? という質問を頂いたので、精霊視点で『祝福の味』がどんな感じというのがわかるかな? と。
短編の方でロマ爺が言っていた、「誰かの息災や無事を祈り、願うこと自体が祝福である」という感じですね。ロマ爺は無意識ですが。
精霊は、お菓子に籠められて祝福となっている『想い』を食べています。なので、お菓子そのものの味を気にするグルメな精霊以外は黒焦げだろうが、砂糖と塩を間違おうが美味しく食べます。
若かりし頃のシス君が魔術でのお菓子作りに失敗して、そのお菓子に精霊や妖精が群がっていたのも、リッカを想う願いや祈りの『祝福』を食べていたからです。
ざんこくなせかいのことわり。
精霊『ふぅ……ざんこくなせかいのことわりをしらぬおさなごよ。おかしは、うめてもめぶかぬし、きにそだつことはないのだ』(つд;*)
という事実に、むせび泣いたことのある方はいらっしゃるでしょうか?(*´ー`*)