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「ああ、魔法でお菓子が出て来たら便利なのになぁ……」と呟き、閃いたのじゃ!


「げ、猊下っ、これは一体っ!?」


 現れた精霊達に、ぎょっとした視線を向けるクレメンス。


「うむ。ぶっちゃけ、数十人分とか大量の菓子を一人で作るの大変じゃろ? というワケで、応援じゃ。ほれ、一人で作れとは言われたが、人間以外に手伝わせてはならんとは言われておらぬからの」

「どんな屁理屈ですか、それは……」

「ま、どうせ責任取るのはわし一人じゃし」


 そう、その昔。十代じゃった若かりし頃のわしは――――一人で大量に菓子作りをし、深刻な寝不足や疲労困憊に陥っておった。教会の通常業務に差し障る程、疲れておったのじゃ。


 そして、「ああ、魔法でお菓子が出て来たら便利なのになぁ……」と呟き、閃いたのじゃ! 人力(自分一人)で作るからこんな大変なんだから、魔術使えばいいんじゃね? と。


 幸い、わし魔力量は多かったからの。試行錯誤をし、地水火風の四大属性魔術を使い(こな)し、菓子作り専用の魔術を組み立てたのじゃ!


 わたしって天才! と、自画自賛したのも束の間。ぶっちゃけ、元は攻撃魔術から構築した魔術は制御が難しかったっ!? 幾度も幾度も、それはそれは滅茶苦茶失敗したのじゃ。魔力枯渇も何度か経験したしのぅ。


 風の魔術を行使し、クッキー生地を混ぜようとして粉とバター舞う、べっとべとの雪景色(比喩)にしたこともある。油脂と粉が混ざった生地は、掃除がめっちゃ大変じゃったっ!?


 金属製のボウルやバットを微塵切りにしたこともある。新しい……魔術に耐え得る程頑丈なボウルやバットの入手がめっちゃ大変じゃったっ!?


 水や火の魔術で温度管理をしようとして厨房を凍て付かせたことや、スポンジ生地を炭化させたこともある。ちょい凍死し掛けたり、酸欠でヤバいことになったもんじゃっ!?


 しかし、それでも若いわしは諦めなんだ。


 地属性魔術で金属製ボウルや硝子製ボウルに強化付与を施したりと、試行錯誤し続け――――


 魔力制御むず~……と、死んだ魚のような目でぼんやり虚空を眺めとったときのことじゃった。


 失敗したお菓子の生地に群がる妖精や精霊を見て、またまた閃いたのじゃ!


 あ、アイツらに手伝ってもらえばいいんじゃね? とな! なんせ、関わらせてならんと言われておったのは人間じゃし。妖精や精霊など、人外の手を借りてはならんとは言われてなかったからの!


 そして、人外の手を借りようと、毒物や異物混入で処刑されるのは人間のわし一人。ということで、近場におる妖精や精霊に菓子作りを手伝ってもらうことにしたんじゃ。


 報酬は、作った菓子の一部。なんぞ、この近辺の精霊界隈ではわしとの菓子作りが人気なんだそうじゃ。まあ、人間好きな妖精や精霊は、菓子が大好物じゃからの。


 とは言え、妖精は協力を求めるのに向かんかったの。自然の気や魔力が意思を持つようになったのが、妖精や精霊。妖精と精霊では、精霊の方が上位の存在。妖精は力が微力じゃったし。その上、悪戯好きで困ったのじゃ。


 それで、妖精より召喚に魔力は食うが、精霊のが人間との意思疎通がし易かったんじゃ。


「これからクッキーを作るからの。練らないよう、いい感じに混ぜてほしいのじゃ」

『わかったの~』


 ぽんぽんと量った材料をボウルに入れて行くと、風の精霊がいい感じに材料を練らずにサックリと混ぜてくれる。うむ、めっちゃ楽なのじゃ!


『ぐるぐる~』

『まぜまぜ~』


「うむ、それくらいでよかろ。ありがとうの」


 と、いい感じに混ざった生地を、


「では、ちと寝かせるからの。冷やしてくれんかの? 凍らせてはならんぞ」

『おっけ~』

『ひえひえー』


 水の精霊が冷やしてくれる。氷室に入れに行くより断然楽じゃ!


「では、クッキーを寝かせておる間に、キャラメルでも作るかの」

『きゃらめるー!』

『つくる~っ♪』


 大きな鍋に砂糖をドバっと投入。そして、鍋を(かまど)に乗せる。


「砂糖を溶かしてほしいのじゃ。ぐつぐつさせとくれ」

『おっさとう、グツグツ~♪』

『どろどろ~、ぶくぶく~、ねばねば~』


 火の精霊が熱を発して砂糖を溶かしてくれる。火熾しをせずとも、薪をくべずとも、火加減を調整しなくとも、精霊がいい感じに調整してくれるからめっちゃ楽なのじゃ!


 そして、砂糖が溶けてぶくぶくと飴色になって来たら生クリームを投入。


「生クリームを入れるからの、あまり跳ねないようにしてほしいのじゃ」


 通常、溶けた砂糖に別の液体やバター、生クリーム、牛乳などを入れるとジューッ、ブクブクブクっ!? と吹きこぼれたり、めちゃくちゃ跳ねるのじゃ。しかも、溶けた砂糖の温度は二百度近い温度になるからの。当たると火傷必至で、すっごく痛いのじゃ。しかも、溶けた飴が皮膚に貼り付いた火傷は治り難いしのぅ。


『オッケー♪』


 水の精霊が、砂糖と生クリームの吹きこぼれと跳ねを抑えてくれる。これで、キャラメルにする分が減らずに済むし、痛い思いもせぬ。おまけに、掃除がめっちゃ楽なのじゃ!


 生クリームを投入した、熱々どろどろの砂糖を木べらで混ぜる。重たいが、頑張ってぐるぐると混ぜる。どろどろと、粘度が高くなり、少し焦げた砂糖と生クリームが混ざり、キャラメルへと変貌し、もわりと甘い湯気が立ち上る。


『きゃー!』

『きゃらめる~♡』


 きゃっきゃと可愛らしい精霊達の歓声も上がる。


「ほっほっほ、もう少ししたら、バットに流し込むからの」


 厚いミトンを両手に装着し、自身に身体強化魔術を掛け、熱々の鍋を持ち上げてどろどろのキャラメルをバットの中へゆっくりと流し込んで行く。複数のバットに全部流し終えると、トントンと軽くバットを持ち上げて叩き付け、空気を抜く。


「よし、それじゃあゆっくり冷ましてほしいのじゃ。冷めたら切り分けるからの」

『でっかいキャラメル~っ☆』

『そのままたべたいの~!』

「これこれ、皆の分が無くなってしまうじゃろ。それにの、みんなで分けて食べた方がきっと美味しいのじゃ。それじゃ、そろそろクッキーの方を焼くとするかの」

『クッキー♡』

『くっきーくっきー、こんがりくっきー♪』


 寝かしておいたクッキー生地を麺棒で伸ばして行く。それを鉄板に乗せ、


「それじゃ、鉄板を強化してほしいのじゃ」

『うぃーっす!』


 地の精霊に鉄板の強化を頼む。


「ふ、では、行くぞ! エアロ・ニードル!」


 と、風の魔術を行使し、クッキー生地にぽこぽこと小さな穴を一気に空ける。フォークなどで生地に穴を空け、火の通りをよくするのと同じ要領じゃ。


 これ、加減を覚えるのが大変じゃったんよなぁ。一体、幾つもの鉄板を穴だらけにしたことか……思い出す度、悲しくなるわい。しかーし、地の精霊に鉄板を強化してもらえば、鉄板が穴だらけになることはないのじゃ! 鉄板を新調する代金が浮くのじゃ!


「スクエア・カット!」


 次いで、クッキー生地を均等に四角くカット。これも加減が難しかったのぅ。一体、幾つもの鉄板を細切れにしたことか……以下略。


 仮契約をした地精霊のランクによっては、穴だらけや細切れの鉄屑と化した鉄板を元通りに戻せるものも居るんじゃがの。


 ま、そこまで上位の精霊に手伝ってもらうと、対価として魔力や作った菓子を大量に強奪され(持って行かれ)てしまうからの。召喚する精霊は中級以下と決めておるのじゃ。


「これで準備は完了じゃ。では、いい感じに焼いとくれ」

『こんがり~』

『サックサク~♪』


 火の精霊に頼むと、窯入れや窯出しという重労働の手間もなく、クッキー生地の周囲をぐるぐる飛び回るだけで鉄板が熱され、グリルオーブンの要領でいい感じに焼けてとっても楽なのじゃ!


 じっくりと熱された生地から、バターと甘い香りが辺りに充満する。


『もうやけたー?』

「どうかのぅ?」

『たべていいっ?』

「ほっほっほ、もちぃと待っとくれ。皆の分を取り分けてからの」

『え~?』


 きゃっきゃと菓子の周りを飛び回る精霊達と微笑ましく会話をしながら、冷めたキャラメルやクッキーを切り分け、菓子が完成じゃ。


 ジークハルトに分ける分の、形のいいクッキーを専用の箱に詰めて行く。


『ね、ね、ろまんしす』

「なんじゃ?」

『たべられないの、たべていいっ?』

「そうじゃのぅ。途中で、人間の害になる異物や毒が入れられたら、食うてもよいぞ」


『『『きゃーっ!!』』』


 形の崩れてしまったクッキーは、保存用の瓶に詰めて行く。そして、大きな油紙を取り出し、


「ダイス・カット&スクエア・カットじゃ!」


 キャラメルをサイコロ状にカットし、油紙を四角くカットする。


 大きめにカットした油紙に、形のいいキャラメルをドーンと包んで箱へ入れる。これは、ジークハルトに持って行く用じゃ。


 一応、クッキー、キャラメルと合わせて十数箱を包んだが……アヤツらに届くまでにどれだけが、食べられる分として残るかのぅ? こういうことを思う度、宮廷怖っ!? と、戦慄するのじゃ。


 一応、わしが作った菓子は毒物や異物が混入されるとすぐに判るっちゅー話なんじゃが……どういうことなんじゃろうの?


「ふぅ……では、やるかの」


 と、正方形に小さくカットした油紙を手に取り、キャラメルを一個ずつちまちまと包んで行く。重い物を運ぶ以外では、なにげにこの作業が大変なんじゃよね~。これ、精霊は手伝えんからの。


 前に試しに手伝ってくれと頼んだら、キャラメルを減らすのを手伝ってくれよったのじゃ。それ以来、この作業は頼んどらん。


『キャラメル~、くるくる~♪』

「紙でくるくる~♪じゃのぅ」


 ふっと顔を上げると、なんぞ目が点になって面白い顔しとるクレメンスが目に入った。そう言や、いたんじゃったの。やけに静かだから忘れとったわい。


「お主、呆けて暇じゃったらキャラメル包むの手伝ってくれんかの?」

「っ!? は、はいっ!?」


 ハッとした顔で頷くと、クレメンスが猛然とキャラメルを油紙で包み始めた。おーおー、早いの。ふっ、これが若さというやつかの!


 と、今日はクレメンスのお陰で早くキャラメルを包み終えたのじゃ。


「よし、これで今回の菓子作りは終了じゃ! というワケで、欠けたクッキーや端っこのキャラメルは全~部其方達で分けるといい。但し、喧嘩はご法度じゃ。喧嘩をする悪~い子は、次の菓子作りに呼んでやらぬからの」


『『『は~い!』』』


 一斉に声を揃え、いい返事をする精霊達。きゃっきゃと笑いながら、菓子作りに使用した容器や器具の周囲を飛び回り……きらきらした光を残し、姿と気配が薄れて行った。


 後に残ったのは――――


「ふっ、やはり精霊を呼ぶと菓子作りがかなり楽になるのぅ」


 鍋肌にどろどろとこびり付いて洗うのが大変そうだったキャラメルが、舐め取られたかのように綺麗に空っぽで、つやつやしておる。そして、クッキーの欠片どころか屑すら残らぬ鉄板。


 洗い物や後片付けもめっちゃ楽じゃ!


 きゃっきゃうふふと、楽しくお喋りをしながら菓子を作り、魔力制御や強化のサポートも受けられ、後片付けも楽。おまけに、連中は素直で可愛いと来た。もう、色々と最高過ぎるじゃろ!


 これだから、精霊に菓子作りの手伝いを頼むのはやめられぬのじゃ♪


 ふっふっふ、これで明日は久々に教会の子らに菓子を配りに行けるのぅ♪


 楽しみなのじゃ!


 読んでくださり、ありがとうございました。


 ロマ爺の○分クッキングっ☆後編。ꉂ(ˊᗜˋ*)


 ロマ爺は末っ子なので、自分で出来ないなら誰かに頼ろうとすんなり思えちゃいます。自分が愛された分、その愛情を誰かに返そうと自然に思える感じの人ですね。(*^▽^*)


 精霊『おかし~♡』( ☆∀☆)


 『にんげんがたべられなくなったら、ねらうの~』(ФωФ)


 『あまいのすき~♡』(*´﹃`*)ジュルリ…


 『だれか、おかしにどくいれないかなぁ♪』♪o((〃∇〃o))((o〃∇〃))o♪


 こんな感じで精霊に狙われて……


 途中で異物や毒物が混入したロマ爺&精霊の手作りお菓子は、箱の中から綺麗サッパリと屑すら無くなる。


 『にんげん たべられなくなったから もらうね』『とりかぶとのトッピング おいしかった』『すいぎんは にんげんにどくなんでしょ?』『すずらんのしる ありがとね』という、子供が書いたような文字だけが箱の内側に残されており、異物混入されたお菓子は匂いだけを残して妖精に食べられてしまうのだとされている。


 異物混入された実物が消えて、その上混入されたと思しき異物まで親切に書かれるので、ロマ爺の手作りお菓子は信頼が厚い。


 ロマ爺の姉(国王からすると祖母)の頃からこんな感じなので、現在の王族は普通に妖精の悪戯。もしくは親切と受け止めている。

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― 新着の感想 ―
お菓子づくりほっこり ちょこちょこ緻密な攻撃魔法をおじいさん使ってないかな? キャラメルは歯に注意
「まあ使われてる技術と台詞を伏せれば子供たちと仲良くお菓子を作るおじいさんに見えますか」 「何でそんなマスコミみたいなフィルターかけた?」
暗殺用に毒物を仕込んでも、運搬に精霊が付き添うことで安全になるなんてなんてオトクなんでしょう♪ 王族の皆さんがロマ爺のお菓子を求めるのがすごくわかります!
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