あるめりあ、おかしたべいこ~♪
視点変更。
『ハッ! こ、このけはいはっ!?』
食堂で出された温かいごはんに感動して、夢中になって食べていたわたしの周囲をふよふよ飛び回りながら、きゃきゃっと楽しげにお喋り? していた……風の兄貴曰くの雑魚精霊……こと、おチビちゃん達のうちの一人? が、鋭い声を上げた。
「ん?」
それにしても、兄貴口悪いな! わたしに野苺や美味しい花の蜜を貢いでくれた、優しくて可愛い光る球体達になんてことを言うんだ! 全くもうっ……
『あ、およばれ~♪おかしつくる~♪』
『じゃあねー、あるめりあ~』
『まったね~?』
と、光る球体達はウキウキな様子でわたしへ声を掛けたと思ったら、シュパっと一気に量が減った。
お呼ばれというから、誰かに召喚でもされたのだろうか? 精霊召喚は、結構な高位魔術だ。向こうでは、王候貴族のパーティーなどで中位以上の精霊を召喚して見世物にして威張っている宮廷のオッサン魔術師共がいたなぁ。
『くっ、でおくれたか!』
「どうされましたか? お嬢さん」
スプーンを握る手を止めて顔を上げたわたしを、真面目そうな眼鏡の……おじ……いや、まだお兄さんか? が、不思議そうに見下ろす。
「ああ、この娘っ子はどうやら精霊が見えて話ができるようだからな。大方、その辺りにいる精霊が娘っ子になんか話し掛けてんだろ」
「え? お嬢さん、まさか精霊が見えて、その声が聴こえるのですか?」
「ん~……」
これは、答えるべきか否か……
『んとね~。これ、くれめんす。ろまんしすのおともだちって~』
ついさっき、出遅れた! と、悔しげに声を上げたであろう丸い玉が眼鏡のおじ……いや、お兄さんの頭上へふよふよと移動してくるりと回った。ふむふむ。
『くれめんす、しんぱいしょーなの』
『いつもぷんぷんしながら、しんぱいしてるー』
ほうほう。
『ろまんしすとわれらと、いっしょにおかしつくったなか~』
なんと! この、心配性なクレメンスさんとやらは、お菓子職人のロマンシス様と、お菓子を作った仲? って……? ハッ! もしやの、お弟子さんっ!?
『あるめりあ、おなかいっぱい?』
「う~ん……もうちょい、お代わりを……いや、でも……」
「なんですか? お腹が一杯なら、無理をして食べなくてもいいですよ」
と、クレメンスさんが不審そうに言う。
「え? でも、次のごはんがいつ食べられるかわからないから、できるだけ食べておいた方がいいかな? って……」
「お昼には昼食も出しますので。あまり無理をして食べなくても大丈夫です。ここには、あなたの食事の邪魔をする者はいませんし、あなたの食べ物を奪う者もいません。落ち着いて食べなさい」
言い聞かせるような言葉に驚愕した。
「えっ!? お昼ごはんももらえるのっ!? マジでっ!? 凄いっ!! ……って、もしかして朝昼の二食で、夕食が無いパターン?」
「いえ、基本的に子供は一日三食。大人の食事は、任意でとなっていますね」
「一日三食っ!? こんな具沢山なのにちゃんと火が通っていて、温かくて味も確り付いてて美味しくて、栄養たっぷりなごはんが毎日食べられるなんて、素晴らしいっ!! ここは天国ですかっ!?」
どこぞのブラック極まりない神殿では、孤児上がりのとある役職は一日二食! しかも、神官共の機嫌を損ねたり、理不尽な八つ当たりなどでその二食すらも抜かれたり、食べ物さんを床にぶち撒けられたりなど、クソみたいな嫌がらせを受けたりしていたというのにっ!!
「いえ、教会総本山併設の食堂ですが……なんでしょう。猊下が、あなたにまずは食事をと勧めた理由がわかるような気がします」
「?」
先程より、大分同情というか、憐れみ成分の増えた視線が向けられる。
「ゆっくりと落ち着いて、限界以上には食べないように」
『あるめりあ。たべすぎ、ぽんぽんいたいいたいするよ~?』
『いたいいたい、ヤーでしょ~?』
『ねー?』
「? ぽんぽんいたいいたいって、なに?」
ぽんぽんって、叩くの? 叩かれると痛いのは当然では? いや、ぽんぽんって優しくあやす感じだから、痛くない? あれ? でも、痛い痛いだから、強く叩く?
「……早速、食べ過ぎての腹痛ですか? 胃薬は必要ですか?」
「? いえ、大丈夫ですけど? 浄化も治癒も使えますので。大抵の病気や怪我は自分で治せます。部位欠損を自分で治すのは、さすがに時間は掛かりますけど」
魔獣に腕喰われ掛けたときは大変だったなぁ。噛まれた瞬間に必死で首落としてトドメ刺したけど。腕の肉持ってかれて、見えちゃってた骨も折れてたし。すぐに浄化と解毒して、それから治癒掛けて……滅茶苦茶痛かったしっ!? 治したあとも、しばらくはめっちゃ貧血起こしてふらふらして……具合悪いのにサボってるだなんだと言われて……神殿のクソ共に軽く殺意湧いたなぁ。
あれだね、部位欠損くらいの怪我すると、他の人に治癒してもらった方が楽だね! あと、ごはんめっちゃ大事。騎士団の人と医者がごはんくれなかったら、ヤバかった。
「え? あなた、相当高位の治癒術師ですか?」
「えっと、多分?」
「……高位の治癒術師を虐待して、充分な食事も与えずに無理矢理働かせていたということでしょうか……このような子供に、なんて酷いことを……」
低い呟きが落ちて、ぐっとクレメンスさんの眉間にシワが寄る。
まあ、間違ってないけど。
「というか、ぽんぽんいたいいたいって、なんですか? どういう意味?」
さっきから、ずっとおチビちゃん達が言ってるけど、意味がわからない。
『なんて、ことだっ!?』
『ぽんぽんいたいいたいが、つたわってなかっただとっ!?』
『アルメリア、しらないのー? われらしってる。ぽんぽんは、おなかのことー』
驚いたように震える玉と、えっへんとでも言いたげに教えてくれる玉。
「……腹痛のことですね。ぽんぽん、とは幼児がお腹のことを示す言葉です。犬のことをわんわん、と言うのと似たような幼児の言葉です」
「成る程。腹痛という意味ですか。聞いたことなかったので、知りませんでした」
ぽんぽんやわんわんと言うときに、なぜか恥ずかしそうに声を潜めるクレメンスさん。
「失礼ですが、あなたは一体いつから孤児を?」
「さあ? 物心付いたときには、既に一人だったから」
つか、わたしマジでよく生きてたよねー? 神竜の微睡む国が侵略されて……あのチャラミニドラゴンの天秤? 曰く、わたしは元貴族だかで、多分そのどさくさでわたしは孤児になっているらしい。
おそらくは、わたしを逃がしてくれた人がいるのか……それとも、敗戦の折りに赤子なんぞ気に掛けられなくて捨て置かれたかの、どちらかだろう。
「治癒魔術は、一体どこで習得を? 誰に師事されたのでしょうか?」
「え~? 知らない。多分、自然に?」
孤児って、そこらのチンピラとかに理不尽な八つ当たりで殴られたりするから。で、何度も死にそうになって、気付いたら血溜まりの中で無傷で目ぇ覚ますってことが何度かあったからなぁ。生存本能ってやつなんじゃない?
治癒能力が発現しなかったら、多分わたし物心付く前に死んでたわ。
「自己流で、そこまで極めたというのですか?」
「そうですねー」
多分、神殿に連れて行かれる前に……何度も死にそうな怪我をしていたのだと思う。だって、治癒魔術は治したことのある傷病は、治すのが上手くなって行くから。
「ところで、軍馬はどこで手に入れたのですか? 通常、孤児の少女にあのような良質な軍馬を入手することは大変困難かと思われます」
「ん~、と。わたしが逃げて来たとこで魔獣退治させられてたから」
「は? 待ってください! あなたみたいな子供に魔獣退治をさせていたですってっ!?」
「? はい」
「……娘っ子。それは、治癒術師としての同行か?」
黙ってごはんを食べていたトムさんが、低い声で問い掛ける。
「えっと~、前衛と囮と魔術補佐と治癒係ですかねー?」
「どんな非合法組織ですかそれはっ!?」
非合法どころか、神殿や国家ぐるみで?
「娘っ子、お前戦えるのか?」
「あ、はい」
「得物は?」
「ぁ~……基本、武器は戦闘以外では持たされてなかったので。現場で支給された武器や落ちてるものを使ってました」
聖女が武器を携帯するなどあり得ない、だそうで。実際のところは、わたしに反抗されるのを恐れていたんじゃないかなぁ?
まあ、別に武器がなくてもある程度は戦えるけどね? 聖女だから、身を守れと護身術や各種戦闘技術は習ってたし。更に、偶にふらっと顔を出す風の兄貴も風の使い方を教えてくれたし。
あと、身体強化で手足にめっちゃ魔力籠めて硬くすると、下手な剣とか素手で折れる。なんなら、風を纏わせれば……雑魚い魔獣の首は余裕で落とせる。とは言え、素手だとめっちゃ接近戦しなきゃだから、魔獣の爪や牙を諸に食らう可能性も高くなる。
魔獣の群れなどを相手にするのに素手は向かない。なので、武器はあった方が普通に便利だ。杖や槍とか、リーチがある武器が使い勝手がいい。
「あなた、もしかして戦災孤児で非合法な傭兵団に育てられたとかですか?」
「戦災孤児……なのは、確かですねー。あ、雑魚い犬系魔獣の十頭くらいの群れなら一人で倒せます。まあ、さすがに素手で殲滅は厳しいけど。魔術使えば余裕かなぁ?」
むしろ、味方が近くにいない方が殲滅し易い。
「ほう、なかなかやるな娘っ子」
「どんな外道が、年端も行かぬ子供にそんなことをさせたんですかっ!?」
と、いきなり怒り出すクレメンスさん。
「前住んでたとこの人達?」
「っ! ……いえ、そうなのですが、そういうことではないと言いますか……」
「?」
『あるめりあ、おなかいっぱい?』
『あのね、ロマンシスがおかしつくってるの~』
『あるめりあにあげるって~』
「っ!?」
『あるめりあ、おかしたべいこ~♪』
『われらのてづくりー』
『われらとろまんしすのてづくり~』
『くっきー、まふぃん、ぷりんにぶらうにー♪』
『はやくいこ~♪』
『おかしー♪おかし~、おいしいおかし~♪』
『ろまんしすのきっちんあっちー』
『あっちにおかしがまってる~♪』
『ふっふっふ、おかしつくりにでおくれても、あるめりあをつれていけばおこぼれをもらえたりするかもなのだ!』
なんかこう、若干わたしのために作ってくれている(予定)感じのお菓子が、おチビちゃん達に狙われている気がしないでもないけど。
でも、あれだっ! こうしてはいられない! 美味しいお菓子がわたしを待っているというのなら、万難を排してでも行かなくてはっ!!
「ご馳走様でしたっ!! というワケで、わたしは行きます!」
「はい? いきなりどこへですっ!?」
「ま、精霊が見えるような変わり者はいきなり奇行に走ることもあるからな……」
ぼそりと、嗄れ声が言う。
「よし、娘っ子。俺が付いてってやる。俺が付いてれば、ある程度の場所は顔パスだ」
「わぁ! ありがとうございますトムさん!」
「ちょっ、トマス様! 勝手に決めないでくださいっ!!」
「なあ、小僧。考えてみろ。犬系魔獣の群れを一人で殲滅できるってぇ娘っ子を止められそうな奴が、俺の他にいんのかよ?」
「そ、それは……というか、本人を前にしてそのようなこと……」
「あ、全然大丈夫です。武力を持つ余所者が警戒されるのは当然のことですから。見張りも気が済むまでどうぞ。そんなことより、さっさと行きましょう!」
『あるめりあ、はやくはやく~』
『おかしがまってるー♪』
『ろまんしすがつくってるのー』
おチビちゃん達が、くるくると楽しげな声を上げて早くとわたしを急かして先導する。
「娘っ子には俺が付くから、小僧はシスのとこ戻ってていいぞ」
「……いえ、わたしも行きます」
と、食堂を後にしてお菓子の待つという場所へ向かった。
わたしのためのお菓子って、どんなお菓子かなぁ? すっごく楽しみ~♪
とりあえず、籠に入っているパンを幾つか……ハンカチに包んで、ハンカチごと浄化を掛けて、更に上から結界を張る。これで、通常よりもパンが長持ちする。
さあ、出発! お菓子を食べに!
読んでくださり、ありがとうございました。
アルム「ぽんぽんいたいいたいって、なんですか? どういう意味?」(´・ω・`)?
下位精霊『なんて、ことだっ!?』( ̄□ ̄;)!!
『ぽんぽんいたいいたいが、つたわってなかっただとっ!?』( º言º; )"
『アルメリア、しらないのー? われらしってる。ぽんぽんは、おなかのことー』(`・∀・´)
クレメンス「……腹痛のことですね。ぽんぽん、とは幼児がお腹のことを示す言葉です。犬のことをわんわん、と言うのと似たような幼児の言葉です」(,,・д・)
アルム「成る程。腹痛という意味ですか。聞いたことなかったので、知りませんでした」(੭ ᐕ))