ものしりなわれらは、しってるのだ。ひとのこがすこやかにせいちょうするのに、おかしがかかせぬことを……
視点変更。
ガサッと、なにかの動く気配を感じて飛び起きる。
「っ!? お、おはようございますっ! い、今起きますから!」
朝食抜きはつらい! と、慌てて辺りを見回すと……広がっているのは、朝靄と川のせせらぎに頭を突っ込んで水を飲もうとしている大きな軍馬。
「あれ? ぁ~……そうだった。わたし……もう、辞めたんだった」
先程の気配は、この軍馬だったようだ。
「はぁ……もうびっくりしたわ~」
おはようございます。わたし、つい先日までとある国の非常にブラックな役職に就かされて強制的に馬車馬のように働かされていた孤児です。
貴族出身の後任ができたからと、役職の任を解かれそうになり……なにやら天からの啓示が下り、このままでは実力不足の後任の尻拭いをさせられ、前以上に劣悪な環境で国に使い潰された挙げ句、意味不明な言い掛かりと冤罪を着せられて処刑される……ような気がひしひしとしたので、貴族出身の後任だという彼女に全部丸投げして、セルフ国外追放で国を出ることにしました。
今まで、幼少期から馬車馬の如く酷い待遇で働き捲って来た、その退職金代わりに……先程わたしを起こし、そこの川で水を飲んでいる軍馬を貰って来ただけのわたしって、優しくない?
国を出るまで追手に捕まって堪るかと、丸二日程自分と馬に身体強化の魔術を掛けて走り通し……国境越えたぜヒャッハー! と、ハイになったまま、ぶっ倒れる寸前まで駆け続け、さすがに馬の方がわたしより先にダウンしそうだったから、この川辺で休むことにしたのが、昨日の夕方。
軍馬に括り付けられていた荷物には、非常食とサバイバル用品各種。そしてそして、なんと! 缶の中に角砂糖が入っていたのです! まあ、多分この軍馬君のおやつ用だと思うけど……アレだ。砂糖なんて甘くて美味しくて貴重なもの、馬には勿体ない。これはわたしが大事に大事に舐めることにした。
そして、栄養満点な非常食を齧って寝た。
チッ……非常食とは言え、軍人めいい飯食ってやがる!
なんて思いながら――――
そして、先程。軍馬君に起こされた。
気配で一気に覚醒した頭を振って、二度寝しようとしたら……
『……よ、……』
なにやら、幽かな声のようなものが聴こえた気がした。うん、気のせいだろう。
二度寝しよう! だってもう、寝過ごしても罰だとか言い出すクソ野郎共はいないし! ちょっとしたミスで食事抜きになんてならないし! だって、非常食持ってるし! 分刻みのスケジュールなんて無いし!
なんなら、自分で、いつ、なにをしても自由だし!
最高かっ!!
『ぁ……、も……し……?』
ハッ! 二度寝の前にごはん食べよ! と、非常食を齧ってから二度寝した。二度寝最高~♪
そんなこんなで、国を出てから気の向くままに……非常食が尽きてからは狩りをしたり、採集をしたりして軍馬君に乗って野宿を楽しんでいた。
偶に、人間に襲われたりしたけど。無問題! 魔獣共に比べたら、そこらの野盗なんぞ雑魚同然よ! むしろ、味方がいない状況なら全方位殲滅魔術使い放題! で、野盗共を全滅させて食糧を毟り取り、利き腕と軸足の筋をスッパリ切って使いものにならなくして放置したわたしって、優しくない? ちょ~っと、一生利き手が不自由になって、これから先走ったり踏ん張ったりできなくなる程度だし?
チッ、野盗共、いいもん食ってやがる! もっと痛い目遭わせればよかったか? と、野盗共から毟り取った食糧に若干苛立ったりしたけど。
順調に国から離れて行った。
でも……
「おかしい……」
ここ数日。動物が見当たらない。狩りができない。
あと、なんかこの地域? に入ってから、丸くてぽわぽわ光るものが視界の端にちらほらと映る気がする。見間違えかかすみ目かと思ったけど、わたしは前よりも健康だ。なんだろ? あれ。虫か? どこぞには、光を放つ虫がいると聞いたけど……?
そして、深刻な事態が迫っている。もうそろそろ、干し肉が切れる。
今のわたしは、長年の抑圧と劣悪な環境……そして、過剰な節食制限がされなくなった反動からか、なんだか身体がすっごくお肉を求めている。
お肉食べたい。今まで、あの役職に無理矢理就けられて苦節十数年! 毎日毎日うっすい野菜スープと固くて小さい黒パンを朝夕二回という非常に残念な食事ばかりだった。それすらも、週に何度か抜かれるクソな環境! 偶~に、仕事先でわたしを憐れに思った人から食べ物を分けて貰えたり、そっとわたしに食べ物を恵んでくれるヒトがいたりしたから、なんとか生きて来れた。
けれど、今は自分で食料調達ができる! んだけど……肝心の食糧(野生動物という名の肉)が見当たらないんじゃ、どうしようもねぇなチクショー!
でも、身体は肉を求めている!
「ふぅ……いよいよとなったら……」
短い間だけど……最初は飼い主? から引き離して、ちょっと警戒されていたけど。一緒に旅をして過ごすうちに、段々と仲良くなった。野盗共を蹴散らし、手ずから食べ物を分け与え、夜はくっ付いて眠ったりもした。でも……
肉、食いてぇっ!! というワケで、我慢の限界が来たらいずれはこの軍馬君を食べるしかないだろう。生きとし生けるものは、食欲には敵わない。わたしのための尊い犠牲だ。仕方ない。
ただ、問題は……一人で馬の解体は難しい。手持ちの刃物も、馬を解体するには心許ないけど……う~ん、刃物に魔力を通して強化すればイケるかな? そして、最大の問題。数百キロもの肉を抱えて移動するのは、ちょっと骨が折れそうだと言ったところだろうか? まあ、骨や可食不可の部位を除けばある程度重量は減るだろうけどなぁ。
一応? 生肉は足が早いけど。まあ、浄化とか風系統の魔術の組み合わせで傷むのをうんと遅くすることができる。最悪、食中毒になっても自分に浄化と治癒を掛ければ大丈夫っしょ。
なんて思いながら、じっと軍馬君を見詰めていたら……
身の危険を察知したのか、ヒヒーン! と怯えたような嘶きを上げて、逃げやがった!
「ああっ!? ちょっ、待てっ!?」
逃げられたら肉が食べられなくなる! と、慌てて身体強化で馬を追い掛けていると・・・
ドドドドドっ!! と、背後からこちらへ駆けて来る馬の足音。こんなときに野盗か! と、軍馬君を追い掛けるか応戦するか、一瞬の逡巡。
とりあえず、相手の姿を確認と思ってチラリと後ろを振り向くと……
「うわっ、騎士っ!?」
こ、こっちの国の正規騎士だったりするっ? ど、どうしよ? えっと、敵対の意志は全く無いから……うん。軍馬君追い掛けよ! と、走り続けることにした。すると、
「おーい、そこの娘っ子! そんな大層な殺気出してどうしたーっ?」
低い嗄れ声がわたしに向けられた。
ん? 大層な殺気? わたし、そんなの出してた?
「あの馬になんぞ恨みでもあるのかー?」
仕方ない。あの騎士様、この国の正規軍の騎士かもしれないし。無視して、なんぞ言い掛かりでも付けられたら面倒なことになりそうだし。
軍馬君が走り去るのを断腸の思いで見詰め、ゆっくりと足を止めた。それに合わせ、背後からの馬の蹄の音もスピードが落ちてわたしの横で止まった。
「で、どうした娘っ子」
と、わたしを見下ろす騎士様は……思ったよりもおじいちゃんな騎士様だった!
「えっと、その……ここ数日、お肉が手に入らなくて……いよいよとなったら、馬を潰して肉を食べるしかないかと考えていたら、馬が逃げちゃいまして」
「……娘っ子。あの立派な軍馬を食う気だったのか? そんなに餓えてんのかよ。ほれ、これでも食ってちっとは腹の足しにしろ」
ガッシリしたおじいちゃん騎士が、ぽんと馬上からわたしに包みを放った。
「ハッ! 有難く頂きます!」
はしっとキャッチして、包みの甘い匂いに目を細める。中身は……パンのような、でもパンにしては硬い焼き菓子のような? わからないけど、でもこれ絶対美味しいやつだ!
ボリボリと、香ばしいお菓子? を貪る。なんだか、食べたことのあるような気配というか……? なんだろ? ん? 祝福……っぽい感じ?
「おお、そんな腹減ってたか。もっと食えと言いたいところだが、生憎とシスの野郎から強奪した非常食は残ってなくてな。いや、飴玉くらいはあったか……?」
ガサゴソとおじいちゃん騎士が懐を探り、更にぽんと小さな瓶をわたしへ放った。中には、きらきらと輝く透き通った飴玉が二個入っている。
「わーい、ありがとうございます騎士様!」
お菓子? を食い尽くし、瓶を開けて飴玉を一粒。そっと大事に口へ入れる。
「あぁ……角砂糖より美味しい♪」
「……娘っ子。馬にやる角砂糖を食う程に餓えていたのか。よし、お前にめし食わしてやる。俺に付いて来い」
「ふぇ? え? きひはま?」
カラコロと口の中で飴玉を転がし、
「騎士様? どうしてですか?」
もう一度ちゃんと言い直す。
「俺は……まあ、一応騎士に戻りはしたが、そう呼ばれるのはガラじゃねぇ。俺はトマスだ。トム爺とでも呼べ。それに、な。その……」
トムさんはそっと目を逸らし、ぼそりと言った。
「この辺りは、少し前に魔獣や野盗共を一掃してな。で、また変なのが寄り付かないようちょくちょく見回りに来てたんだ。だから、その……この辺りに獣がいないのはそのせいでな。悪いな、娘っ子」
「あ~……」
道理で。ここ数日野盗の類も見なかったワケか~。そっか……まあ、正規の国軍なら定期的に賊や魔獣の討伐をするのは当然。今回は、偶々わたしがこの道を通る少し前にそれが行われたということ。
「そういうことで、詫び代わりにめし食わせてやる」
「そういうことなら喜んで!」
と、トムさんの後ろに乗せてもらって移動することになった。
「そう言やお前、この辺りのもんじゃねぇだろ」
「ぁ~、はい。そーですねー」
「娘っ子一人で旅か? 親はどうした?」
「ぁ~……その、わたし物心付く前には孤児だったんで」
「そうか。そりゃ悪いことを聞いたな」
「いいえー。美味しいごはんくれるなら問題無しです」
「美味いかはわからんが、腹一杯食うといい。俺の奢りだ」
「わー、ありがとうございます♪」
美味しいごはん! 国を出る前から、温かくて美味しいごはんなんて随分と食べてない!
『おーい、もしもーし? ……ちゃ~ん? 聴こ……んでしょ? 返事くらいしてよー』
ふぅ……なんぞ幻聴が聴こえて来るとは。
『ねーってばー。国戻らない?』
『うっわ、言葉遣い悪っ!』
ああ、ヤだヤだ。幻聴が返事らしきものを返して来た。きっと、空腹のせいだ。
「うん? なんか言ったか? 娘っ子」
「いいえー。なんでもありませーん。あ、でも」
「でも、なんだ?」
「この辺りに来てから、なんか丸くて光る物体? が、視界の端にちょろちょろしてるんですよねー? なんです、あれ? この地方に生息してる光る虫かなんかですか?」
「うん……? 光る虫? ぁ~、俺はそういうの見たことねぇが……」
『はっはっは! チビ共を虫けら呼ばわりとは、アイツらが聞いたら泣くぞ』
と、横合いからケラケラ笑う声がした。
「え? あの虫、鳴くの?」
『はっはっは、ぷんすか怒るか悔し泣きするかどっちかじゃないか?』
「へー……って、ん? ハッ! 風の……」
『よう! 久し振りだな、欠食娘! 前に見たときとあんまり変わらんな? お前、やっぱりまだめし食わしてもらってないのか? ふっ、そんなお前には食べ物を恵んでやろう。ちょっと前まで地面に埋まっていたが、浄化すれば食えんだろ。なんせ、ヒト族には三秒ルールってやつがあるからな! ほら、手を出せ欠食娘』
相変わらず人の話を聞かない風の精霊は、一方的に喋って、片手を差し出したわたしに少し土の付いたお菓子をぽんと乗せる。
「わぁ、ありがとう風の兄貴!」
『はっはっは! 遠慮は無用だ、さっさと食っちまえ』
「うん」
頷いて、お菓子に付いた土を払ってお菓子をパッと浄化する。
「頂きまー……」
『たべちゃだめ~っ!!』
お菓子を口へ入れようと瞬間、小さい子供のような高い声が脳裏に響いて……?
「ああっ、お菓子が消えたっ!!」
『んあ? あ、チビ共』
わたしの、手の中からお菓子が消えたっ!?
「酷い! わたしのお菓子~っ!?」
『ちがうのだ、それはわれらのおかしなのっ! かぜのにぃににとられたのっ!?』
可愛らしい声が、ぷんすかと怒っているように響く。
「え? えー……このお菓子、盗品なの?」
『いいだろ、別に。昔のお前らみたいな行動してたヒトの子が菓子埋めてたから、ちっと貰っただけじゃねぇか』
『きょーかいないで、たべられなくなったおかしはわれらのなのっ!!』
『そーだそーだ!』
『ロマンシスとのけーやく!』
『あと、よわいひとのこが、つちのついたたべものたべちゃメッ、なの! ぽんぽんいたいいたいしたらこまるでしょ!』
うん? あれ? なんかわたし、怒られてる? あと、ぽんぽんいたいいたいって……なに? あと、風の兄貴の周辺に光る丸い物体? から子供みたいな声がするような気がするんだけど?
『かぜのにぃにも、よわいひとのこにばっちいおかしあげちゃメッ! ひとのこはびょーきなったら、おそらにかえっちゃうこもいるんだからね!』
『メッ!』
『にぃにメッ!』
丸い玉? の光が、声に合わせてぴかぴかと明滅する。
『ふっ、安心しろチビ共。なんせ、この欠食娘は自分で浄化、治癒が使えるからな! 多少腐ったもん食ったところで、そう簡単には死にやしねぇ! なんせ、俺がコイツに浄化魔術を教えたんだからな! な、欠食娘』
「ぁ~、そう言えば……昔、カビたパンを泣きながら食べてたとき。どこからともなく現れた風の兄貴に、『身体に悪ぃもんは全部浄化して食っちまえ!』って、教えられたなー」
今から……もう十年以上も前のことだ。ごはんがもらえなくて、お腹空いてたときに非常食として隠していたパンを思い出して……カビてるのに絶望して、でも空腹には勝てなくて。カビの少ないところをどうにかちびちび食べてるときだった。『そんなもん食ってっと、人間の幼体はすーぐ身体壊すぞー』と頭上から声がした。
不思議に思って上を見上げると、なんか人っぽいものが浮かんでいた。それが、わたしと風の兄貴との出逢いだ。「これしか、たべるの……ない」そうめそめそ答えると、『ぁ~、まあ食糧難ってな、どこの地域にもあるもんだからなー。なら、浄化魔術覚えろ。見たとこ、お前魔力強いからな。なんかこう、アレだ。穢いもんを、バシュっ!! と掃除するとか燃やすイメージの魔力で包んで無毒、無力化する感じ?』と、浄化魔術のコツを教えてくれた。
大分、感覚な感じの教え方だったけど。『よーし、覚えたな? なら、これからは身体に悪ぃもんは全部浄化して食っちまえ! あと、念の為に腹に身体強化掛けとけ。あ? 身体強化がわからねぇ? ああ、アレだ。身体頑丈になれって思いながらぐっと身体を魔力で覆うんだよ』って、言われて……誰? と、問う前に兄貴は消えた。
なんかこう、ちょっとヤバそうなものを食べるときの心得? を残して。
それから、数年に一度くらいの頻度でわたしが一人でいるときに声を掛けて来るようになって、『あ? 俺が誰かって? そうだな、俺は風の精霊だ。兄貴と呼べ!』と、食べ物を恵んでくれるようになった。『ほれ、そこに落ちてたからやる。ちょっと砂付いてっけど、払って浄化すりゃ食えんだろ』と、土や砂の付いたお菓子をくれたりした。
あ! さっきのトマスさんに貰ったお菓子! あれ、昔風の兄貴から貰ったお菓子に感じた祝福と似た魔力をしてるんだ! って、ことは……お菓子職人さんは風の兄貴の知り合い?
『ふびんなこ……』
『かわいそー』
「お陰で、浄化魔術は割と得意。毒や腐ったもの食べても死なない、胃腸が鉄壁の卑しい孤児って有名になったし」
あと、隠しておく食糧には浄化を掛けてから真空状態の結界を張っておけば、結構腐り難くなるってことも風の兄貴に教わった。
『ふっ、いいか。チビ共。この欠食娘の憐れさは、かなりのものだぞ。聞くも涙、語るも涙な話だ。よーく聞け。この欠食娘はな……』
『けっしょくむすめは?』
『むすめはー?』
『なーに?』
『この年になるまで、菓子を殆ど食べたことが無い!』
「は?」
なにを言い出すかと思えば。そんなことと、若干呆れていると……
『うっ、うぅ……なんて、あわれな……』
『か、かわいそすぎるっ!』
『じんせい、なにをたのしみにいきればいいの~っ!?』
なんか、丸い玉が激しく明滅して子供の泣き声っぽい声が響く。
「え? ええっ!? そんなにっ!? つか、マジで泣いてるのっ!?」
『う、ひっく……ものしりなわれらは、しってるのだ。ひとのこがすこやかにせいちょうするのに、おかしがかかせぬことを……』
「えー……そう、なの?」
わたし、孤児だからあんまり一般家庭のことは知らないんだよね。
『そうなのだ! おかしをたべたことのないひとのこは、おそらへかえることがおおい。よって、われらは……おかしには、ひとのこのすこやかなせいちょうにかかせぬ、なんかすっごくすごいえいようそや、しゅくふくがこめられているとけつろんづけた!』
ぴかぴかと、明滅しながらの力強い断言。
「へー……」
まあ、お菓子には大抵、小さくとも祝福が籠められているのは確かだ。相手を害そうと考えてでも作っていない限り、手作りのお菓子には『誰かに美味しく食べてほしい』という願いが籠められているものだから。商品のお菓子でも、義務で作られたものでも、食べる相手が憎い相手でもない限りは、微細な祝福の味がする。
あ、そういう意味では……祝福は、ある種の幸運を与えるものと言える。先程から、丸い玉が言うお空へ帰る、は……還る、の方かな? は、天へ還るという意味なのだろう。
そう考えると、食事ができない子は死に直結するし。微細でも祝福の積み重ねを受けられない……お菓子などを食べられる余裕が無い子は、死ぬ確率が高くなるということ……かな?
まあ、食事の他にお菓子が食べられる余裕のある子が……食べさせてくれる誰かに庇護されているような子が、生き残る確率が高いのは当然のこと。
少々曲解が過ぎるけど、このぽわぽわ光る丸い玉達の言ってることは間違っていない。
「なあ、おい。娘っ子。さっきから、なに一人で喋ってんだ?」
低い嗄れ声が割り込んだ。
「え? あー、なんか知り合いの風の精霊と……その知り合い? が、偶々こっち来てたみたいで。なんか、わたしに話し掛けて来るもので」
『あ、とます。われらのこえ、きこえないんだった』
『ま、基本精霊術師に増幅召喚でもされない限り、魔力の弱い人間に精霊は認識できねぇからな!』
「そうか……お前、精霊の姿が見えて声が聞こえるんだな」
「? そうみたいですね」
前いたとこじゃ……風の兄貴は兎も角、ぽわぽわ光る丸い玉なんて見たことないけど。
「お前、精霊術師か? それとも……」
『うん? この欠食娘は、神罰竜が微睡む地の聖女だぞ』
「いいえ違います! わたし聖女じゃありませんから!」
『お、なんだ? とうとう辞めたのか?』
風の兄貴の問い掛けにコクコクと頷く。
そう、幼少期に孤児として治癒能力の高さで商売しようと思ったら、どこぞから現れたヒトに神殿に連れて行かれ、いつの間にか聖女という名誉職に無理矢理就けられて、かなり酷い待遇で馬車馬の如く働かされた。
劣悪な環境、粗末な食事。なんなら、その粗末な食事すら神官共の機嫌如何で抜かれるというクソみたいな劣悪さ! 更には、新しい聖女候補が現れたから? わたしの役職を解任して? けれど、新しい聖女は力を使いこなせないから、代わりに働け? 挙げ句、新しい聖女に嫉妬して、聖女の仕事を邪魔した? とか、意味不明な言い掛かりを付けて、使い潰されて擦り減ったわたしを処刑する?
という天啓を受けたので……そんな国でやってられっかよっ!! と、新しい聖女に全~部丸投げして、セルフ追放で国をほっぽって出て来た。あとは知らん!
『折角、あ~んなことにならないように! って、俺が最悪の未来視せてあげて、栄養失調治してあげたのに。聖女ちゃんさっさと国出てくんだもんなー』
読んでくださり、ありがとうございました。
お久し振りですが、ロマ爺出てません。でも、存在感はちょっとだけ?(*ノω・*)テヘ
どこぞの国でセルフ追放して出奔した不憫な子視点。シリアスっぽい短編シリーズに入ってる、
『新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!』の聖女ちゃん。
下位精霊達は、なにげに自己肯定感つよつよ。割と精神的に無敵な幼児な感じ。(*>∀<*)
風の精霊『ふっ、いいか。チビ共。この欠食娘の憐れさは、かなりのものだぞ。聞くも涙、語るも涙な話だ。よーく聞け。この欠食娘はな……』( ・`д・´)
微精霊『けっしょくむすめは?』(੭ ᐕ))?
『むすめはー?』(´・ω・`)?
『なーに?』( ・∀・)
風の精霊『この年になるまで、菓子を殆ど食べたことが無い!』(*`▽´*)
微精霊『うっ、うぅ……なんて、あわれな……』(つд;*)
『か、かわいそすぎるっ!』( TДT)
『じんせい、なにをたのしみにいきればいいの~っ!?』。゜(゜´Д`゜)゜。
元聖女「え? ええっ!? そんなにっ!? つか、マジで泣いてるのっ!?」Σ(O_O;)