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SS集04 真と鏡花は見た!

 美羽(みう)ワンダーランドの隣に新しく出来た、アミューズメントプールを訪れている鏡花(きょうか)(まこと)

 篠原美佳子(しのはらみかこ)の誘いで来た2人は、物陰からプールの方を窺っている。何故そんな事をしているかと言えば、鏡花がとある疑いを持ったからだ。


「本当に篠原さんが恋をしているのか?」


「きっとそうだよ! ほら見てよ!」


「……確かに、仲は良さそうだけど」


 2人が見ている視線の先には、最近になって美佳子の家で家事代行を始めた少年。東咲人(あずまさきと)と一緒に過ごしている美佳子の姿があった。

 恋愛初心者も良い所だった鏡花でも、美佳子の変化に気が付いていた。以前から楽しそうに咲人の話をしていただけに、もしかしてという予感はあった。

 それがこのプールへのお誘いで確信へと至ったのだった。なお普通の女性であれば、それ以前に確信を持ったであろう事は間違いない。

 他人の色恋に気が付けただけでも、大学生になった鏡花の成長が感じられる。


「あれは絶対恋をしてるよ!」


「いやーでも、まだ何とも言えなくないか?」


「…………ちょっと姉弟っぽい、かも?」


 鏡花の確信(?)が早くも陰りを見せ始める。事実としてこの時点で美佳子は咲人を意識していた。

 しかし現状の関係性は、傍から見ると仲の良い姉弟にも見える。仲良く流れるプールを堪能しているだけだ。

 付き合っている様な空気感もなく、距離感も恋人同士のそれではない。冷静な真の指摘により、勘違いかも知れないという気持ちが鏡花の中に生まれる。

 そうだった場合、ただの勘違いで覗き見をしているだけになってしまう。そんな懸念が鏡花を支配し始めた時だった。


「なあ、あれって篠原さんの知り合いか?」


「え? いやぁ、どうだろう?」


「フレンドリーな感じではあるが……」


 2人の視線の先では、20代半ばぐらいの男性達3人組が美佳子に笑顔で話し掛けている。

 咲人が美佳子の側から離れてしまったので、遠くから見た雰囲気でしか判断がつかない。

 これで現場に咲人が居て、彼が怒っている様なら真も参戦するが居ないので分からない。

 なまじ大人な対応をしている美佳子がスマートなだけに、2人から見て関係性が不明だった。

 ナンパと判断して出て行って、違った時に何と言い訳するか。覗き見をしていた2人は、そこがネックになって動けなかった。


「あ!? 見てよ真!」


「お、おお。篠原さん()()だな」


「やっぱり、東君に恋してるんじゃない?」


 どうやら男性達はナンパだったらしく、咲人が戻るなり美佳子が彼と腕を組んだ。3人の男性達の前で、それらしく振舞った後に2人が離れて行くのが見えた。

 こうなって来ると、真も疑い始める。連れが居る事を示すだけなら、まるで恋人の様に振る舞う必要はない。

 しかし美佳子は敢えて、そんな風に偽って見せた。その上その後も、2人は仲良さげに手を繋いで行動する様になっている。

 これには恋愛初心者の2人も、美佳子の気持ちに気が付き始める。少なくとも単なる雇い主と雇われた者の関係性にはもう見えない。


「でもそうなら、東君は凄いな。良くもまあ、あんなに出来る大人の女性を惚れさせたな」


「えっ!? あっ、ああうん。そ、そうだよね」


「ああ見えて、立派な子なのかな」


 真だけは美佳子の真実の姿を知らない。ましてや2人の出会いが、酔っ払って路上でぶっ倒れていたからとは想像も出来ない。

 真はバリキャリお姉さんが忙しくて仕方なく、咲人を家事代行として雇っていると勘違いしている。

 実際は生活能力が致命的過ぎてどうしようもないからだが。その事実を知っている鏡花は、何とも言えないリアクションしか出来ない。

 そろそろ真実を教えるべきか、女性のプライベートを守るべきか。恩人の名誉が掛かった内容だけに、未だに鏡花は決め切れずにいた。


「篠原さん、楽しそうだよな」


「確かに。普通の女の子みたいだね」


「あんな風に笑う事もあるんだな」


 真実を知る鏡花も、知らない真も見た事がない美佳子の姿。篠原美佳子という1人の女性として、伸び伸びと過ごしている。

 ちゃんとしていれば超絶美女な美佳子が、鏡花の言う様に普通の少女の様に笑っている。それは数年に渡る付き合いのある、鏡花ですら一度も見た事が無いもの。

 初めて見たそんな姿が、鏡花は自分の事の様に嬉しく思えた。結婚なんて出来ないと嘆く恩人が、とても良い相手に巡り会えたという事だから。

 それに咲人の方も、美佳子を異性として見ている様に見える。確かに年齢差があるとは言っても、後2年ほどで彼は成人する。

 それ以降であれば大手を振って交際が可能だ。そもそも親が認めれば、16歳でも結婚は可能なのだから。


「上手く行って欲しいね」


「そうだな。俺達は、篠原さんのお陰でこうしていられるんだからな」


「うん。だから篠原さんには、幸せになって欲しいんだ」


 2人が見守っているとは知らずに、美佳子と咲人は仲睦まじく笑い合いながら過ごしている。

 あんまり長く観察を続けるのも悪いと考えた真と鏡花は、その場を離れる事にした。美佳子と咲人の2人に、内心ではエールを送りながら。

篠原さんスピンオフの39話~40話辺りの舞台裏でした。

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