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ゴ(キ)ブリン退治1

ギルドに戻り事の報告と報酬を受け取った後のことである。2人は宿に戻ったのだが、さすがにシングルの部屋に2人泊まるわけにもいかず、瞬は個別にシングルの部屋を借りることにした。

風呂に入って汗を流した後夕食を済ませ、瞬は部屋に戻ってベッドに転がる。

瞬にとって今日1日は色んなことが起こりすぎた日であった。

城を摘み出されたこと。エアリアに拾われたこと。力を手にして冒険者になったこと。

そして、自分の中で誓いを立て、エアリアと恋仲になったこと。

その日1日を反芻し、思い返していた。


そうして物思いにふけっていると、コンコンとドアをノックする音に現実に引き戻される。

起き上がり、ドアを開けるとエアリアが私服で立っていた。私服、といっても着飾ったものでもなく、ただ鎧や装具を外しただけで、装具は腰のポーチだけである。


「…話したいことがあるの。入っていい?」

「も、もちろんだよ。入って入って」

エアリアを中に招き入れ2人並んでベッドに腰掛ける。

食事の時は向かい合わせで座ったためわからなかったが、いい匂いがした。

「…話しておきたいのはアリーのことと、ヴァサー教会について」

そう切り出してエアリアはポーチから手のひらほどの人形を取り出し、慈しむように頬を擦り寄せる。

「…この人形はアリーの形見。アリーは18年前魔神王を倒したけど、魔神王の呪いによって身体が蝕まれていった」

瞬はかける言葉もなくただ黙って聞いていた。

「…私が拾われたのは10年前。アリーによって私は助け出され、娘として育てられたの。そして2年前亡くなり、エウルードを受け継いだ。このことを知っているのはヴァサー教会の上層部と一部のギルマス、王族だけ」

淡々とした口調だったが表情は暗い。

「教会やギルドはエアリアがホムンクルスだと知っているってことなの?」

「…うん。私は見逃されている。英雄であるアリーの娘としていざとなれば旗印にならなければならないし、神の器を潰すという共通の目的もあるから」

「敵の敵は味方というやつか」

ちょっと意外であった。瞬にとってこういう世界の教会の信者といえば狂信的なイメージがあるのだ。

「…そう。共闘関係にある。でも教会にはなるべく協力しなくちゃいけない。私の系譜はヴァサーの系譜から外れているから鑑定されてもホムンクルスとは出ない。だから露見することはほぼないと思う」

そのことを聞いて瞬は少しほっとする。教会というのがどういう集団かわからないが、敵は少ないに越したことはないからだ。

「それは当たり前だよ」

「…うん。それと、私が気になるのは奴らも私のことは知っているはずなのに、何もして来ないこと。私はこれまでいくつも研究所やアジトを潰している。それなのに何もして来ないのが不気味で仕方がないの」

確かに気になる話であったが、答えはどれも憶測の域を出ない。

「…私には元々言うことを聞かせるために隷属魔法がかけられていたんだけど、それはゼナが解除してくれてる。あ、ゼナは私の魔法の師匠なんだけど、この世界では有名な賢者なの。性格はちょっと変だけど」

隷属魔法と聞き瞬はあらぬ妄想を抱いてしまう。と同時に背筋が凍る話でもあった。

「れ、隷属魔法なんてあるのか…」

「…ある。ただ使うにはかなり厳しい条件がある。同意による契約か、生まれた時に組み込むか、だけど私は後者」

つまり強制的にかけるのは通常無理ということがわかり瞬は力が抜ける。

「…それで先ずはゼナに会って欲しいの。ゼナはダルクアンクを見つけるには神代創魔師が必要と言ってたけど、その方法も場所も私は知らないから」

「…なんでゼナはそのことを知ってるの?」

瞬にとってそれはどうしても気になる所であった。それはつまり、以前に見つかっており何かの理由で封印なりなんなりがされている、ということである。そもそも見つかっていなければレプリカなど作りようもない。

「…わからない。考えたことなかった。もう1000年以上生きてるから?」

うーん、と顎に人差し指を当て、上を見る。

「せ、1000年…!?」

その長生きっぷりは絶句ものである。きっとかなりのジジィに違いないと邪推する瞬であった。

「…長い旅になるけど、お願い」

「もちろんだよ」

さりげなく手を握る。拒否はない。

瞬の心臓の鼓動が跳ね上がる。

「…ありがとう」

不意にエアリアが瞬の首に手を回して引き寄せる。

そして額に軽く口づけをした。


完全に不意打ちであった。

顔を赤く染めたまま見上げるとエアリアも頬を染めている。

「…シュンはこっち」

自分の左頬を見せ、指で指し示す。

「…夢の中では右だった。だから今度は左」

夢の中と言われても瞬にとっては今日会ったばかりである。いつの夢か気なってしまった。

「え、いつ見たの?」

「…シュンを拾う前に見た。シュンは夢に出てきて私を助けてくれた」

会う前に夢で会うとはどういうことなのか。エアリアが嘘をついてるようにも見えないし意味もない。そのことは瞬も理解している。


それではまるで自分がエアリアの運命の相手のようで。


そしてそれがとてもロマンチックに思えて。


今度は瞬がエアリアを抱き寄せて頬にキスをした。

そして2人視線を交わすと今度は唇を重ねるのだった。


「…じゃ、おやすみ」

エアリアは顔を真っ赤にして自分の部屋に帰って行った。




翌朝街に鐘の音色が響き渡り朝を伝える。

朝の第1の鐘が鳴る頃。それは地球で言えば朝の6時である。

召喚された地球人のおかげで文明も進み、時計ももちろんあるのだが一般にはまだ高価であったためこうして時間を伝える習慣が残っているのである。

そしてこの世界の朝は早い。空はまだ少し薄暗いが、ゆっくりと日が差して明るさを取り戻していく。


瞬達の泊まる宿では既に朝食の用意がされており、2人も既に食べ始めていた。


「ゴブリン退治?」

「…そう。駆け出し冒険者は第3等級以上の冒険者と組む場合講習が免除されるのは、そのランクの冒険者が教導資格を有するから」

エアリアの説明にふむふむと頷く。

「つまり実地で教えられるからと」

「…そう。私はこれでも第1等級。その上に特級があるけどそれは歴史に残るような功績が必要」

つまり実質最上位であると言いたいのである。もっとも、エアリアに驕りはなく、淡々と話している。それでも瞬は駆け出しで第6等級スタートなのだ。イーマに勝ったことで実力ありと判断され、通常よりは高いランクのスタートなのだが等級差はかなりあった。


「それでゴブリン退治かぁ。この世界のゴブリンてどんなのかな。やっぱり緑色で小さいの?」

ゲームやアニメでのイメージはあるが、ここは本物の異世界である。全く同じとは限らない。

「…そんな感じ。チキューというとこにもゴブリンいる?」

「いないよ。空想のお話なら出てくるけど」

「…同じイメージなのは驚き。ゴブリンは身体は小さいけど侮れない相手。シュンや私ならオーラを使えば傷1つ受けずに殲滅できるけど、普通は初心者の壁なの。だから1度体験してほしい」

瞬にとってのゴブリンのイメージは序盤の雑魚である。初心者の壁とはえらく高い評価に思えた。

「…一匹一匹は大したことないけど、洞窟にこちらから攻め込めば数と薄暗さ、地の利で条件はかなり悪いし上位種がいれば難易度は跳ね上がる。毒を使うものもいるし武器も使う頭がある。そして繁殖力も高いからすぐに数も増える。そして何より女の敵。捕まれば女に生まれたことを後悔させられる」

それを聞いて瞬は納得する。そこを考えると確かに厄介な相手だと思えた。そして女の敵という表現も納得である。

「つまりでっかい寄生虫だね。繁殖力も高い嫌われ者か…」

繁殖力の高い嫌われ者、と言って真っ先に思い浮かぶ存在があった。


「まるでゴキブリだな。名前も近いし」

ゴ(キ)ブリン。確かに近いな、と自分で言ってうんうん頷いていると、エアリアの顔が真っ青になっていた。

「…ゴ、ゴ、ゴキブリ…ン…!」

うわ言のように口走るとフォークを持つ手がガタガタと震えていた。

どうやらこの世界にもゴキブリはいるらしい。

そしてエアリアもゴキブリは苦手のようだった。

「…ゴキブリ怖い。シュンのせいでゴブリンと戦えなくなりそう…」

もう半泣きである。

「そこまでか!」

意外な反応に驚く瞬であった。



朝食を済ませて2人は冒険者ギルドに向かう。

お目当てのゴブリン退治は報酬が安く、そのくせ初心者には難易度が高い。それゆえ人気がないのだ。依頼の取り合いでも必ず残る代物なのでゆっくり行けばいいのだが、エアリアは瞬に朝の様子を見せるため早めに来たのである。


ギルドに入ると依頼の掲示板の前には人だかりが出来て戦場のようであった。依頼は依頼書をとった者に優先権があるため皆必死なのだ。

そして取ったものから受け付けに並ぶため、受け付けもすでに長蛇の列が出来ていた

「凄いね」

その様子をポカーンとして眺めていた。

「ゴブリン退治は人気がないから大丈夫。受け付けでも持ってるはずだからそのまま並ぶ」

エアリアに促され、瞬も一緒に並ぶ。


そこから待つこと30分。ようやく2人の番が回ってきた。

「…教導でゴブリン退治をお願い」

「あ、教導でしたら是非新人さんも見て貰えませんか?」

教導と聞き、受け付け嬢が両手を合わせて頼み込む。エアリアは少し瞬きすると、

「…構わない」

と承諾した。

「ありがとうございます。何でも新種も混じってるらしく、新人さんだけでは荷が重くて」

「…新種?」

新種と聞き、少し興味が湧いたようである。

「ええ。なんでもちょっと黒っぽくて背中に虫みたいな甲羅があるとかで…」

「…ゴ、ゴキブリ…ン…?」

思わず想像してしまい、エアリアの顔色が青くなっていく。


エアリアは引き受けたことを後悔した。

ゴキブリン…。なんか想像したらテラフォーマーズみたいなのになってしまうw


次回ゴキブリン退治編完結まで毎日2話投稿します。

時間ちょっといじくりますすいません(ll๐ ₃ ๐)

PV増やしたいw


次は19時どえす


とりあえず今月中に20部分までは書きたいのでたまに連投するのです。4月は50部分が目標(๑•̀ㅂ•́)و✧

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