超魔王ピオル
魚鱗の陣形を取り、部隊は進撃を開始した。
数々のグレーターデーモンも聖剣を得た勇士達により斬り伏せられ、あるいは浄滅魔法に浄化させられていく。
体躯の大きいオーガ種も多かったが、切れ味の良い聖剣の前にその腕力を振るう間もなく脚を切り落とされ、倒れたオーガから順にトドメを刺されていった。
ベルムント兵の士気は高く、並み居る悪魔達を押し退け進軍する。
「聖滅拳!」
水衣の拳が巨人の足に食い込むと光が爆ぜ、その足を跡形もなく吹き飛ばす。バランスを崩した巨人が片膝を付くとその衝撃で地響きが起こる。巨人の手が大地に降りるとその隙をついて防御を無詠唱で連発。階段のように防壁で足場を作りながら一気に駆け上がる。
瞬の加護のおかげでもはや魔法に詠唱を必要としなくなったおかげであった。
「聖滅天掌!」
巨人の胸の位置まで瞬く間に登り、心臓目掛けて掌打を撃ち込む。そこから内部破壊が広がると巨人の身体が震え、動きを止めた。そして一拍おいてゼロ距離からの砲撃魔法が発動し、脆くなった筋肉を貫いて光が胸を突き抜け心臓に穴を空ける。
撃ち終わったら再び防御で足場を作りながら退避すると巨人が血反吐を吐いて倒れ、悪魔を巻き込んで地に沈む。
倒れて動かなくなれば、瞬からもらった収納用の指輪で死体を回収である。そうやって道を作り、門前の道を確保するよう部隊が動く。
「…みんな強くなった。これなら安心」
「十分規格外ですよ…」
「いやいや流石は私の恩恵を受けた聖女です。私も鼻が高いですよ」
水衣の活躍にゼナが舌を巻き、それを誇らしそうにサヴァードが笑う。ここまで瞬達はほとんど手を出していない。街へ入るべくエライネ、水衣、明、宮松が先導し、邪魔な悪魔たちを掃除していく。
門前をくぐり抜け、街中へ入ると一斉にグレーターデーモンが上空から襲いかかって来た。
「天地光昇剣!」
明の魔法陣剣で光が広がり、グレーターデーモンを消し飛ばしていく。人体に無害な浄滅魔法のため乱戦でも重宝する技であった。
しかしエアリアには有害なため、そこは自身の深淵気でしっかりガードしている。
「さすが勇者ですね。いやー、恩恵を与えた人が活躍すると嬉しいですねぇ」
サヴァードも明の活躍にご満悦であった。剣の扱いにも慣れて実戦経験も少し積んだおかげで、その成長ぶりは目を見張るものがある。これからが楽しみだとサヴァードが褒める。
「シュンの加護も大きいようですが」
「何か言いましたか?」
「いえ、なんでもありません…」
チャチャを入れるとジロリと睨まれ黙るゼナであった。
エライネも奮闘し、ネームドの大悪魔を一太刀で斬り伏せ8人は城を目指す。距離はあるが、目視で既に城が見えていた。
「ここからなら飛んで行けるかな? エアリア、僕にしっかり掴まって」
「…うん」
瞬の後ろから手を回して抱きつくと、おんぶする形で瞬が背負う。そして少しづつ宙に浮くと、ゼナとサヴァードも宙に浮き始めた。
「じゃあ行ってくる!」
「おう! 生きて帰ってこいよ!」
「負けんじゃねーぞ!」
「頑張って!」
「頼んだぞ!」
4人に見送られ、飛翔魔法で一気に城を目指す。
「城壁はお任せあれ。爆散球!」
ゼナの生み出した光の球が城の壁を破壊し、穴を空ける。その穴から侵入すると、エアリアを下ろして謁見の間を目指して走る。すると前方から兵士達が走ってきた。
「く、く、曲者!」
兵士たちは完全に腰が引けていた。命令され無理矢理従わされてはいるものの、侵入して来た相手はどう考えても自分たちの手に負える相手では無いことくらい理解している。
いや、むしろピオルを倒して欲しいとさえ思っていた。そんな心情を読み取ってか、サヴァードが前に出る。
「落ち着きなさい。私たちはピオルを倒しに来ました。あなた方はピオルのために生命を捨てたいと思えますか? 同じ命をかけるなら正しいことに使うべきです」
サヴァードに説き伏せられ、兵士たちは槍を下ろす。
「ピ、ピオル…様はこっちです」
そして兵士たちが先導し、城内を走る。一際大きい扉の前に着くと、兵士たちが目配せをして大扉を開けた。
「よろしく…お願いします!」
兵士たちが一礼すると、瞬達は黙って謁見の間へと入っていった。謁見の間では仮面の女王ピオルがワイングラスを片手に1人玉座に座っていた。
「うふふふふ、ようこそ皆さん。やっぱり雑魚どもじゃあなた達の相手は無理ね。いいわ、私が相手をしてあげる!」
ピオルは立ち上がるとスラリと剣を抜いた。そして深く、暗い絶望気を展開させる。
「まさかこれ程とは…。10年前とは格が違いますね」
サヴァードがかつて神界で見たピオルは深淵気すら纏っておらず魔王ヴェールより格下だった。それこそ瞬やエアリアなら瞬殺できる程度である。しかし今やその力は魔王ヴェールをも凌いでいるとサヴァードは感じていた。
「そうでしょうとも。ヴァルバロイも馬鹿よね。この仮面に私が潜んでいることも知らずに力を封じるなんてね! ほんと馬鹿な子だわ!」
ヴァルバロイの正体は未来の瞬であり、自分が馬鹿扱いされたようでピキッ、と青筋が立つ。
「誰が馬鹿だって!?」
「あら、あなたヴァルバロイじゃない懐かしい顔ね。だってそうでしょう? あの子の大事な子を奪ったのは私なのよ。そこの神が魂に干渉しようとしていたから邪魔したの。でもヴァルバロイったら勘違いして神を殺して、もうおかしくっておかしくってねぇ! あーっはっはっはっはっはっ!」
ピオルは思いっきり声をあげて笑い、瞬を挑発する。そして瞬がブチ切れた。
「お前の…せいかぁっ!!!」
高速のステップで迫り、神光気を纏ってジャブを放つ。ピオルは素早く横に跳んで避け、剣を振るった。
その剣を軽々かわすと一気に間を詰め、右ストレートがピオルの胸をとらえた。
…はずだった。ピオルの左手が瞬の右拳を受け止めていた。
障壁で防がれたことはあったが、手で受け止められたのは初めてである。
「…!」
「死にな!」
ピオルが剣を振り下ろす。しかしそれより早く瞬は後ろへ飛び退き距離を取ると、ピオルの剣が空を切った。
そして横から回り込んだエアリアがエウルードを振るう。ピオルは素早く反応し、剣で受け止めた。エアリアは素早くエウルードを引くと、突きに切り替える。後ろに跳んで回避。そこを瞬が狙う。
「神気閃光!」
その光線をピオルは絶望気で受け止めた。
「効かないわねぇ…」
ピオルがニヤリと笑う。
「…その身体、アリスのものだね。アリスをどうしたの」
「アリス? その子なら私の中で眠ってるわぁ。可哀想に、大好きな人をあなたが殺したからね」
ピオルはクスクスと笑いエアリアを指さす。
「…何の話?」
「マウテア、だったかしら? 殺したんじゃないの?」
「…殺してない」
「なんだ、幻術か。つまんないわね。代わりに死んでちょうだいね?」
ピオルの絶望気が更に膨れ上がった。
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