魔王ヴェールVS瞬 後編
「ふははははっ! 行くぞ!」
深淵気を纏い魔王が瞬に迫る。何かを掴むように右手を開くと、右手が赤い光を放つ。
「破滅の爪牙!」
瞬が素早く横に回り込み、その手から避ける。魔王の右手から赤い魔力がほとばしると地面に凄惨な爪痕を残す。さらに魔王の左手も赤く光り、斜め下に振り下ろした。その攻撃もしゃがんでかわし、距離を詰める。
胸に左ジャブ。これは障壁に阻まれる。そして右ショートフック。魔王の障壁に亀裂が入るがまだ届かない。
そして魔王の膝蹴りをバックステップでかわす。そこから左のジャブが鞭のように伸び、障壁の亀裂を広げた。
「ぬうん!」
魔王が再び深淵気を爆散させると、黒い衝撃波が全方位に飛ぶ。瞬はそれを神光気で受け止め相殺した。
「神気閃光!」
そしてお返しとばかりに神光気を魔法として増幅させ、白銀の光線として飛ばす。
魔王は間一髪障壁を張り直し対抗するが、その一撃に障壁は破壊され、光に呑み込まれた。
光線を撃った後には腕で肉体をガードした魔王が立っていた。しかし身体のあちこちに焼けた痕があり、ダメージがあったことがわかる。
「千の光矢!」
そこに追撃の光の矢を撃ち込む。と同時に瞬間移動で魔王の10メートルほど真上に出ると、
「神気閃光!」
もう一度白銀の光線を頭上からお見舞いする。その光線で闘技場の地面にぶつかると、けたたましい音を立てて地面がえぐれていった。出来上がったクレーターの中から魔王がその姿を現す。倒れてはいないが膝をついており、効いているのは間違いなかった。
飛翔で急降下し、魔王に迫る。ヴェールは迎撃とばかりに頭上に闇の閃光を放つが既に瞬はいない。いつの間にか懐に飛び込んでおり、鋭く放ったフックが魔王のみぞおちに食いこんだ。
「ぶふぁっ!」
思わず息を漏らす。そして打ち抜いた拳に押され、その身を吹き飛ばされるとクレーターの壁に激突した。
もうもうと土煙が立ち、クレーターの土壁に魚拓ならぬ魔王拓が出来上がる。
しかし魔王は埋まった壁から這い出ると不敵に笑う。
「なかなか効いたぞ。喜べ、魔王の本気を見せてやろう!」
魔王は上に着ていたコートを脱ぎ捨てた。深淵気が膨れ上がり、肉体が灼けるような赤に染まりゆく。
「行くぞ。一瞬で終わってくれるなよ?」
魔王が熊の威嚇のように両手を掲げると両手が赤く光を帯びる。そして一気に間合いを詰めながら暴れるように両手を振り回した。手が虚空を引っ掻く度に赤い爪撃が飛ぶ。
「防衛!」
目の前に障壁を4枚重ねる。赤い爪撃一発で障壁に亀裂が走り、2発目で1枚の障壁が音を立てて砕けた。
その間にも間合いを詰めると魔王の拳が唸りをあげる。連打で防衛の障壁を叩き壊すと、瞬はカウンターとばかりに神気閃光を放つ。
白銀の光が魔王を呑み込むと、瞬はすぐさま瞬間移動でクレーターを出る。すり鉢状のクレーターでは瞬も戦いにくいのだ。
砲撃魔法でまたもクレーターの壁に埋もれた魔王はゆっくりと壁から出てくると、高く飛び上がりクレーターから脱出。再び瞬と対峙する。
「タフだね。そろそろ倒れてくれると嬉しいんだけど?」
「いや、これでも結構効いていてね。私としてもそろそろ決着をつけたいところなのだよ」
2人は同時に構えをとる。瞬はいつものスタンダードなボクシングスタイル。魔王は右手を引き、全力の一撃を拳に込めるつもりだ。
「いくぞ!」
魔王と瞬が同時に駆ける。それは一瞬の勝負。
魔王の全力で打ち下ろした拳をギリギリでかわし、瞬の拳が魔王の顔面を捕らえる。
全体重と神光気、魔力を込めた必殺のジョルトカウンター。その一発で魔王の身体が崩れ、両膝をついた。そこから更に瞬の猛攻が始まる。
「終わりだ! 魔王ヴェール!」
転瞬潰滅。
瞬が猛連打を魔王ヴェールに撃ち込み、最後のアッパーと同時に神気閃光を放つ。
魔王は高々と打ち上げられ、そして地面に背中を打ちつけ、小さく呻き声をあげた。
瞬は魔王の元まで歩み寄り、見下ろす。
「魔王ヴェール。認めろ、僕の勝ちだ」
「ああ、認めよう。貴様の勝ちだ。さぁ私を殺せ」
魔王は大の字になりながら血反吐を吐く。
「断る。神様なんかになるつもりはないね」
「知ってたか。なら好きにしろ」
「それより早く戻して欲しいんだけど?」
「いいだろう。向こうも終わったようだしな」
「なに?」
その瞬間景色が戻り、扉の開いた教会が目の前に出現した。
エアリア達はいない。中にいるのだろうと思い、瞬は中へと入る。中は椅子とテーブルがきっちりと整列して並べられ、奥の石像に続く道には赤い絨毯が敷かれていた。
その石像の前にはエアリアとゼナがおり、マウテアが縛り上げられている。アリスとアルハザードの姿は無い。
「エアリア! ゼナ!」
瞬が声をかけるとエアリアとゼナが振り向く。
「ああ、勝ちましたか。それは良かった。しかし…」
「…ごめん、ダルクアンクは奪われた」
エアリアもゼナも落ち込んでいた。一方の縛られたマウテアはふふん、と不敵に笑っていた。
「マウテア! お前どういうつもりなんだ!」
瞬がマウテアに詰め寄り襟首を掴む。それこそ殺気すら滾らせるほどの眼光でマウテアを射抜いた。
しかしマウテアは動じない。それどころか確固たる意思を持って答える。
「私は真実の愛を見つけたのだ。アリスを救えるのは私しかいない。アルハザード様はおっしゃった。アリスのためにあのダルクアンクが必要だと!」
「さっきもそんなこと言ってましてね。どうしたものか」
「とりあえず石にしてそれから考えよう」
「は…? 石…?」
瞬がマウテアの肩に手をやると、そこから石化が広がっていく。ピシピシと音を立てて石になっていく自分を見てマウテアは思わず鼻水を吹き出した。
「な、な、な、な、な、なんですかこれはぁぁぁっっ!?」
絶叫したままマウテアは石と化した。そして無限収納にしまい込む。
「後でゆっくり尋問してアジトを聞き出そうか」
「いやー、それが知らないらしいんですよね。転移で連れてこられたそうなので」
「…困った」
3人はとぼとぼと教会を出る。倒れていた魔王の姿はもうない。代わりに1人の神官が立っており、顔を真っ赤にして怒っていた。白い神官服に身を包んだ爽やかそうな青年なのだろうが、眉間にシワを寄せて甘いマスクを台無しにしている。
「ゼナ…、これはどういうことですか!? ダルクアンクは、ダルクアンクはどうしたんですか!!」
「サ、サヴァードではないですか、随分来るのが早かったじゃあないですか」
「…誰?」
「早かったじゃないですよ! まさか奪われたなんて言いませんよね? ね?」
サヴァードはかなり興奮し、ゼナに詰め寄る。その迫力に瞬もエアリアも何か怖気を感じる程であった。
「いやー、ご明察さすがですね、はっはっはっ」
「な、なんということを…。なんで向かう前に私に相談しないんですか!」
「いや、反対されると思いまして…」
「使った後に封印すれば済むのでそこのホムンクルスが使うなら目を瞑るつもりだったんですけどねぇ…」
サヴァードはがっくりと項垂れると、力無く膝をついた。
「あの、こちらどなたです?」
「ああ、紹介がまだでしたね。この方はサヴァード。エルラントの教皇に仕える神官なんですけどね、その正体はなんとびっくり。太陽神ヴァサーの義体ですね、あっはっは」
「…太陽神…」
「ヴァサー!?」
まさかの太陽神ヴァサー本人登場に2人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっていた。
まさかの神様登場w
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