王都動乱3
閉ざされた結界の中で2人は対峙する。封絶結界の中では空間ごと封鎖されているため外部の様子もわからず音も聞こえない。
2人の間には静寂と張り詰めた空気だけが漂う。瞬間移動を見せたことでアーシは仕掛けにくくなっていた。瞬としてはいざとなれば結界の中で水爆でも使って逃げれば済むが、できれば生け捕りにして情報を引き出したいというのがあった。
「来ないならこっちから行くよ?」
瞬はフットワークを使いアーシに迫る。アーシの背はそれほど高くない。ジャブでも身長差10センチほどなら十分顔面を捕えられる。
瞬はスピードを重視した左を顔面に当てに行く。そのジャブはアーシには届かず虚空で阻まれる。しかし瞬はそんなことは気にせずアーシを中心にして回りながらジャブを連発。360度あらゆる角度から素早くジャブを連打し、アーシを釘付けにする。
「鬱陶しいですね!」
アーシは障壁を維持しながら無数の闇の球を発生させる。その瞬間を狙い瞬が横から踏み込む。強い踏み込みと同時に右フックを放つ。その一撃は障壁を砕くがそこで大きく威力が削がれ勢いを殺される。
アーシは急いで前へ跳び、身体を反転させると闇の球を広範囲にわたって放つ。
放つ範囲を広げたため、あいだあいだに隙間があった。そこを瞬は見事な体捌きでかわしながらアーシを追う。
「極大轟魔砲!」
アーシは自らの手に闇を収束させると、大広間に向けて撃った極太の収束魔法を放つ。しかし闇を収束させていた時点で既に対策は練られていた。
「反射!」
魔力反射魔法によるカウンターで極大轟魔砲を反射させる。返ってきた極大轟魔砲は幾分相殺され威力は減っていたため、アーシの障壁を破壊するに留まった。
「千の光矢」
お返しとばかりに今度は瞬が無数の矢をお見舞いする。アーシは急いで障壁を張り直した。
と同時に背中から激しい衝撃を受け、アーシは膝をつき前へ倒れる。そこへ無数の光の矢が降り注いだ。普通ならこれで肉体はズタボロになり生きてはいない。
「まさかここまでとは…!」
しかしアーシはゆっくりと立ち上がる。ダメージは小さくなくフラフラだが戦意を失ってはいない。
「やっぱりあんたも魔人て言うんだっけ? ジルバって奴と同じなのか?」
瞬はアーシのタフさにベンジスで見たジルバを思い出す。人間を辞めたそれはパワーだけはとんでもなかった。
アーシは瞬を睨みつけると怒りの表情を向けた。
「あんな粗悪品と一緒にしないでください。せっかくですし教えてあげますよ、なぜ私たちがヴァサーを憎むのかをね」
時間稼ぎなのはわかっていたが、瞬はその話に興味を惹かれる。如何なる理由があろうと神の器を潰すつもりなのは変わらないが、ヴァサーがどういう神なのかというのも気になった。
「それは是非知りたいね」
「知ってますか? 私たち旧人類はね、今から約8000年前に絶滅の危機に瀕したのです。他ならぬヴァサーとその眷属、神の軍隊によってね!」
アーシは憎悪を込め、身体を震わせて話し出す。旧人類とか瞬には全くわからない単語である。アーシは瞬が異世界人だとは思っていないせいである。
「かつてアルディスという王がいました。その王は神代創魔師というヴェルム=カッソという原神に、神になる資格を与えられた偉大な王でしてね。その王は自らの力を持ってダルクアンクレプリカというコアを生み出しました。それこそが私たち魔人が悪魔の力を取り込むためのコアなのです。そうして私たち旧人類のエリートは大きな力を手にしていったそうです。全ては我らの王が神となるためだったと。しかしそれがヴァサーは気に入らなかったのでしょうね。ヴァサーは神の軍隊を引き連れ、旧人類と神の戦いが始まったわけですよ。魔王ヴェール様も盟約違反だと怒っておられましたよ。まぁ、結果は私たちの敗北。我らの王と側近は封印され、生き残った旧人類はヴァサーを恨みました。その旧人類の子孫はヴァサーを信じる新人類達に迫害され生きてきたのです。ふざけてますよね、そのせいで我らはこの大陸で細々と生きてきました。そしてその子孫達が作り上げた組織こそが神の器なのです! 当時の者たちは断罪されたというのに何故我々が迫害されなければならなかったのです!? その子孫は生きてきただけで罪なのですか? 貴方達はそんな神を信じられるのですか!?」
アーシは思いの丈を吐き出す。いわれなき迫害に苦しんできた祖先を思い、自分たちは被害者であると主張した。
「うんまぁ、話はわかった。で、この国の人達は今も迫害してるの?」
「いえ、我々は大陸の北の方で細々と生活してましたからね、今のベルムントの民は我ら旧人類のことなんて知らないんじゃないですか?」
「なら八つ当たりじゃん。擁護できないね」
「ヴァサーを信じてる時点で同罪ですよ!」
アーシは怒りに任せ、魔力を解放する。魔力は唸りをあげて異形の悪魔を象ると、まるで意志あるかのように吼え声をあげた。その異形は6本の腕を持つ巨大な牛の化け物の上半身のようである。
「これぞ我が身に宿りし悪魔、カウエルの力! とくと思い知りなさい!」
アーシはカウエルを背後霊のように背負いながら瞬に迫る。6つの腕が連打を繰り出し、アーシが闇の球を撃つ。瞬はその全てをステップで回り込んだり屈んだりと器用にかわしていった。腕1本1本の拳は瞬の顔より大きく、当たれば大ダメージは免れないだろう。しかし腕を操っているのはアーシである。
そしてアーシ自身も攻撃している以上複雑な動きはできなかった。瞬はそれを早々に予測し、カウエルのリズムを覚えようとしている。
「ちょこまかと!」
アーシはカウエルの連打を加速させる。そして動きを封じようと闇の球を次々と放った。
━━単調だね。もうリズムは掴めたかな。
いくら闇の球を撃とうとカウエルの動きもある程度連動しているため、アーシの動きもワンパターンになってきていた。
「ここ!」
瞬はカウエルの連打をかいくぐり、瞬時にアーシの懐に潜り込む。
と、同時に右のショートフック。聖光気を纏ったその一撃はアーシの障壁を破壊する。
「!」
そこから左のジャブを下顎に当てると軽く顎が跳ねた。そこから鋭くアッパーをボディに突き刺すとアーシの身体がくの字に折れる。
そして右テンプルに左のショートフックを叩き込み、右のショートアッパーを顎にぶち込んだ。
アーシの意識は完全に途切れ、膝をついた後前のめりに倒れ動かなくなる。神鉄鉱のグローブをはめていたため、アーシの顎は完全に破壊されていた。
復活で怪我を治し、石化で石にする。魔法に対する抵抗力が高く石になり始めるのに3分もかかってしまった。
瞬は石化したアーシを収納すると、封絶を解除して大広間を見下ろした。
その瞬間大広間に悲鳴が響き渡る。
ちょうど宮松の胴体が真っ二つに切り裂かれる瞬間だった。
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