王都動乱1〜モーリス叛逆〜
それから10日程したある日のことだった。
国王の執務室でライオネスが父と話をしていたときのこと。モーリスが突然ノックも無しに入室して来た。配下の近衛騎士も連れており、ただならぬ雰囲気である。
「ノックぐらいしたらどうなんだモーリス!」
ライオネスがモーリスを叱り飛ばす。そして、ライオネスが右手にはめているミスリルリングの宝石が一層強い赤い光を放っていた。
この指輪には3つの能力が付与されている。予兆という危険を報せる魔法、もう1つは悪意の探知という悪意や害意を持つものを判別する魔法。いずれも瞬のオリジナル魔法であり、瞬がライオネスの身を守るために付与したものである。
そしてその悪意の源がモーリスであるとモーリスを赤く光らせてライオネスに教えていた。
「兄上、そして父上。あなた方2人には牢屋にでも入っていていただきましょうか。この国は僕のものだ!」
「愚かな息子だ。やはりお前は跡継ぎに相応しくない。そこの無礼者をひっ捕らえよ!」
国王が命令するが近衛は動かない。というより様子がおかしい。よく見ると口の端からヨダレを垂らし、妙に目が血走っていたりと、とても正気とは思えなかった。
「お前たち、2人を捕らえろ。抵抗するなら殺してもかまわん」
「モーリス…!」
「父上、案ずることはありません。防衛!」
ライオネスは詠唱することなく瞬の障壁魔法を行使。目の前に壁が生まれ近衛騎士の接近を阻む。
「無詠唱だと!? おかしいだろ!」
「理由を教える義理はないな」
理由は瞬の加護による効果である。持つ資質に応じ、瞬の持つ魔法の行使が可能なのだ。
近衛騎士は一心不乱に魔法障壁に攻撃するがびくともしない。それどころか剣が折れる始末である。
「くそっ、雑兵じゃダメか! こうなったら…!」
モーリスが何かの詠唱を始める。生まれるのは3つの魔法陣。
「悪魔召喚!」
その3つの魔法陣から飛び出して来たのは魔族の尖兵グレーターデーモンであった。
「馬鹿な! 悪魔だと…!?」
「これは使うしかなさそうだな」
ライオネスは指輪を見つめ、3つ目の権能、転移召喚陣を発動させた。
瞬達はゼナの転移でアクアデイルに戻り、フォレンティア公爵に招かれてお茶を飲んでいた。
「おろ? ライオネス殿下から緊急の呼び出しですね」
「呼び出し? どういうことかね?」
ディニータは瞬がいきなりライオネスの名を口にし、緊急と聞いて話を止める。
「殿下に身の危険が及んだとき、僕の力が必要と判断したら呼び出しをできる魔道具を差し上げていたんです」
「間に合うのかね?」
「ええ、その魔道具のある地点に一瞬で跳べる術式を組んでありましたので。急ごう、エアリア、ゼナ。せっかくお誘いいただいたのに申し訳ございません」
「気にしなくていい。それよりも急ぎたまえ。挨拶は不要だ」
瞬は迷わずエアリアとゼナの手を取り、転移魔法を行使。転移先はライオネスが展開した転移召喚陣である。
「瞬間移動!」
そして3人の姿が瞬時にかき消えた。
「やれっ! グレーターデーモンども!」
モーリスが命令を下すと悪魔達がライオネスと国王に視線を向け、ニタリと笑う。そして1体が魔法障壁にタックルをしかけた。
すると突如瞬達3人がライオネスのすぐ側に姿を現す。そして瞬が瞬間移動でグレーターデーモンの前に出ると、
「飛べ!」
聖光気を伴った剛拳でグレーターデーモンをぶっ飛ばす。
「なんだと! くそっ! やれ! 俺は逃げる!」
モーリスはそれを見て慌てて退散。残りのグレーターデーモンをけしかける。
「どういう状況これ?」
いきなり修羅場に放り込まれ、とりあえず近くのグレーターデーモンをどついたはいいが、状況がわからなかった。
とりあえず近づいてきたグレーターデーモンに対峙するとステップインからのボディで一体、腕をかいくぐってのカウンターでもう一体をワンパンで仕留める。
「これほどとは、凄いな子爵は」
「ええ。しかしなぜグレーターデーモンが?」
瞬が全てのグレーターデーモンをワンパンで仕留めたのを目の当たりにし、国王は感嘆の声を漏らす。ライオネスに頼まれ色々便宜を図るのを許したが、その価値は確かにあったと実感する。
「…陛下、ライオネス殿下。お怪我はございませんか?」
「あ、ああ。おかげでな。助けられたな、礼を言う。弟のモーリスが僕と父上を牢屋に入れるつもりだったようだ。クーデター起こすつもりだったようだな。今は城内の様子が知りたい」
「お任せください。エアリア、周囲の警戒お願い」
「…任せて」
瞬は遠視で城内外の様子を確認する。
城の中にはいつ現れたのかグレーターデーモンが跋扈しており、城の内外で戦いが始まっていた。グレーターデーモンだけでなく騎士団と戦う謎の集団の姿もある。その謎の集団は服装も武器もバラバラでまとまりがない。
宰相や大臣等、王妃王女といった重鎮は大広間に避難し、ゼスト率いる騎士団が守護にあたっていた。
「いたるところで戦いが起きてますね。非戦闘員は大広間に集まって避難しているようです。陛下と殿下もそちらへ」
「そうか、わかった。護衛を頼む」
「お任せください。かすり傷1つ負わせません」
国王達を避難させるため、一行はすぐ近くの謁見の間へと向かう。途中グレーターデーモンもいたが、その程度は相手にならないため無事大広間の前まで辿り着く。
扉の前ではグレーターデーモン複数と騎士達が戦闘を繰り広げており、エアリアが加勢するとたちまちグレーターデーモン達は切り裂かれ、呆気なく絶命した。
「おお、陛下に殿下。ご無事で何よりでございます!」
大広間の扉を守護していた騎士が国王を確認すると扉は開かれ一同は中へと通される。
大広間はそれこそ数百人が入れる程の広さがあり、上に上がるバルコニーもあって天井も20メートル程とかなり高い。赤を貴重とした絨毯が敷かれ、壇上の後ろの幕には飛龍を象った国章が描かれている。
皆が国王とライオネスの安全を確認すると、安堵の声が溢れ出した。
「この中はまだ安全なようだな。皆の者、案ずることはない。すでに魔の手の者達と戦う手筈はできている」
ライオネスは中に入り大臣やメイド、母親や妹たちの無事を確認すると、皆を安心させようと言葉を発する。
実際神の器との全面戦争の可能性も踏まえ、瞬による聖剣などの量産、中心となる戦力への加護の付与と準備を進めていた。その甲斐あってグレーターデーモンの集団とも互角以上に戦えているのだ。
「スオー子爵とエアリアは敵の首魁及びモーリスの捕縛または討伐を命ずる。大賢者ゼナ殿、出来れば力を貸してもらいたいがかまわんか?」
「もちろんですとも。微力ながら尽力させていただきます」
「ご命令承りました。お任せください。あ、避難物資置いていきますね」
瞬は一礼すると大量の樽と非常食を無限収納から取り出す。もう能力の殆どは国王とライオネスに話してあるため、自重の必要は無い。非常事態に備えるよう命令されていたため物資の確保も抜かりはなかった。
「狭いですよ。収納しておきます」
それをゼナが一瞬で収納する。その様子に周りが度肝を抜いていた。ライオネスも知ってはいたが予想を超えており、口をあんぐりと開けている。
「じゃあゼナ、頼むね」
「…行ってきます」
2人は後を任せ、大広間を出る。
そして王都を巻き込んだ騒乱が幕を開けた。
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