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叙爵式

 ミッドグラファーの戦いでの戦勝の報奨と叙爵の式典の当日となり瞬は緊張していた。戦局を大きく左右した英雄ともなれば是非懇意に、と考えている貴族も少なくない。特に第1王子派と第2王子派と派閥があるためどうやって自分たちの派閥に引き込もうかとその機会を得るため、この式典は派閥の命運を左右しかねないと考えている貴族もいた。

 式典は立食形式のパーティーとして開かれており、多くの貴族やゼスト騎士団長が招かれていた。なぜこの形態で行うのかというと、新しく貴族になる者が交流を行い派閥に入れてもらうためでもある。また、あまりに厳格過ぎると新しく貴族になった者は恥をかくことがあるのだ。


式典は大広間で行われた。その大広間は上にバルコニーが設けられており、登る階段も螺旋状だ。奥の方では国王を中心にライオネス、第2王子のモーリスに妹の王女が2人並んでいる。大広間の高さは実に天井まで20メートルとかなり高い。


「諸君、先日のウォーゼン領ミッドグラファー大平原においてバルドーラ王国と我らベルムントとの命運を決めかねない戦があったことは記憶に新しいと思う。その和平が先日開かれ多額の賠償金と一部の領地を得ることができたことを大変喜ばしく思い、この戦争において尽力してくれた者たちに感謝の言葉を贈るものである。もしこの戦で負けていたならばハラスの街を起点に我らベルムントへの侵攻は避けられないことだっただろう」


 国王ヌクタヴィアが式典の挨拶を始める。その話は長く、いかに先の戦いが重要で王子ライオネスの采配がうまくいったか、どれだけ我が国が素晴らしいか、バルドーラが悪だったかを強調した。


「そして特に素晴らし戦果を挙げ、獅子奮迅の活躍を見せてくれた2人の英雄を皆に紹介しようと思う。さあ、私の前に来ることを許そう。入り給え、シュン=スオー、エアリア=フォルティスよ!」


 国王の声の元会場の扉が開き瞬とエアリアが入場する。瞬は赤を基調とした宮廷魔導士の礼服を、そしてエアリアは水色を基調としたドレスを着て髪をまとめ、宝石をあしらった髪留めとネックレスを身に付けていた。そして瞬の腕を取り横に並んで歩幅を合わせている。

 長身のエアリアは姿勢もよく、レッスンで歩き方も学んだためどこから見ても美しい淑女である。目を奪われため息をつく者もいるほどであった。


 2人は国王の前にかしずく。


「このシュン=スオーは先の戦いにおいて戦略級広域殲滅魔法を駆使して数々の敵を打ち破り、敵司令官を捕縛した英雄である。国王ヌクタヴィアの名において私は彼に子爵位を授けようと思う。異論無き者は拍手で応えよ」


 国王が拍手を求めると割れんばかりの拍手が巻き起こる。そしてライオネスが叙爵の証明である短剣を金色のトレーに置いて運んでくる。

 瞬はその短剣を授与されると、


「我が命と魂をベルムント王国に捧げ、忠誠を誓います」


 と宣誓。再び拍手が巻き起こった。そしてこの光景を苦々しく見ていたのは第2王子のモーリスとその派閥の面々である。先の戦を率いたのがライオネスであり、結果を出しただけでなくこの第1等級魔導士がすでにライオネスの息がかかっているのは明白であった。


「そしてこのエアリア=フォルティスもまた先の戦いで勇猛果敢に敵軍を蹴散らし我らベルムントを勝利に導いた英雄である。彼女はゾーラントの者であるが同盟国である我が国に尽力してくれたことに礼を言おう。望む褒美はがあるなら申してみよ」

「…それでは恐れながら申し上げます。こちらのシュン=スオーとの婚約をお許しください」


 その一言に会場がどよめく。通常であればこんなところでわざわざ言わなくても普通に婚約すればいいのだ。目的は国王の名前で承認させ、大々的に知らしめることである。英雄となった瞬には当然見合い話が舞い込んでくる。下手をすれば切り崩すために第2王子のモーリスがエアリアを婚約者に指名したり、瞬に王女や公女等断りにくい相手との婚約を仕組む可能性があるのだ。

 それを確実に防ぐ手段としてライオネスが提案したのである。そしてそれは父である国王にも根回し済みであった。


「うむ。英雄同士との婚約とは実にめでたい! このヌクタヴィアの名において2人の婚約を認めようではないか。皆の者、この2人に祝福の拍手を!」


 そして再び拍手が巻き起こる。特にライオネス派の貴族からはこの政争の勝ちに一歩近づいた喜びがあった。モーリス派は渋々ながらも手を叩き、乗り換えを考えるのだった。





 式典での挨拶が終わり歓談の場が設けられると、早速ライオネスが二人の元にやって来た。


「いやいや、なかなかどうして愉快だったよ。早速だが一緒に挨拶に回ろうか」

「ああ、それでしたらディニータ閣下にご挨拶をしないと。是非殿下をお連れして挨拶に来なさいとお言葉をいただいております」

「ほう…。それは是非挨拶に行こうじゃないか」


その話を聞き、ライオネスは2人を連れてフォレンティア公爵の元へと歩く。公爵夫妻は待ってましたとばかりに王子を見つけると、笑みを浮かべて近づいてきた。


「ライオネス殿下、この度は初陣の勝利おめでとうございます。2人もよくやってくれた。そしてシュン子爵、先ずは叙爵おめでとう。何かあれば遠慮なく相談に来なさい」

「あらあらエアリアちゃんもとても綺麗よ。婚約おめでとう。また遊びにいらっしゃいね」


たったこれだけのやり取りであるが、瞬とフォレンティア公爵が懇意にしていることが周りに伝わりどよめきが走る。


「そういえば子爵はライオネス殿下の直属になるんでしたな。殿下のこと、よろしく頼みましたぞ?」

「はい、勿論ですとも」


そしてライオネス派に付くことも周りに伝わった。これにより周りはパワーバランスがライオネス派に完全に傾いたことを知る。

それを遠巻きに眺めていたモーリスはその恰幅の良い身体を震わせ、悔しそうに歯噛みしていた。





「ハハハハハ、実に愉快だ」


式典後ライオネスは込み上げる笑いを止められなかった。自室ではあるが誰もいない訳では無い。一緒にいるのはライオネス派の重鎮の1人アルセウス侯爵である。その逞しい髭と理知的な顔からもわかる通りライオネスのブレーンでもある。


「そうですな。まさかフォレンティア公爵と懇意になっているとは、何があるかわかりませんな。これでモーリス派の殆どはモーリス殿下を見限るでしょうな。奴らは傀儡に出来そうな方に付いてたに過ぎませんゆえ」

「全くだ。しかし油断は禁物だな。モーリスは何をするかわからんところがあるからな…」


ライオネスは右手に嵌めたミスリルリングを眺めながら呟いた。真新しいミスリルリングには国章の飛龍を象った彫刻が施されており、その目に紅い宝石があしらわれている。

色々便宜を図ってくれたお礼に、と瞬が作ったものだ。


「殿下、その指輪は…?」

「ああ、保険だよ。全く凄いなシュンは。国宝にしてもいいくらいのマジックアイテムさ。使わないに越したことはないんだけどね…」


せめて早まった真似はしてくれるなよ、とライオネスは願うのだった。

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