宮松凱3
次の日の午後、宮松に呼び出された瞬は王城の裏に来ていた。王城の裏側は広い堀があり、そこから外部の侵入をしにくいよう設計されている。構造的に逃げづらそうではあるが当然抜け道があるのは別の話である。
もちろん兵士も見回りに来るのだが、王城の上から確認を行うため裏側は人目が少ないのだ。
裏側は遠く、城の中に直接そこに通じる道は無い。行くにはグルっと歩いて行くしかないのだ。
瞬がグルっと回って裏手へ行くと、既に宮松が待っていた。手には何も持っていない。
「どうしたの宮松。僕に用事なんて珍しいね」
「ん、まぁそうかもな」
いつもの瞬を目の前にしたときのイキった様子もなく随分と穏やかに見えた。それだけでもどういう心境の吹き回しなのかと思えてしまう程2人の仲は良くない。
「その、なんだ…」
宮松はかなり言いにくそうに言葉に詰まっていた。しかし決意して始めた以上、やり遂げなければ前に進めない。
意を決して膝をつき、地面に額を擦り付ける。いわゆる土下座であった。
「須王、今まで本当にすまなかった」
「な、なに? どうしたの急に!?」
まさかいきなり宮松に謝られるとは思っておらず、瞬は思わず後ずさり目を丸くしていた。
「最初は見栄でお前に突っかかっていたけどよぉ、俺はお前に負けて勝てなくなってから実は自分の周りには誰もいなかったことに気付かされちまった」
地面に額を擦り付けたまま宮松は自分の心の内を吐露する。自分の懺悔を聞いてもらいたかった。
「でもそれが認められなくて、お前に勝てばみんなが認めてくれると勝手に思うようになってた」
「それはそれで随分勝手な理屈だと思うけど…」
「わかってるさ。俺は頭悪ぃから上手く言えねぇけど、どこかお前に憧れ、認められたかったんだと思う。昨日お前が俺をスゴイ、って言ってくれたときわかったんだ」
もう瞬としては何言ってんだお前は、である。それでもあの宮松が勇気を出して謝罪しているのは認めてあげたいと思った。だからこそ話を聞いているのだ。
「許してくれとまでは言わねぇ。せめて謝罪を受け入れてくれ」
瞬は少し考える。ハッキリ言ってされたことを考えると到底許せるレベルを超えていた。あのいじめでどれだけ傷ついたと思っているのかなど加害者に理解できるものではない。しかしもし宮松が死んだら少しくらいは悲しいかもしれない。
「宮松は今楽しい?」
「ん? ああ、まぁな。ここじゃみんなが俺を認めてくれた。この地に骨を埋めるつもりだ」
これを聞いて普通はどう思うか。
要するにそれで今になって良心の呵責が芽生え、このままじゃスッキリしないから前に進むために謝っておくか。許してくれりゃ儲けものだし、俺は謝ったんだから別にいいよねという自己満足だろうと思うのが普通だろう。
実際瞬もそう思ったのだ。
とはいえ、一応真摯に謝っているようには見えた。それに瞬も今は幸せでいちいち昔のことを持ち出して宮松を責めるつもりもない。
「わかった。謝罪は受け入れるよ宮松」
「ホントか! すまねぇ!」
瞬の一言に宮松は一度頭を上げたあと、再度頭を擦り付けた。
「でもされたことを無かったことにはできない。実際死にかけたし、それを全て許したわけじゃない。覚えておいてよ宮松。これは貸しだから。返す前に勝手に死ぬなよ?」
正直瞬としても複雑だった。別に宮松が不幸になっても嬉しいとも思わない。逆に幸せになったとしても腹も立たないだろう。わざわざ前に進もうとしてる人間の足を止めることを良しとしなかったのもある。
それにいざというとき十分役に立つだけの力も将来的に持てそうであった。
そして瞬は思うのだ。もし、エアリアに会わなかったら多分そんな風にさえ思わなかっただろうと。
「ああ、わかったよ。もしお前が困ったときは絶てぇ助けてやるからよ。見ててくれや」
「期待してるよ」
立ち上がり、宮松は握手を求めた。
こいつマジで頭お花畑だな、と心の内を悟られないよう瞬は握手に応じる。
どうせならちゃんと役に立てるように、と宮松にもこっそり加護をプレゼントしておいた。明や水衣にも既にあげているのだが、その2人ほど強い加護ではない。
「んじゃ頑張ってね。僕はこれからマナー講座だから」
と声をかけ、瞬は王城内に向かって歩いていった。
いい話?
いいえ違います。瞬が許したのは完全に打算ですよw
これで自分のために命を懸けてくれそうな強者をゲットです。
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