宮松凱2
「ふーっ、今日は疲れたぜ」
今日の訓練を終え、宮松はベッドに寝転ぶ。今日の訓練は楽しかった。ゼストを始めとした騎士団のみんな、それにあの瞬までもが宮松を凄いと評し、その承認欲求を満たしてくれた。
宮松はこれまでを振り返る。
初めて瞬と出会ったのは中学1年のときだった。生まれつき体格に恵まれた宮松は小学生の頃から自分の腕っぷしを自慢し、周りが自分を凄いと言ってくれることが嬉しかった。自分が悪くなくても相手に詰めよれば相手が謝る。ちょっと殴ってやれば言うことを聞く。そして周りは宮松を持ち上げる。気持ちが良かった。
ある日宮松は国語の教科書を忘れてきた。隣に借りに行くのもめんどくさく、すぐ近くのちょっと太ってて気弱なクラスメイトに「お前の教科書貸してくれよ」と迫るのだった。
「え、僕だって使うんだから宮松君が隣のクラスに借りてきてよ」
「おいおい、俺が貸せっつってんだ。気ぃ効かせてお前が借りに行けば済む話しだろ? 殴られてぇの?」
気弱なクラスメイトはガタガタ震え、もう貸してしまおうと自分のカバンを見た。すると1人のクラス1小さい男の子が待ったをかける。
「やめなよ宮松。君が借りに行くべきだと思うな」
男の子は宮松の腕を取って制止をかけた。それがとてもムカつき、まだ自分に従わない奴がいるのかと憤る。その少年こそが須王瞬だった。
「てめぇ、ムカつくわー」
宮松が瞬を殴ると、軽々と吹っ飛んで机を巻き込んでいった。女生徒の悲鳴が響く中、宮松は瞬を蹴りつける。
「謝れよ」
「やだね」
「んだとコラァっ!」
謝罪を要求しても即答され、髪の毛が逆立ちそうなほどに頭に血が上る。瞬の腹を蹴りつけ、顔を蹴り、周りが止めに入るまで蹴り続けた。
瞬は泣かなかった。それどころか宮松をただ黙って睨みつけるのみ。それが気に食わなかった。
それ以来、宮松は瞬を見かけると暴力を振るった。周りを従わせ、教科書を破く、上履きをゴミ箱に捨てる、机に落書きする。そんな酷い仕打ちをして自分に逆らうとこうなるんだ、と周りに見せびらかして悦に入っていた。
それでも瞬は一度も泣き言を言わなかった。従う生徒も非難せずただじっと耐える。幼なじみの明も水衣もクラスが違ったため助けに入れなかった。それどころかターゲットにされるから、と自分から突き放すのだ。
しかし明も黙っていられず、ついに宮松の暴行現場に乗り込み止めに入ってしまった。宮松は当然のごとく明を殴り飛ばすと、初めて瞬がキレた。しかし体格の差が大きく何度も殴り飛ばされる。それでも瞬は何度でも、血を流しどれだけフラフラでも立ち上がって睨みつけるのだ。
そして悲劇は起こる。
瞬は半殺しにされ、大怪我を負った。左腕にもひびが入り、血反吐も吐いていて入院を余儀なくされた。しかし学校の隠蔽体質のため大きな問題にはならず、慰謝料のみでの解決となる。
それから瞬は退院した。見かねた叔父がボクシングジムに入れ瞬を鍛え始めたのはこの頃である。
それから半年くらいは宮松はいじめを止め、瞬には何もしなかったし周りにも止めさせていた。
そして2年生になると再び宮松と瞬は同じクラスになっていた。宮松はいじめを止めていた半年をつまらなく感じており、来年新しいターゲットを探そうと考えていた。
そして気弱そうな相手を見つけると早速絡む。するとまたも瞬が止めに入って来た。
「宮松…。いいかげんにしなよ」
「てめ須王。俺にボコボコにされて大怪我したの忘れたのかよ。お情けで的にすんの止めてやったのによぉ」
正直、瞬が止めに入ってくるなど微塵も思っていなかった。あれだけの怪我である。もう何も言ってこないものとばかり思っていたのだ。
こいつはまだ懲りてないのかよ、と見下されたような気分になる。頭に血が上っていくのが自分でもわかった。
━━あー、やべ。これキレるわ。
滾る暴力的欲求を抑える気は全くない。それどころかこれでまたみんなが自分を畏怖し、ヘリ下り媚びへつらうようになる。そんな未来が脳裏をよぎり、この憐れな子犬を蹂躙する快感を求めていた。
「もっぺん地獄見てこいやぁ!」
宮松は右腕を大きく振りかぶると暴力への衝動に身を委ねる。しかし瞬はそれを軽くかわすとそのまま懐に入り込み、宮松の腹を殴った。それが思いのほか効いて、
「おふぅっ」
と息を漏らす。そこから更に横っ腹を横殴りにされ、さらにもう1発ボディにいいのをもらってしまう。
そして宮松が膝をつくと、顔面にワンツーとパンチが入り宮松の意識を奪った。
それ以来宮松は何度か瞬に喧嘩を売るのだが、その度に返り討ちにされてしまう。そうなると宮松の周りには誰も居なくなった。誰も自分を認めない。敬わない。それどころかゴミを見るような目で見られ、暴力を振るおうとする度に周りが非難の声をあげるようになった。
そして宮松はやり切れない苛立ちを校外で発散した。他の中学の不良に喧嘩を売り、ぶちのめして俺はこんなにも強いんだ、と思うことで自分を保つようになる。
そして自信をつけ、瞬に果たし状を突きつけて呼び出してはタイマンを張るのだが全く相手にならなかった。
その噂が校外にまで伝わり瞬に喧嘩を売るバカも出てくるようになる。3年になる頃には『暴れん坊チワワ』などという2つ名までついていた。
そこまで振り返ると、どうして自分はこんなにも瞬に突っかかっていたんだろうな、と考える。
あの頃は自分の周りには友と呼べる相手はいなかった。不良仲間繋がりでの親交はあったが、お互い見栄の張り合いでそこに友情を感じたこともない。しかし瞬の周りには人がいた。
認めたくはないがそれが羨ましかったのだ。
「ああ、そうか。いつしか俺はあいつに憧れてたんだな…」
そして気付かされる。
瞬の活躍を聞いてどこか誇らしかったこと。
自分よりあんなに小さい奴が努力して強くなっていたこと。
自分にない心の強さ。自分に無いものを沢山持っている。
今日、瞬は初めて宮松を認めた。凄いと言った。ゼストも大した奴だと評価している。嬉しかった。
人に認められたのはいつ以来だろう。
「でも今更ダチにはなれねぇか…」
普通に考えてこれだけのことをして来た自分を被害者が許すなど有り得ない。それは宮松もわかっていた。
しかし謝りたかった。今までのことを。たとえ許されなくてもケジメはつけたかった。これからは瞬のようになりたいと思ったから。
「ダセェな、俺…」
これは自分が生まれ変わるための大事なステップだ。もしかしたら瞬だし許してくれるかもしれない。そんな楽観的だが前向きな思考で決心すると、静かに眠りにつくのだった。
今日はもう1話いこう。20時ドエス。
こういうのはSSでやった方が良かったのかな?(´-ω-)
後々のためにある宮松の瞬に対する敵意を無くさないといかんのよな…。この章でも少し頑張るらしいw
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