宮松凱1
「うーん、まだ完全ではないようですね」
アクアデイルのゼナの部屋で、ゼナは瞬の魂を診察していた。エアリアからミッドグラファーの戦いで瞬の魂が傷ついたことを聞かされたからである。ゼナの恩恵は『監視者』。グランデスの系譜であるそれは人の魂すらも見通す。
「まぁ、ヤリまくれば大丈夫です。励んでください」
「他に言い方ないんかい」
相変わらずデリカシーのない言い方に瞬が文句を言う。ゼナはククッ、と含み笑いをすると、
「おねだりの大義名分ができて良かったじゃないですか」
と全く反省などしていなかった。
コンコン
ドアのノックの音がしてゼナが出るとエアリアが立っていた。
「…シュン。ベルムントから連絡。1週間後に報奨と叙爵の式典があるからすぐ戻れ、だって」
「おお、やっとかー。これで動きやすくなるといいけど」
「ほほう、叙爵ですか。おめでとうございます。私も一緒に行きましょう」
ということで3人でベルムントへ赴くこととなった。行く手段は例のゴーレム馬車である。
「いやー、これは凄いですね。中にベッドまで用意して馬も箱もゴーレムとは。それでこのクリスタルで操縦ですか。この仕組みを解析したら大金持ちですね、ハッハッハ」
ゴーレム馬車を走らせるとゼナがめっちゃご機嫌であった。見たこともない機構に興味津々である。
平原とはいえ時速20キロは馬車なら早い方だろう。道行く他の馬車が見えないのでそこそこのスピードを出して飛ばしていた。野宿もしやすく、休み無しで走れるため最短ルートを使えば約280キロで3日もあれば着いてしまうだろう。
そして明後日の昼過ぎにはベルムント城下町の近くに来ていた。あまりゴーレム馬車を見られたくないため、1キロ程手前で馬車を降りる。
「うーん、久しぶりに来たな。どんだけぶりだろ」
「ほほう、ここがベルムントですか。いやはや大きい街でさねぇ。さすが城下町といったところでしょうか」
「…だいたい1ヶ月ぶり」
3人はゆっくりと喋りながら歩く。今日は天気も良く快晴である。街に近づくと人が列をなしており、街に入る順番を待っている。身分証のある人や貴族は通行許可が早く出るため列に並んでから順番が来るまですぐであった。
街の中に入るとまっすぐ冒険者ギルドを目指す。
中へ入るとなんとなく瞬は懐かしさを感じた。
「…第1等級冒険者のエアリア。第1等級魔道士のシュンも一緒。今日は所在報告だけで」
「お待ちしておりました。ライオネス王子殿下より手紙を預かっております」
受け付けにて所在報告をすると、ライオネスからの手紙を受け取る。シュン宛なので瞬に渡すと椅子に座って封を開ける。
「ライオネス殿下に呼ばれてるみたい。とりあえず行ってみるよ」
「…私も行く」
「では私もご挨拶しておきましょう」
と結局3人で王城に出向くことになった。たまたま時間が合えばいいが、そうでないなら約束を取り付けないといけない。
瞬たちは王城まで着くと、正門前の番兵に封書を見せ用件を伝えた。番兵は使いを走らせ、ライオネスにお伺いをたてに行かせる。
待つこと10分。使いの兵士が戻り、案内をしてくれることになった。
通されたのはライオネス王子の執務室。許可を得て中に入ると、ライオネスが書類の確認をしながら判を押していた。
「待っていたよシュン。予想以上に早くてびっくりだ。さ、そこのソファにかけてくれたまえ。ところで、そちらの方は誰なんだい?」
「お初にお目にかかります。ゾーラントから来ましたゼナと言います。彼らの保護者のようなものです。御一緒させていただおてよろしいでしょうか」
ゼナは自己紹介をすると、頭を下げる。大賢者と呼ばれるゼナのことは当然ライオネスも知ってはいたが、会うのは初めてである。
「もしやあなたが大賢者ゼナ殿か?」
「そう呼ぶ人もいます」
「そうか、よく来てくれた。歓迎しよう。こちらへ」
ライオネスに促され3人が近いくまで行く。執務席を挟み4人が向き合うとライオネスが先ずは、と戦後の後始末について話した。
「先日行われた和平交渉によりバルドーラからは捕虜の引取りとかかった費用の請求、賠償金、それと1部領地の割譲も認めさせることができた。これも君ら2人のおかげだ。よくやってくれた」
バルドーラはオルエンス帝国と隣接している。切り札の第1等級魔道士も死に、多くの兵を失いこれ以上戦争を続けると帝国に狙われる可能性があった。そのおかげもあって和平交渉はスムーズに進んだのである。
「アクアデイルのギルドにも伝えたが、シュンの叙爵とエアリアへの報奨が5日後に行われる。それで作法や礼儀なんかを身につけてもらわねばならん。形式上私の配下になるわけだから恥をかかせる訳にはいかなくてな。2人ともしばらくは王城で過ごし、教育を受けてもらうことになるから依頼を受けないように頼む」
「分かりました」
内心めんどくさいが、受けない訳にはいかなさそうである。少ししてメイドが3人やって来てそれぞれ別の部屋へと案内されることになった。
空き時間には王国騎士達に稽古をつけてやってくれと頼まれていたため騎士団が訓練している訓練所を訪れた。
そこには宮松もいた。
「須王! てめぇ、戦争で活躍したらしいじゃねぇか」
宮松は瞬を見つけると肩を怒らせながら近寄ってきた。軽めの革鎧で動きやすさを重視した格好である。
「ああ宮松か。久しぶりだな」
「久しぶりじゃねーよ! てめぇ、勝負しろや!」
「なんでそうなるかな…」
久しぶりに会ったのに宮松は相変わらずだった。いきなりメンチを切って襟首を掴み威嚇する。その一方で瞬には余裕があった。元々瞬の方が強い上に神代創魔師として覚醒した今となっては恩恵の強さも桁違いの差があるのだ。
「決まってんだろ! いつの間にか強くなりやがって…、俺の方がつええんだ! 俺は強くなったんだ…!」
まるで自分に言い聞かせるように宮松は呟く。身体を怒りで震わせて目を血走らせていた。
「いいよ、やろうか。この状態のままでいいよ」
「! なめんじゃねえええええっっっ!」
右の拳に闘気を纏わせ宮松が殴りかかる。その拳を瞬は片手で受け止めた。瞬も聖光気を纏わせてはいるが、全開には程遠い。
「だから力任せ過ぎだって。もっと脇を締めてコンパクトに鋭くね。それと襟首掴んでるせいで腰も入り切ってない」
「う、うるせーっ!」
「それに隙だらけだ」
腹に軽く一発。たったそれだけで宮松はヒザをついてうずくまる。そもそも気の質のレベルが違い過ぎたのだ。
「水衣に殴り方教わってないの?」
「俺には俺のやり方っつーもんがあるんだよ…」
うずくまりながら瞬を睨みつける。
「何をしている!」
とそこへゼストがやって来た。2人を見比べる。2人の関係をなんとなく把握しているゼストは特に咎めはしなかった。
「えと、お久しぶりです?」
「まぁ、そうだな。おいガイ。大剣は使わんのか? せっかくだ、お前の戦闘スタイルがどの程度通用するか見てもらえ」
「へっ、須王てめぇ腰抜かすなよ?」
宮松は腹を押さえながら立ち上がると大剣を取りに武器庫の方へ向かった。
「すまんな、シュン殿。あれでも隊の中では結構中心にいるやつなんだ。あんまり嫌わんでやってくれ」
「追放されたことには感謝してるくらいですよ。しかしなんであいつこんなに僕に絡むかなぁ…」
瞬は口を少しへの字にすると眉を沈ませて腕を組む。しょっちゅうボコボコにされてたのに向かってくる気概はいいのだが正直鬱陶しかった。
「待たせたな」
宮松が刃渡り実に4メートルはある特注の木製の大剣を持って現れた。構えも意外と様になっており悪くはなかった。
「でかっ!」
「うむ。獲物がデカ過ぎてな。掛かり稽古だから木の大剣を使うんだが、それでもやりたがる相手がいなくてな…」
こんなバカでかいものをぶつけられたら命に関わるため、誰もやりたがらないのも道理であった。確かに威圧感は凄まじいかもしれない。
「おもしろそうだ。かかってきなよ」
「行くぜ!」
「おい、俺もいるんだぞ!」
慌ててゼストが瞬の後ろへ逃げていった。
宮松が大剣を振るう。闘気を全身に巡らせ身体能力が飛躍的に向上。バカでかい大剣を軽々と操り思った以上に鋭い。
剣がバカでかいため横薙ぎの斬撃からは逃げ道もなく跳ぶかしゃがむかくらいの選択肢しかない。瞬は先ずしゃがんでかわした。
通り過ぎた剣の軌道を宮松が強引な力技で変え、今度はやや斜めに大剣を振り回す。その斬撃を瞬は聖光気を纏った腕でガードした。
そのガードごと吹っ飛ばすため、宮松の剣がさらなる唸りを上げ瞬を突き飛ばす。
「へへっ、どうだ!」
「やるじゃんか宮松! 凄いよ!」
相手の技量差をも埋めるパワーに瞬が驚く。本気を出せばさすがに負ける気はしないが、この強さは本物だった。
それから瞬は5分ほどその連撃の練習台となった。瞬からは攻撃を仕掛けなかったが、それでも彼が初めて自分を認める発言をしたことが宮松には嬉しかった。
思う存分剣を振るうと宮松は満足したように笑みを見せ、訓練所の床で大の字に寝転がるのだった。
「課題はスタミナだが、あの剣をあれだけ振るえるのだから及第点だと俺は思っている。この短い期間で大したものだ」
ゼストは宮松を褒めると自然と口角が上がるのだった。
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