アリーからの手紙
「とまぁ、そういうことがあったわけです。これは神の器の連中も知らないはずですからね。ヴァルバロイの完全復活なんてことは絶対ありえません。それと瞬君、もし魔王と戦ってもトドメを刺しちゃいけませんよ?」
ようやく話を終えると眼鏡を中指で押え、くいっと直した。予想だにしない話に瞬とエアリアはお互いを見合わせる。
「質問なんだけど、ヴァルバロイのいた世界では別のヴァルバロイはいたの?」
「直接ヴァルバロイから聞いたわけではありませんが、大魔王ピオルという異界の魔王が呼ばれていたようですね。アリーに普通に倒されたらしいですが。そういえば10年前にもそんなのがいたような…」
ゼナひ思考を巡らせ、思い出そうとした。しかしなかなか出てこない。
「ああ、10年前に奴らが呼び出した異界の魔王もそんな名前でしたね。アリーが瞬殺してたので忘れてましたよ」
ハッハッハ、とゼナが大袈裟に笑う。
「つまりもう違う時間軸になってるのか」
「それと、アリーの死因ですがヴァルバロイの呪い、というのはあながち間違いではありません。ヴァルバロイの力は仮面に幾分かは封じてあったのですが、それでもやはりアリーの負担はかなりのものでした。それが原因で早くに亡くなってしまったのは否定できません」
その言葉に瞬が俯く。エアリアの大事な人を未来の自分が死なせる原因を作ってしまったこと。その事実が瞬に重くのしかかる。
「ですが、アリーは後悔していませんでしたよ。私がいつか真実を話したとき渡して欲しいと頼まれたものがあります」
ゼナは封筒を取り出すとエアリアに差し出す。
「アリーからの手紙です。読んであげてください」
エアリアはそっ、と受け取り、逸る心に任せて封筒から手紙を取り出した。
私のかわいい娘エアリアへ
この手紙を読んでいるとき、私はもうこの世にいないでしょう。もしかしたら寂しい思いをさせたかもしれません。
そして恐らくゼナから本当のことを聞いていると思います。本当はあの子を貶める嘘は言いたくなかった。でも、私の中にあの子がいることを絶対に知られるわけにはいかなかったの。それがたとえエアリア。あなたであっても。黙っていてごめんなさい。要らない憎悪を植え付けてごめんなさい。そうするしかなかった私を許して欲しい。
確かにあの子の力は強大で、私の寿命を大きく削ったけど後悔はないのよね。あの子はいつも私に謝ってた。数え切れない罪を犯したこと、私の寿命を削ったことも。それでも私はあの子を赦したい。よく心の中で話をしてたんだけど、それで情が移っちゃたのかな?
まぁ、今はあの子の作った石像の中で2人っきりなんだろうけど、そうなるのも悪くないかな、って思ってる。
だからどうかもうあの子を赦してあげて欲しい。そりゃ償い切れない罪を犯しているけど、あなたには憎しみを抱いたまま生きて欲しくないから。
それと、あの子には出会えたのかな?
あの子、照れてなかなか名前を教えてくれなかったけど、本当の名前はシュン=スオーって言うらしいね。もし出会えたら伝えて欲しい。
今度こそ幸せになりなさい。
それと、もしその子がエアリア。あなたの大事な人になっていたなら、これも伝えてあげて。
エアリアを泣かしたらあの子と一緒に殴りにいくから!
じゃあね、エアリア。私はいつもあの子と一緒に見守っているから。
大好きだよ。
アリー=フォルティスより、愛をこめて
「…ううっ…。アリー…、アリー…!」
手紙に大粒の涙が零れ落ち、手紙に染み込んでいく。頬を腫らす程に涙が止まらず、手紙を胸に抱いて嗚咽を漏らした。
その様子に瞬ももらい泣きしていた。優しさ溢れる言葉に瞬の心も打たれ胸の奥が熱くなる。
エアリアは堪らず瞬の側でしゃがみこみその胸の中で声をあげて泣いた。瞬もその胸で最愛の人を受け止め涙を流す。
どのくらいそうしていただろう。エアリアはようやく泣き止むと腫らした顔をあげた。
「…私はヴァルバロイを赦す」
「うん。僕は絶対にエアリアを失わない。悲劇は繰り返させやしないから」
「…うん。約束」
「あのー、2人の世界からそろそろ出てきてもらいたいのですが…。一応私もいるんですけど…」
ゼナの声に2人は顔を見合わせるとゆっくりと離れる。
「それで奪われたヴァルバロイの仮面についてですが、あれにはヴァルバロイの力の一部が入っています。しかし一部といっても込められた力はハッキリ言って魔王ヴェールを軽く凌ぐでしょうね。力を封印してはありますが、きっかけがあれば封印は解かれる可能性があります」
「きっかけ?」
「たとえば憎悪でしょうかね。それは魔王ヴェールなら気づく可能性があります。どうして魔王が協力しているのかまではわかりませんが、魔王ヴェールには瞬君が神代創魔師だと気づかれる恐れがあります」
そこでふと瞬は思い出す。魔王ヴェールは言っていた。お前はおもしろいと。今度は一対一でやりたいと。
「こないだ会ったときに気づかれたかも…。なんかそんな気がする。一対一でやりたいとか言われたし」
普通に無詠唱で魔法を連発し、聖光気を身に纏って殴り合うなど普通の人間のすることではない。気づかれる要素爆盛りであった。
「そ、それは気づかれてますね。魔王は神代創魔師と同じくヴェルム=カッソの系譜ですから仕方ありません」
「どうすれば…」
「とりあえず魔王と対峙したら神になる気は無いと宣言してみましょう。ヴァサーもそれがわかれば敵対して来ない可能性は十分あります」
「分かりました」
それで済むなら話は早いのだが、他に手もないのが現状だろう。とにかく1番重要なのはヴァサーと敵対しないことであるとゼナは説く。直接交渉できれば早いのだが、その手段を瞬は知らない。
3人は封絶結界を出た後瞬が更に封絶を重ねる。これは念のためである。
その後はゼナの転移魔法で元いた宿屋に戻った。
「さて、私の用事はこれで済みました。いやー、アクアデイルに来たのは何年ぶりですかね。久しぶり過ぎて転移できませんでしたよ。しばらくの間は私も同行しましょう。なに、2人の夜は邪魔しませんから安心してください。でも遮音結界くらいは張ってくださいね?」
陽気に笑いながら下世話な話をするゼナであった。
その話に2人は顔を真っ赤にする。
「…デリカシーないよね相変わらず」
エアリアはふくれっ面でジトーっとゼナを見やるのだった。
ピオルはポルトガル語で最悪な、て意味ですw
なんか可愛らしい名前だな…。
ログラインに沿ってタイトル変更してみました。迷走してるよな……(ll๐ ₃ ๐)
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