《終焉の浄滅》ウルティムス・プルガディオ
「あんたを殺して、って…。いいのそれで?」
「うん、そうしないとこの世界まで壊しちゃうから。この世界では18年後だったかな、僕と彼女が出会うんだ。そして願わくばちゃんと結ばれてハッピーエンドを迎えてほしい。だから僕はいない方がいい。でもこれだけは伝えなくちゃいけない。決して魔王を殺してはいけないと」
「そう、わかった。他に言い残すことは?」
するとヴァルバロイは魔法で石像を造り上げる。その石像ではアリーがヴァルバロイを胸に抱いていた。
アリーにしてみれば羞恥プレイもいいところで当然抗議の声があがる。
「…ちょっとエロくない?」
「このくらいは大目に見てよ。せめて大好きだった人に抱かれて眠りたいんだ」
「どう見ても私なんだけど…」
石像であることも原因のひとつだが、そのヴァルバロイの大切な人が誰かすら知らないのだ。そう思うのも無理は無い。
「そりゃ似てるでしょ。この子は君のコピーホムンクルスなんだから」
「なるほど、ダルクアンクレプリカを使ったのですね。確かにあれならヴァサーの浄化に耐えるでしょう」
「なにそのダルクアンクレプリカって」
「かなり昔の話なのですが、先代の神代創魔師が作ったホムンクルスのコアですよ。それが原因でヴァサーが怒りましてね。その神代創魔師は凍結の封印で閉じ込められてしまいましたが、そのダルクアンクレプリカは既に遺跡でも発見されています」
この子が自分のコピーなのか、とアリーは石像を眺め手で撫でる。なんとも変な気分であった。
「この子、名前は?」
「エアリアだよ」
「いい名前だね」
名前を耳に入れ、記憶に刻む。恐らく自分がこの子を育てるのだろう。そんな予感がした。
「僕は死んだ後君の中に魂を移す。そして魂の救済の力を借りて憎悪を捨て、神であることを捨て、この世界の輪廻の輪に戻ろうと思う。そのためにアリー、君は死後しばらくの間この石像の中で僕と過ごすことになる。それとこの仮面に僕の力の一部を封印する。ちょっと僕の力が強すぎるかもしれないから、僕の憎悪をある程度移しておくよ」
そう話すとヴァルバロイの持っていた仮面が黒いモヤに包まれ、中へと入っていった。
「これでいいかな。この仮面はゼナ、あなたがここ以外のどこかに封印して欲しい。くれぐれも収納魔法にしまわないでね。そんなことしたら精神汚染されるから」
「そんな物騒な物押し付けないでもらいたいんですが」
「あはは。まぁ、あなたならなんとかなるでしょ」
ヴァルバロイは屈託の無い笑顔を見せる。こんな笑い方もするんだな、とアリーも釣られてくすりと笑った。
そしてヴァルバロイが仮面をゼナに向かって投げる。絶対被らないように、と一言添えた。
「封絶」
そしてヴァルバロイは石像に空間断絶の魔法をかけ、人が入れないようにした。
「これを君にあげるよ」
そう言って取り出したのは槍斧に鎌のついた武器、エウルードであった。ヴァルバロイはそのエウルードをアリーに手渡す。
「何この武器、相当凄くない?」
「エアリアのために作ったんだ。神話級だからその武器なら僕を殺せるはずだよ。いつかエアリアと出会ったら渡して欲しい。僕を見つけられるように細工をしたから」
「…わかったわ」
アリーはエウルードを受け取ると軽く振り回してみる。なんと手に馴染む武器なのだろうと驚く。
それと同時にヴァルバロイがどんな気持ちでこれを作ったのか理解できてしまった。この子はどんな気持ちで自分に殺して欲しいと頼んでいるのだろう、と少し可哀想な気がしてきてしまった。
「死ぬ前に少しくらい良い思いしていきなさい」
アリーは胸鎧を外すとヴァルバロイを抱き寄せ、その胸で受け止める。ヴァルバロイは少しビックリしたが、どこか懐かしい感触に涙を流した。
いつも自分が悲しいときや辛いときこうしてくれたな、とエアリアを思い出す。
「もう思い残すことはないよ。まぁ、君の心の中に居続けるから滅ぶわけじゃないけど」
ヴァルバロイはアリーでも自分を殺せるよう、自らの全ての障壁を無くし両腕を広げた。
まるでその先にある、生まれ変わる未来を求めるように。
「苦しまないよう一撃でやってあげる」
アリーはそのエウルードを媒介に詠唱を始める。それは救世主の恩恵を持つアリーの最終奥義。
「眠りなさい、全てを忘れて…。終焉の浄滅!」
神光気と深淵気を融合させ、魔法として放つ。極太の灰色の光がヴァルバロイを飲み込んだ。
「ああ、あったかいな…」
エウルードの増幅効果を上乗せしたその魔法はヴァルバロイの肉体を蝕む。それでも苦痛も恐怖もなかった。
まるで母親の胎内にいるかのような安心感に包まれ、ヴァルバロイは滅びを受け入れる。肉体の崩壊が始まると、瞬く間にその肉体は蒸発していった。
「さすがです…」
ゼナは凄まじい一撃に感嘆の声をあげる。ふとアリーを見ると涙を流し、愁いの表情を浮かべていた。
「泣いているのですか、アリー」
「だって、あの子が私の中に入って来たから。だからわかっちゃったんだ。あの子の悲しみと辛さが」
アリーは空を見上げる。どこまでも青いその空を。今は私の中にいるけど、いつか天に返してあげるからと願う。
「私は、あの子に安らぎをあげたい…。ゼナ、あんた協力しなさいよ?」
「ふぅ、仕方がないですね。これも私の役割ですから引き受けますよ」
そしてヴァルバロイは倒され、アリーは英雄となった。
魔王は魔神王が倒されたことで悪魔達を引かせ、残った魔神達はいずこかへと姿を消した。そして戦いは終わり、人々は亡くなった英雄達を偲ぶ。明日への希望を抱くため額に汗をかいて復興に励んだ。
アリーがエアリアを見つけ、自分の娘として育てるのはこの8年後のことであった。
まだまだ先は長いです…。
ウルティムス・プルガディオはラテン語を元にした言葉ですけど、本来の意味は多分別物w
響きがいいので採用しました๛ก(ー̀ωー́ก)
PV伸びないのはなにやらタイトルに造語あるのがいけないらしいです。なのでそのうちタイトルガラッと変えてみようと思います。
タイトル変わっても読んでいただけたら幸いですm(*_ _)m
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