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冒険者たち

瞬はエアリアと2人で冒険者ギルドへ向かっていた。

アスファルトでできた道の端には側溝が設けられており、排水も行えるようになっている。家屋はレンガ造りが主だが、コンクリート製の建物も見て取れた。


ここ城下町ベルムントの冒険者ギルドはコンクリートを素材とした建物で、扉は木製である。三階建ての大きな建造物で、周りの店舗や家屋と比べると格段に大きい。

中に入ると木製のテーブルと椅子が規則正しく並んでおり、冒険者たちがたむろしていた。

冒険者達がエアリアを見つけると、一斉に視線が注がれる。


「あれ、極滅だろ?」

「なんかちっこいの連れてるな」

極滅、とはエアリアの二つ名である。エアリアは冒険者たちの間でも有名で、鑑定で示された恩恵ギフトの名がそのまま二つ名となっていた。


エアリアの後ろにいる瞬にも視線が集まるが、なにせその身体の小ささである。

エアリアといることで嫉妬の目を向ける者、何者なのかと警戒する者、小さいことで侮る者。様々な思惑の込められた視線を浴びてはいるが瞬に気にした様子は無い。


エアリアに促され、受け付けへ行く。

「すいません、冒険者登録したいのですけど」

空いている受け付けで要件を述べる。

「登録ですね。何かライセンスはお持ちですか?」

受け付け嬢に聞かれ、瞬は魔道士第4等級のライセンスを提示する。ライセンスは銅板だがちいさな魔石が組み込まれ、そこに所持者の情報が入っているのである。


召喚の恩恵は情報通信にも及んでおり、その地球の発想は大いに取り入れられ研究された成果であった。


「…はい。確認しました。魔道士第4等級ですね。情報登録のため鑑定を行いますのでこの石版に手を置いてください」

促されて石版に手を置く。

しかし瞬は忘れていた。

正しく鑑定されないという事実を。


「ぷっ! あはははははは!」

突然受け付け嬢が爆笑しだしたのである。

「あ、暴れん坊チワワ…ぷっ!」

受け付け嬢がその恩恵ギフトの名を口にした瞬間周りで見守っていた冒険者たちの間に爆笑の渦が巻き起こった。

「ギャハハハハ! なんじゃそりゃあ!」

「おいおい、犬かよ!」

「なに? 極滅の愛玩用か? 羨ましいなぁ、おい!」


指を差してバカ笑いする愚物どもを瞬は睨みつける。

すると男が1人反応して立ち上がり、瞬に近づいてきた。

「なんだ? 文句でもあんのかおチビちゃん?」

男はヘラヘラと笑いながら瞬を挑発する。

革の鎧を着込み、2メートル近い巨体が露にしている腕は丸太のように太い。さらに眉も剃ったのか見当たらず、額には傷跡が残っていてベテランの風格があった。


「小さいからってバカにするな!」

「へいへい。極滅もお子ちゃまのお守り大変でちゅね〜」

チビという言葉に腹を立てて文句を言うが、眉なしはお構い無しさらに煽ってくる。

「…こいつ殴っていい?」

とにかくもうおかんむりな瞬であった。

「おもしれぇ、やろうってのかい? 向こうに訓練場があるからそこで相手してやるよ」

「望むところだ!」

眉なしは待ってましたとばかりにケンカを買い、薄ら笑いを浮かべる。

「…面白そうだから私が立ち会う。シュンの実力も見たい」

そのやり取りを全く止める気がないエアリアであった。



訓練場は土の床になってはいるが、結構硬い。特に大した設備があるわけではなく、だだっ広いだけであった。

その中央に2人は対峙し、その周りをエアリアを始め多くの冒険者達が見守っていた。

「俺の武器は斧だが、使わないでおいてやるよ。怪我じゃ済まねぇからな」

「それじゃ面白くない。負けたときの言い訳残してんの?」

眉なしのハンデ宣言に瞬が煽る。チビ扱いされたことで相当頭に来ているのであった。

「ほぅ? 言うじゃねぇか。だったら使ってやるよ。死んでも知らねぇからな? 俺様は『剛腕』のイーマ。イーマ=カセーヌだ」

イーマが背中のバトルアックスを両手に構えた。

「瞬だよ。シュン=スオーだ。好きに呼びなよ」

瞬がファイティングポーズをとる。


瞬は軽く膝を揺らしながら眉なしの出方を待つ。瞬にとってはただのケンカではなく、この世界の冒険者の実力を測る模擬戦でもあった。だからすぐに仕掛ける気はない。


「っしゃぁらあぁっ!」

斧を両手で振り上げ、イーマが動いた。

振り下ろされた斬撃はかすりもしないものの、ぶつけた大地に深く食い込み破壊音を立てる。

隙だらけだが瞬は仕掛けない。

さらにイーマが蹴りから横の斬撃、斜め、また横と斧を振り回す。

迫力はあったが、瞬は涼しい顔をして避けている。


「あのチビやるじゃねぇか!」

瞬の健闘に外野がどよめく。

「…チワワは自分より大きい動物にも果敢に立ち向かう」

エアリアが真面目な顔をして解説する。

「おおっ! そうなのか!」

何故か周りが納得していた。

「…つまり、チワワは褒め言葉。勇気の象徴。シュンにピッタリ」

エアリアがその紅い瞳をキラリと光らせ断言した。

もちろん本人は大マジメである。

「なるほど! なら奴の二つ名は『チワワ』! 『チワワ』のシュンだ!」

エアリアの解説に周囲が歓声をあげた。


瞬の二つ名が決定した歴史的瞬間であった。


「チワワ! チワワ!」

突然野次馬たちがチワワコールを始めたせいで瞬はイラついていた。それはもう青筋立ちまくりである。

━━もう終わらせよう…。

イーマの実力のほどもわかったので終わらせることにする。


「ちょこまかすんじゃねえ!」

イーマも斧の空振りに疲れが見え始め、その斬撃に鋭さが無くなってきた。空振りは結構体力を消耗するのだ。

振り下ろした斧を軽くかわし、懐に入り込むと右太腿に肘を叩き込む。脚を殺す気である。

「ぐっ!」

痛みと疲れで膝を着く。そこを見逃す瞬ではない。

左のショートフックからさらに右のショートアッパーを頬と顎に叩き込む。


それで決着だった。


イーマはそのわずかツーパンで地に倒れ伏したのだ。


「チワワの勝ちだ!」

「チ、ワ、ワ! チ、ワ、ワ!」

訓練所に拍手とチワワコールの合唱が響き渡り、瞬を祝福した。バカにしているわけではないのが理解できただけに、文句の言いづらい瞬であった…。



「…シュン強い。びっくりした」

エアリアが駆け寄り瞬を祝福する。

「う、うん、ありがとう。もしかしてチワワ定着した?」

何となく嫌な予感しかしなかったが。

「…チワワは私も好き。いつか飼いたい。シュンは不満?」

もしかしたら元凶はエアリアなのかと怪しんだが、問い詰めてはいけない気がしてならなかった。

いや、むしろ飼われたいと思ったほどである。

「…チワワでいいです…」



瞬、陥落。



コンクリートはローマ時代からあるから驚くところでもなかったねw



イーマ=カセーヌ

アナグラムはあからさまだったかもw

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