大賢者ゼナ来訪
アクアデイルに入りギルドで依頼のエクスタ草を提出する。かなりの量集まったため必要量以上は自分で保持しておくことにした。
「それとこれを。途中でギルド証を拾いました。それと戦闘の跡と血痕も…」
「ありがとうございます。何があったかご存知ですか?」
「もう危険はないと思います」
瞬が調べた限りでは他に脅威と呼べる魔物はいない。せいぜいがオーガくらいでその上位種くらいならいるかもしれないが。
「何かありましたか?」
「…ここでは答えられない。でももう問題は無い」
瞬としてもかなり言いづらい。大英雄のコピーがいて人を襲ってました、など言いたくもなかった。
「いや、そういう訳には…」
「…脅威はない。これでこの話はお終い」
ピシャリと言い放ち話を終わらせる。その迫力に怯え、受付嬢は首を縦に振るしか無かった。
2人は報酬を受け取るとギルドを出る。
「ねぇ、大賢者に会いにいけないかな」
「…シュンの陞爵を考えると時間が足りない。こっちに呼べればいいけど…」
瞬の中にはモヤモヤしたものがあった。間違いであって欲しいという思いはあるものの、やはり真実が知りたかった。
「…あそこには冒険者ギルドがないから」
「うーん、空を飛んでいけば。空飛ぶ乗り物でも作るか…。でもあんまりオーバーテクノロジーなもの作るのもな…」
さすがに自分の手でそんなもの作った日にはどうなるか。戦争のやり方にまで影響を及ぼしかねない。貴族になるのだから作ってもいいような気もするが、下手をすれば軍事国家になって侵略戦争の原因を作った悪名高い人物として歴史に名を残しそうである。
「うん、やめておこう」
そう思い考えを改めるのだった。それにやりたいこともあったのだ。それは新たな力を手に入れること。魔王とやり合ったが、勝負は互角。しかし魔王には明らかに余裕があった。恐らく本気でやり合えば負けると思ったのだ。
「…とりあえず宿に戻ろう。もう少し休む」
「そうだね」
それから5日ほど経ったある日。瞬は自らを鍛えるべく聖光気無しでの狩りで自らを鍛えていた。
無しでも使っている武器が神鉄鉱の手甲のため結構な威力がある。身体能力の向上に伴いオーガの脚の骨すら砕くほどになっていた。
エアリアと瞬がギルドに寄ると受付嬢から声をかけられた。
「あの、すいません。ゾーラント王国のエメスタのギルドからエアリアさん宛に言伝てを頼まれていまして」
「…エメスタのギルドから? なんて?」
エメスタはゾーラント王国の中でも国境沿いに近い街で、エアリアの故郷フォーンから最も近い街でもある。
ギルド同士は魔法による通信手段を持っている。それにより最寄りのギルドへ応援を頼めるようにもなっていた。そして第1等級冒険者はその所在の報告義務があり、その情報はその国の最も大きいギルドに送られる。そのためエアリアがアクアデイルにいることを他所のギルドから調べることも可能なのだ。
「大賢者ゼナ様がアクアデイルに来られるそうです。それまでここに滞在するようにと。予定では3日後だそうです」
「…それはありがたい。3日とは随分早いね」
「普通はその4倍はかかるんですけどね…」
受け付け嬢はその非常識な早さに苦笑いを浮かべる。
「…でも珍しいかな。あまりフォーンを動きたくないようだったのに。何かあった…?」
少し嫌な予感はあったが、会うべき相手が来てくれるなら、とまぁいいやで済ませるのだった。
そして3日が経った。
瞬とエアリアは朝方ギルドへ寄るが、さすがにまだ来ていないようだった。そこで受付嬢に言伝てを頼み宿で待つことに。
その日の第5の鐘が鳴り、午後2時を報せる。その鐘が鳴り止まないうちに2人の泊まる部屋に来客があった。
ノックされ、エアリアが扉を開ける。
「おぉ、おぉ。エアリア。ようやく会えましたね、ククッ」
「…ゼナ、久しぶり!」
エアリアに招かれゼナが部屋に入る。どんなジジィかと瞬は思っていたのだが、見た目は若い男であった。
眼鏡をかけ、理知そうな顔である。
「…シュン。この人がゼナ。見た目は若いけど年齢は世界最高齢のはず」
「いやぁ、どうも初めまして、ククッ。あなたが…、おっと遮音結界を張らないと」
ゼナは軽く指をついっ、と動かすと部屋の空気感が変わり結界が張られる。
「いや失礼、ククッ。あなたが神代創魔師ですか。ゼナです。以後お見知り置きを」
「えと、瞬です。よろしくお願いします」
「まぁ、聞きたいこともあるでしょうが、先ずは私の用事から済ませますよ」
ゼナは置いてある椅子に腰をかける。エアリアはベッドに座る僕の隣に座った。
「いやぁ、参りましたよ。こないだアリーのホムンクルスに襲われましてね。ヴァルバロイの仮面を奪われてしまいました、アッハッハ」
至って陽気に話すのだが、瞬にはそれの意味するところが分からない。エアリアもよく分かっていないが、少なくともヴァルバロイに関係した物だ。良くないことなのは理解出来た。
「そのヴァルバロイの仮面ってなんですか?」
「そのままの意味です。ヴァルバロイはずっと仮面を付けていたんですよ。あれにはヴァルバロイの怨念の一部が込められていましてねぇ。力の残滓ってんですかね?」
「…それがあるとどうなる?」
「ヴァルバロイの力の残滓を取り込めます。不完全体ですがヴァルバロイが復活しちゃいますね」
ゼナはサラッととんでもないことを言う。その一言にエアリアと瞬が固まった。
「…そんな大事なもん何で渡すの!」
「無理です。あんな無茶苦茶な相手には勝てません。殺されてしまいます。仮面と引き換えに見逃してもらいました!」
「…ホムンクルスってアリス? 私の方が強い」
「名前とか知りませんよ! エウルード持ってましたが…」
「…奪われた」
その一言にゼナが項垂れ、大きくため息をつく。それはもう嫌味たっぷりに。
「…そういえば私も聞きたいことがある。どうしてエウルードがグランデスの神器だって嘘をついたの? それと、どうしてエウルードでシュンを見つけられたの?」
その質問にゼナの表情からおどけた様子が消える。そして瞬とエアリアの顔を見ると口を開いた。
「いいでしょう。いつかは話さなければと思っていました。ですが見てもらった方が早いですね」
ゼナは立ち上がると瞬とエアリアの肩に手を置く。
「転移!」
その瞬間、3人が宿屋の部屋から姿を消した。
そして3人は朽ちた廃墟へと転移する。
その廃墟は元が神殿だったのか、折れた柱や壊れた石像などが忘れられたように倒れていた。
その中に半径3メートル程の半透明のドームがあるのだが、そのドームに瞬はなんとなく見覚えがあった。
「着きました。私はこの結界を開けることができません。瞬、君なら開けられるはずです。開けてみてください」
ゼナがそのドームを指差し、開けるよう伝える。瞬はドームに触れ、それが何か理解した。
「これ、僕の封絶…? なぜここにある!?」
瞬は驚愕しつつもその結界に入り口を作ることに成功する。そして中へ入ると信じられないものがそこにあった。
そこにあったのは石像。
そしてその石像は…。
「これ、僕とエアリア…?」
瞬にはその像が自分をその胸に抱いているエアリアに見えていた。そのエアリアはとても愛おしそうに瞬を抱きとめ、瞬は縋るようにして目を閉じていた。
「そうであるとも違うとも言えます。これはエアリアとヴァルバロイ。ヴァルバロイがアリーの死後自らとアリーの魂をそこに封じるために造り上げた聖遺物です」
その言葉に瞬もエアリアも言葉を失うのだった。
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