魔道士アルハザード
朝になり、食事を済ませると封絶を解除してエクスタ草の群生地を目指し歩き始める。
山道は緩やかな傾斜があり、蛇行するような道筋であった。たまに出てくるオークを片付けつつ歩いていく。
そして中腹辺りに差し掛かると例の血の跡の付いた木のところに辿り着く。
「予定変更しない?」
「…賛成。さっきからずっと付けられてて鬱陶しい」
瞬は振り向きざまに光矢で目玉の化け物を撃ち貫く。貫かれた化け物は木の上から落ち、動かなくなった。瞬は穴の空いた目玉の奥に賢者の石を見つけ、取り除くと化け物は灰となって消えていった。
「そういえばずっと気になってたけど、これってダルクアンクレプリカの劣化コピー品で、そのダルクアンクレプリカのオリジナルもまた存在するんだよね?」
「…そう」
「解析」
瞬はその賢者の石を解析してみる。どうやって作ったのかがどうしても気になったのだ。
そして解析結果に驚く。
賢者の石 品質 ユニーク
魔法道具創造によりダルクアンクレプリカを元に作られた模造品。体内に埋め込むことで浄化への抵抗を得る。材料は術者の魔力と祝福スキル。
「これ、スキルと魔力で作られた物だ…」
「…どういうこと?」
「魔法道具創造っていうスキルがあるみたい。僕の神器創造よりは力が弱いのかな、名前的に」
そうなると1つの可能性が生まれる。
「これって、もしかして僕ならダルクアンクレプリカを作れるってことにならない…?」
「…! 材料が魔力なら逆に神代創魔師以外作れないことになると思う」
「ということは過去にも神代創魔師がいてダルクアンクレプリカを作ったことになるのか…」
さすがに今も神代創魔師が他にいて神の器に協力している可能性は低い。それならわざわざ街を襲って奪う必要などないからだ。そして神の器の中に賢者の石を作成できるスキルを持つものがいる、ということになる。
「なるほど。確かに僕の恩恵が外部に漏れるのは危険過ぎるかも。気をつけよう」
「…ゼナは知っていた…?」
これはますますゼナに話を聞かないといけないな、と改めて思うのだった。
「まぁ、会えばわかるんじゃない? とりあえずアジトを潰しに行こうよ」
「…そうだね。行こう」
2人は神の器の研究施設へ向かって再び歩き始める。なぎ倒された草を踏みながら道無き道を行く。途中でギルド証を幾つか拾った。恐らく先発した冒険者たちのものだろうと思い、収納する。
そして開けた場所に出た。広い土地の中に施設らしい建物が建っており、そこを目指して走る。
そこへ気配がひとつ。
空高く舞い上がった気配の主の振り下ろしたハルバードをエアリアがエルウードで受け止める。
激しい金属音が鳴り響いたかと思うとその気配の主は飛び退いて距離を取った。
「え、エアリアそっくりだ…」
「…コピーホムンクルス!」
その気配の主はエアリアの色違いと言うべきか。違うのは髪の色と鎧くらいで後は瓜二つであった。
「初めまして、お姉ちゃん。私は実験体No.013アリス。あなたの妹になるのかな?」
アリスと名乗った女性はエアリアを見て不敵に笑う。
そらにそのアリスの隣の空間が突如闇に包まれたかと思うと中から初老の男性が現れた。
「ふふっ、久しいな、と言っても覚えてはおらんだろうな。私の名はアルハザード。お前を造り上げたのはこの私だ!」
アルハザードは自ら名乗ると白い歯を剥き出しにして笑う。アルハザードは興奮していた。自分の造り上げた最高傑作がどの程度の力を持つのか。それを知るうってつけの存在こそがエアリアであった。
「やれ、アリス! 005に勝って見せろ!」
「了解しました」
「…シュンはあの魔道士をお願い!」
エアリアは瞬にアルハザードを任せると横に動き、瞬を巻き込まないようにする。
瞬はアルハザードを見やると先制とばかりに千の光矢を放つ。
「闇の盾!」
アルハザードは闇の盾を無詠唱で4層生み出すと全ての光の矢を受け切る。闇の盾は3枚割れたが残り1枚は無事だった。
「千の闇弾!」
そしてお返しとばかりに無数の闇の弾を生み出し、瞬目掛けて放つ。
「防衛!」
瞬も負けじと4層の壁で対抗し、受け切った。ぶつかった闇の弾丸は壁にぶつかると霧散していき、その全てが闇の霧となり漂う。壁は2層割れ、1枚ひびが入っていた。
「暗黒の閃光!」
「反射」
アルハザードの閃光魔法に反応し、カウンターを発動。闇の閃光は反射されアルハザードに向かう。
「ぬぅっ!?」
アルハザードは素早く横に跳んで回避。瞬はそれを追ってステップを踏んで一気に接近。距離を詰める。
アルハザードはどこからともなく金色の盾を取り出し攻撃に備える。無詠唱の収納魔法を利用した換装だろう。構わず瞬は得意の右フックで盾を殴りつける。
鈍い音がしたが盾は砕けず拳大に凹んだだけであった。
「神鉄鉱に傷をつけるとは非常識なヤツめ!」
「シッ!」
一発でダメなら、と瞬は盾に連打を叩き込む。その盾で受け止めながらアルハザードが距離を取った。
「ちぇっ、壊れないか」
「これは化け物だな。貴様何者だ?」
「瞬ていう異世界人だけど? 覚えなくていいよ。お前はここで倒すから。色々聞かせて貰わないとね」
「何が知りたい? サービスで教えてやっていいぞ?」
何やら答えてくれるらしいので瞬はかまえを取ったまま質問をしてみることにした。
実際はアルハザードの時間稼ぎなのだがそれには気づいていない。
「賢者の石を作ったのはあんただろ?」
「その通りだ。よく分かったな。あれは私にしか作れん」
「他の実験体はどうしてる?」
「残念ながら他は死んだよ。生き残っているのはそこのアリスとエアリアのみだ。君がエアリアを気に入っているなら取り引きをしないかね?」
また引き抜きか、と内心うんざりする。
「仲間にならならないよ。後はお前を張り倒してから聞くわ」
「せっかちだな! 魔王召喚!」
強大な闇が生まれ、それは収束し人の形を取っていく。
そして2本の羊のような角を生やした美丈夫の男が現れた。
「アルハザード、どうした?」
「そこの男を止めろ。アリスが劣勢のようだ」
「行かせるか!」
空間移動を使い、一瞬でアルハザードの前に出る。そしてすぐさま右フックを叩き込んだ。
アルハザードも暗黒気で対抗するが、瞬の聖光気がそれを上回りアルハザードの腹に食い込む。威力こそ大分削られたため深手には至らなかったようである。
しかし追撃は美丈夫が許してくれなかった。美丈夫の鋭い蹴りを腕でガードし、後ろに飛び退く。
「この私を無視するとはいい度胸だ。我が名はヴェール。魔王ヴェールである!」
魔王は怒りを滲ませ、闇のオーラを膨らませた。
20時にもう一本投下します。
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