ライオネス王子
ハラスの街の最も大きな広場では傭兵達と1部の重役達が集められていた。そしてまた、その英雄達を一目見ようと集まった民衆達もいる。
「傭兵として参戦してくれた皆には感謝の言葉もない。皆のおかげで無事ミスリル鉱山の奪還と解放は成し遂げられた。その代償として多くの同胞達の命が失われたことを私は決して忘れないだろう。皆の国を愛する心と義侠心を私は誇りに思い、これを称賛するものである。少ないが約束の報奨金を受け取って欲しい。そしてまた、新たな国難が生まれた時、共に戦うことを期待する」
ライオネスが謝辞を述べると瞬とエアリアが呼ばれ、ライオネスの前に立つ。
「そしてこの戦いが僅か1日で終結したのはこの2人のおかげと言っても過言ではあるまい。同胞よ、この新しき英雄瞬とエアリアに惜しみない礼賛を!」
ライオネスが両手を広げ、拍手を求めると観衆と傭兵達から拍手と賛辞が贈られた。
何となく照れくさくなり、2人は顔を見合わせて笑う。
その後、各傭兵達に報奨金が配られた。瞬とエアリアは別途話があるため、この後領主邸にて話し合いの場が設けられることとなっていた。
その話は早い話が陞爵など、今後についてである。特にエアリアについては教会も絡み、しかも他国の人間であるため色々調整が必要なのだ。
2人は会議室ではなく応接室に案内された。応接室ではライオネス王子、ハラスのヴァサー教会の大司教、ウォーゼン辺境伯という錚々たる面子が集められた。
「まず瞬については叙爵してもらうことになるだろう。功績と実力、重要性を考えるなら子爵あたりとなるだろう。そうなると当然その英雄に取り入ろうと様々な貴族が婚姻話を持ちかけてくるだろうな」
「それはちょっと…」
正直政治もわからないのに貴族とかめんどくさい、というのが瞬の本音である。しかし国としても瞬を陞爵という名目で管理下に置かない訳にはいかなかった。なにせ無詠唱で戦略級殲滅魔法を連発し、白兵戦でも獅子奮迅の活躍を見せるような傑物である。間違って他国に引き抜かれでもすれば目も当てられないし、その危険性は大いに有り得る話であった。
「わかっている。そこのエアリアと引き裂くつもりなど毛頭ない。そんなことをすれば敵対されかねんからな。だから2人は虫が寄ってこないように婚約したまえ」
ライオネスの提案に2人は顔を見合わせ、お互いの手をしっかりと握る。政治的判断での婚約、というのは少し抵抗があったがお互いの気持ちは結局のところ一つだった。
「それは喜んで。他の人と、なんて御免です」
瞬はハッキリと断言した。
「だがそうなると少し問題があってね。まぁ、文句を言えた話ではないかもしれんが、エアリアは他国の人間だ。そしてバックには教会もいる。教会にとしては協力関係という立場だから神の器との貴重な対抗戦力でいてくれればいい。今まで通り奴らのアジトを潰し、追い詰めていってもらいさえすればね」
「そうなるとエアリアの故郷であるゾーラントだが、君はゾーラントの貴族と繋がりはあるのかい?」
その質問に少し考える。確かにゾーラント貴族の依頼を受けたことはある。そして言い寄られたことも。しかし特別な友誼を結んだとかそういう相手は皆無だった。ゾーラントで最も関わりが深い相手といえば大賢者ゼナくらいであったが、問題はエアリアが大英雄アリーの娘とされていることである。
「…1番深い関わりがあるのは大賢者ゼナくらいです。王族や上位貴族となると面識はないです」
「なるほど、そうなると問題は英雄アリーの娘ということでゾーラント王家が動く可能性くらいか。同盟国だしそこまで無茶な言いがかりはして来ないだろうが…」
「大賢者ゼナ様とはどのような関係で?」
ウォーゼン辺境伯がゼナとの関わりを聞く。大賢者ゼナといえば世界屈指の大魔導師であり、第1等級魔道士でありながらゾーラント王家の管理下に置かれていない平民であった。
「…ゼナは魔法の師匠です。一応私の保護者になってるから伝えない訳にはいきませんが。でも反対されないどころか味方してくれるはずです」
「ほう?」
「…ゾーラントを離れる時に言われました。もし、探している人に出会えたなら決して命を落としてはいけないと。そうなったらこの世界は終焉を迎えるとまで言われましたから」
ライオネスが気にかかったのは探している人に出会えたら、という前提条件である。エアリアが瞬を探していたことは教会さえ知らないことだった。くれぐれも他の人に知られないように、と厳命されているのだ。ベンジスでは知ってる者もいるのだが、契約魔法で縛ってあるので漏れることはない。
「ず、随分物騒な話だね。どうしてそこまで話が飛躍してしまうのか知りたい所だが…」
「…教えてくれませんでした。いずれわかる、とだけ」
そこまで話すとエアリアは長く見てなかった悪夢のことを思い出す。何か関係があるんだろうか、と。
「ふむ、となると問題は無さそうだね。叙爵等の式典はバルドーラとの停戦交渉の後になるだろう。追って連絡したいから2ヶ月は国内にいて欲しい」
「…それは困ります。どうしても早いうちに1度ゼナに会わなくてはなりません」
「なら1ヶ月以内に国内に戻って欲しい。それまでは大丈夫なはずだ」
そう言われ、エアリアは承諾した。そして陞爵するとなると瞬にはもう1つ問題が発生する。
「それであの、叙爵後のことなんですけど…」
「ああ、わかっている。実質的にエアリアも引き抜くわけだからな。教会との仲を拗れさせるわけにもいかん。2人には引き続き神の器の対処に動いてもらうわけだが、今後それは教会との協力関係を築くという名目で王国からも勅命を出す。そうすれば国内なら融通も効くだろうし旅に出ても問題はない。必要であればアキラとスイイも同行させられるが、それはもう少し実力をつけてからだな」
何と物分りのいい王子なのだろうかと瞬は感動さえ覚えてしまった。そこまで協力してくれるなら、全てを成し遂げた後はその恩に報いたいと思える程に。
実際はライオネスが優秀なだけで、瞬の性格を見越してのことである。何せ友のために手を血で汚すことを厭わない義理人情に厚い性格という評価なのだ。ならば力で従わせるよりは恩を売り、理解ある協力者でいれば絶対裏切らないだろう。そして上手く神の器を潰せばそれこそ王子の株も上がるし教会とも親密な関係を築けるのだ。
目端の利く者なら当然の選択と言えた。
「ありがとうございます! 全て成し遂げたら喜んで殿下にお仕えいたします!」
「…色々御配慮頂きありがとうございます」
そして案の定ライオネスの株が2人の中で爆上がりするのであった。
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