魂の救済
「…疲れた」
瞬は部屋に入るとぽふっ、とベッドに倒れ込んだ。宿屋は引き払っていなかったため、しっかりキープされていたのである。
戦いが終わった後も事後処理で何かと忙しかった。捕虜の収容所への護送は傭兵の仕事ではないのでやらずに済んだのだが、最大の功労者ということで領主邸に招かれての食事会があった。
辺境伯や侯爵といった上位貴族や王子も招いての食事会なものだから気楽にというわけにもいかず、終始緊張しっぱなしだったのである。
何せたった2人で戦況を覆すようなことをしでかしたものだから、娘を勧めて来たり果てはエアリアにまで是非息子の嫁にとか言い出し、キレそうになるのを堪えながらだったのだ。幸いライオネスが助け舟を出してくれたおかげで上手く有耶無耶にできたのであった。
だがそれもライオネスの計算だったのではないかと後々思えてしまう。何せ皆の前でゆくゆくは王子に仕えるという言質を取られてしまったのだ。この辺りは瞬が迂闊というより相手が一枚も二枚も上手なだけだろう。
すっかり疲れて寝ようと思っていたが、エアリアが風呂を用意したので入ることになった。先に入っていいと言われ瞬はお言葉に甘える。気を使ってくれたのだろう。
そして風呂から上がった後ベッドで横になると、そのまま眠りについてしまった。
エアリアも後から入り、風呂から上がると寝息を立てている瞬のベッドに潜り込む。寝巻きというものがないのでシャツとショーツのみという何とも扇情的な格好だが、これが普段寝るときの格好だったりする。
瞬にしてみれば蛇の生殺しなのだが。
瞬は夢を見ていた。それがいい夢なら良かったのだが、それはうなされるほどの悪夢であった。
瞬が魔法を使い、極冷気の竜巻が発生。敵の兵士たちが竜巻に巻き上げれては叩きつけられ、またある者は凍傷によりその命を奪われていく。そして氷の塊で頭を損壊する者たち。
それらの中心に瞬は立つ。すると死者達が次々と立ち上がり、虚ろな目で瞬を見るのだ。
よくもよくもと怨嗟の声を投げかけ、瞬を非難して取り囲んでいく。やがてその波に飲まれその身を食いちぎられていった。
「…シュン! シュン!」
エアリアの声に瞬が目を覚ます。その身は汗でぐっしょりだった。
「…うなされていた」
「ごめん、うるさかった? 夢見が悪くて…」
申し訳なさそうに瞬が謝る。エアリアは心配そうな目で瞬を見るが、暗がりで相手の表情がよくわからない。
エアリアは瞬を抱き締める。
「…シュンの魂は傷ついている」
戦争が終わると、その凄惨さに耐えられず日常生活が困難になるほどの心理的外傷を受ける場合がある。そんな状態をこの世界では『魂が傷ついている』と表現するのだ。精神系の薬のないこの世界では、1度この病気にかかると立ち直れない者も珍しくない。
エアリアはそんな傭兵や騎士達を何人も見てきて知っている。死が日常的に存在するこの世界でもそれは変わらないのだ。
ましてや瞬はたかだか15歳。この世界に比べ優しい世界にいた少年に耐えられるものでは無いし、大きな大義があってやったことですらないのだ。平気でいる方がどうかしているだろう。
エアリアは思うのだ。こんな時、アリーがいてくれたらと。アリーは『魂の救済』という特別なスキルを持っていた。それは救世主という、命と魂を司るグランデスの寵愛を得た者だけが得られ、傷ついた魂をも癒して安寧を与える権能を持つ。
エアリアの恩恵は『後継者』。それは間違いなく救世主の後継者であり、悪く言えば劣化コピーなのだ。
だったら自分にも得られるのではないか、とエアリアは思う。そのために必要な物はなにか。
ニャムは言っていた。「キスでこれならエッチしたらどうなるのかニャ?」と。瞬の加護による資質の向上、そして相手を慈しむ心があれば。そこに希望を見出していた。
「…だから私が癒してあげたい」
そして頬を擦り寄せ、意を決して耳元で囁く。
「…抱いて」
その言葉に瞬は息を飲む。
「…いいの?」
「…初めてだから優しくしてほしい」
もう瞬に躊躇いはない。
優しく首筋に口づけをするとチロリと舌を這わせ、耳を目指す。漏れる嬌声は耳たぶを噛むと一層強くなり、身体が小さくぴくんと跳ねた。
そして口づけを交わすと求め合うように舌が絡み合う。その甘さを夢中で貪りながら柔らかな胸に触れていった。
そうやって瞬はエアリアの身体に自分の舌と指が触れていないところなんてない、と思わせる程に愛撫していった。
愛しい人をじっくりとその五感を用いて確かめ、自分だけのものにしたいという独占欲を満たしていく。
やがて心溶け合い1つになると、エアリアが瞬を離さまいとそのしなやかな両腕と脚をもって繋ぎ止める。
そして瞬自身をその身に取り込んだ。
そして奇跡は起きる。
瞬の寵愛とエアリアの慈愛の心により得られた加護は『後継者』に更なる力を与える。
魂の救済。その力に目覚め、エアリアは更なる優しさを持って瞬を包み、魂の傷を癒していった。
それはさながら大天使の抱擁のようにどこまでも慈悲深く、そして心に安らぎと乗り越える強さを与えていく。
悦びと歓びに包まれた2人は疲れ果て眠るまでその愛しさをぶつけ合うのだった。
2人が目を覚ます頃には既に昼前だった。先に目を覚ましたのはエアリアで、昨夜のことを反芻しながら瞬を胸に抱いて喜びを噛み締める。
とくん、と胸が高鳴り顔が上気したのが自分でもわかった。
そして瞬も目を覚ます。気がつけば胸の中。ここは天国かと寝ぼけ眼で見あげるとエアリアと目が合う。
「…おはよ」
「お、おはよう」
照れくさかったが、どちらもお互いから目が離せず吸い寄せられるようにお互いが顔を近づけ目を閉じる。
「おーい! 起きてるかー!」
と野太い声とノックにびくぅっ、と身体が反応する。一気に現実に引き戻され慌てて身支度を整えつつ、
「はーい、起きてます。少しお待ちをーー」
と慌てて返事をした。2人とも無限収納から直接衣服を着て、エアリアは乱れていた髪を整えるためブラッシングを始める。そのことを確認してドアを開けた。
「主役が来ねーと始まんねーだろが…ん?」
いたのは傭兵仲間の男女の冒険者コンビだった。部屋に残る淫靡な香りと乱れたシーツ、そして乱れた髪を直すエアリア。それらから察したのだろう、にやーっと笑った。
「わっはっはっ! そうかそうか。2人とも同室だから当然だよな」
「昂った気持ちを鎮めるには必要よねー。わかるわー」
2人とも顔を真っ赤にしながら急いで身支度を整えるのだった。
性的表現は控えさせてもらいましたすいませんw
どこまでOKなのか線引きわからないです( ´・ω・`)
今回もう1話出します。20時くらいに。
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