神代創魔師
「ここどこ…?」
瞬が目を覚ますと知らない天井が見えた。
木製の天井にはランタンがぶら下がっているが、火は灯っていない。陽射しが差し込み朝が来ているのだから当然ではあるが、瞬には時間の感覚がなかった。
自分の記憶を手繰り寄せると昨日宮松にのされ、敗北したことを思い出す。
自分の頭には濡れたタオルがかかっており、既にぬるくなっていた。
誰かが介抱してくれたのかな、と横を見る。
銀髪の胸鎧を着込んだ女の子が瞬の横で自らの腕を枕にして寝息をたてていた。彼女の横には桶があり、水が入っている。介抱したまま寝てしまったのだろう、彼女は外套すら羽織っていない。
腕枕で顔の大半は隠れていたのでつい顔を見たくなったのか、瞬は身体を起こしてベッドの上であぐらをかく。するとエアリアが目を覚まし、ゆっくりと顔を上げた。
寝ぼけまなこではあったが、それが逆にエアリアの儚い美しさを引きたてる。
瞬は完全に見惚れていた。
はたまた天使か妖精か、そんなことすら考えることもできず、ただただ見惚れていた。
「…目、覚めた?」
エアリアが口を開くと瞬は我に返り、慌てふためいた。
何をどう接していいか、完全に混乱してしまったのだ。
「…もうどこも痛くない?」
エアリアに言われ、そういえば痛みが全くないな、と今更ながら気づく。なにせどの程度の怪我をしていたのかすら自分でもわからなかったのだ。
「えと、痛くないです。その、色々ありがとうございました」
瞬は慌てて正座に座り直すと、深々と頭を下げる。
「…そう、良かった」
エアリアが優しく微笑むと瞬の頬が赤く染まる。
顔の温度が自分でもわかるほど熱くなり、心臓の鼓動がよくわかった。
「あ、あの、僕は須王瞬って言います!」
どうしていいかわからず、とりあえず自己紹介してまたも頭を下げる。
「私はエアリア。エアリア=フォルティス」
エアリアの名前を聞き、自分がつい日本での名前順で伝えたことに思い至る。
「えと、瞬が名前で須王が姓です。あ、姓ってのは家名みたいなもので…」
もうとにかくわやくちゃであった。が、一応通じたらしい。
「…じゃあシュンでいい?」
「ぜんぜんオッケーです!」
水衣以外の女の子に名前で呼ばれたのはこれが初めてであった。
「…シュンは異世界から来てるよね。追い出された?」
「です」
瞬はことの経緯をエアリアに説明した。
「…で、今に至ると。とにかく何か仕事探さないといけないんですけど、仕事を探す所とかないですか?」
なにせ瞬には頼る所もない。唯一何か相談できるとしたらエアリアしかいない状況でもあった。
「…シュンは私と来て欲しい。そのために拾った」
「え? 僕にできることがあるなら喜んでやるけど…」
自分には恩恵がない。そう言おうとした。エアリアはどう見ても戦闘を生業にする戦士である。この世界にある恩恵の強力さを目の当たりにし、果たして恩恵のない自分が役に立つのかと少し弱気になっていた。
「…じゃあ決まり。目を閉じて額に人差し指を当ててみて」
「え? こ、こう?」
言われた通りにやるが特に何も起きない。
「…そしたら自分に問いかけてみて。自分の恩恵とスキルがなんなのかを」
━━僕の恩恵、スキル…。
瞬が自らに問いかけるよう念じると、頭の中に文字が浮かんできた。
系譜ヴェルム=カッソ 恩恵神代創魔師
スキル 原初の魔素 魔法創造 言語理解 祝福の恩寵
MP2500 スキルポイント12500
瞬もゲームをやるから勇者とかそういうのはわかる。しかし神代創魔師という職業やらクラスやらは聞いたことがない。
「なに神代創魔師って? 初めて聞くんだけど…」
「…良かった、やっと見つけた」
瞬の恩恵を聞いてエアリアの顔がほころぶ。その様子にまたも瞬は鼓動の高鳴りを感じていた。
「…神代創魔師は魔法系の本当の最上位。もちろんそれだけじゃないけど、それはまた今度。スキルは意識しないと使えないから、浮かんだスキルに集中してみて」
「やってみる」
原初の魔素
魔力の超回復 コスト大幅カット 完全魔法制御
魔法創造
スキルポイントを使用し魔法を作る。全て無詠唱。
「スキルポイントっての使って魔法作れるみたい」
━━なんちゅうゲームじみた能力なんだ…。
「…回復魔法は欲しい。後は任せる」
「うん」
今度はそのスキルポイントに意識を向ける。
どうやらスキルポイントは魔法だけでなく別のスキルを取るのに必要なことがわかった。
早速瞬は魔法とスキルの入手、作成にとりかかった。
作成はいとも簡単に行えた。ただ魔法を設定するまでどのくらいスキルポイントを使用し、どのくらいMPを消費するのかわからないのが難点であったが。
光矢 100pt
防衛 500pt
復活 5000pt
スキル 無限収納2000pt
スキル 聖光気 2500pt
とりあえず必要そうなスキルの修得と魔法を創る。まだ残り2400ptあるが、それはその場で必要そうなものを作った方がいいと思ったのである。
「出来たよ、ってあれ?」
ここで今更ながらにおかしなことに気づく。
「じゃあなんであの時鑑定されてあんなことに?」
そう。あの神官の鑑定では確かに恩恵は「暴れん坊チワワ」というふざけたものだったのだ。それが自分で確かめると違う結果になる。もはやわけがわからなかった。
「…ヴェルム=カッソはヴァサーの眷族じゃない。もっと上位の神様。だからだと思う」
「なにその無駄仕様」
全く迷惑な仕様でどこからツッこんでいいかわからないほどである。
「…私の系譜もヴァサーの眷族じゃないから、恩恵を正しく鑑定されないの」
それはつまり、今後も鑑定されると恩恵が暴れん坊チワワと出ることを意味していた。
この神様何してくれんの。
それが瞬の抱いた感想であった。
「…じゃあ早速出かける。先ずはライセンスを取りに行く」
エアリアが立ち上がる。
スラッとした長身でその背丈は明より高いくらいだ。瞬がベッドを降りて並ぶと大人と子供である。
「おおっ! 水道がある!」
そう。なんと部屋にはシンクがあり、ちゃんと蛇口を捻って水を出すことができたのである。
てっきり井戸から水を汲むものとばかり思っていた瞬は感動すら覚えていた。
「…異世界から来た人達から広められた、って伝えられてる」
エアリアの説明になるほど、と納得する。
10年に1度召喚が行われているのに、地球から来た人達がライフラインである水周りに不満が出ない方がおかしいのだ。
瞬の驚きは続く。
トイレは水洗。外に出れば道路はアスファルトである。そして窓はガラス。走る馬車にはゴムタイヤであった。
そして看板にはアラビア文字もある。
「…先ずは装備を整える。武器屋へ行こう」
エアリアに連れられて武器屋に行くと瞬の希望を基に装備を選んで貰った。
外套に軽めの鎖帷子、レザージャケット、革製のグローブとブーツ。後はマインゴーシュである。マインゴーシュは主に盾代わりに使われる短剣で、盾だと動きの邪魔になるためこちらにしたのだ。
代金は服に入ってた金貨で足りたようである。
その後は魔道士ギルドへと足を運ぶ。
魔道士ギルドでは魔法修得の修練や契約ができるだけでなく、実戦でどの程度魔法で戦えるかを認定するライセンス試験も行っている。
早速受け付けへ行き、ライセンス試験の申請を行う。
「第5等級臨時試験は小銀貨1枚です」
と小銀貨2枚要求され、銀貨で支払う。お釣りの小銀貨4枚を受け取り革袋にしまった。小銀貨5枚で銀貨1枚分の価値のようである。
財布はあったのだが、紙幣の流通はしていないため、地球の財布では不便だったのである。無限収納にしまうとはいえ、そのスキルは悟られない方が良いとエアリアのアドバイスに従っているのだ。
しばらく待っていると名前を呼ばれ、試験官について行く。
地下に通されると腐臭がした。
「第5等級試験はゴブリンスケルトン5体を魔法で倒してもらいます。もし無理だと判断したら地上に逃げて下さい。アンデッドは太陽の光で簡単に浄化されますから」
「アンデッドならみんなそうなの?」
試験官の説明に質問すると、咳払いをして説明を始める。
「太陽の光は偉大なる太陽神ヴァサー様の加護そのものなのですよ。偉大なる太陽神ヴァサー様は不浄なる魂をお許しにならないのです」
どこか陶酔したような説明であった。瞬としてはそういうもんなのか、程度の認識である。
「では試験を始めます」
試験官が呪文を唱え、力ある言葉を解き放つと白骨が人型をとって起き上がる。はっきり言って動きはのろかった。5体いるが、武器もなくただの的である。
「光矢」
光の矢を10本ほど生み出し、5体のゴブリンスケルトンに向かって飛ばす。
1本あたりの速度は弓矢くらいだろうか。秒速50メートル程で飛んでいき、ゴブリンスケルトンに命中する。
命中した箇所は粉々に粉砕されていき、頭や体幹にあたる部分が破壊されると崩れ落ちていった。
「第5等級試験合格です」
最後の一体を破壊した時点で試験官より合格の宣言がなされた。
瞬は初めて魔法を使ったわけだが、思ったより上手く扱えたことに気を良くしたようである。
次に挑戦したくなったのだ。
「第4等級って受けられますか?」
「そうですね、今日なら大丈夫です。小銀貨3枚ですが」
受けられると聞き、小銀貨を3枚取り出すとそのまま試験官に渡した。
「第4等級試験は別の場所で行います」
瞬は試験官の後をついて行った。
試験会場はそこそこの広さがあり、遮蔽物もない。屋根もないので多少威力のある魔法も使えそうである。
「第4等級試験はオーク3体と戦ってもらいます。準備はいいですか?」
瞬はせっかくなので爆発魔法を作ってみることにした。
原理は水素爆発。
特定座標に水素と酸素を集め、熱を加えるやつである。
水爆 2000pt
「お願いします」
瞬が答えるとまたも何か呪文を唱え始める。
「サモンオーク」
召喚魔法により3体のオークが姿を現す。2体はなんの装備もしていないが、1匹一際大きく鎧を着込んだオークがいた。
「いけない、オークジェネラルが紛れてしまった」
「かまいません。始めて下さい」
オークジェネラルはオークの中でも結構な上位種である。召喚魔法ではたまにこういう上位種が紛れることがあるのだ。
「いいのですか? 危ないと思ったら止めますよ?」
コクリと頷くと開始の合図をして試験官が退避した。
オーク達はジェネラルオークを先頭にかたまっている。
その距離実に10メートル。
「水爆」
指定座標は3体のオークの真ん中。
そこを1拍おいてオレンジ色の炎が吹き上がり、爆発を起こしたかと思うとオレンジの焔が上下に別れて弾け飛んだ。
爆発に巻き込まれたオーク3体は爆発の衝撃で吹き飛び、即死していた。ジェネラルオークの鎧も無惨なほど破壊され、裸のオークなど全身から煙が燻っている。
瞬も離れてはいたがちょっとビックリしたようであった。
「ご、合格です。いやこれはなかなかの威力ですね」
試験官も爆風を軽く受けたため、尻もちをついていた。
こうして瞬は魔道士第4等級のライセンスを受け取り、この世界での第1歩を踏み出したのであった。
この世界だと知識無双できない問題w
先人いたら普通そうなるよねw