ミッドグラファーの戦い1
ミッドグラファー大平原。そこはウォーゼン辺境伯領に広がる広大な平野であり、ミスリル鉱山に続く道がある。そこでは2つの国の軍隊が展開していた。
「先手必勝だな、やれ。バリスタ部隊も準備だ!」
「ふっ、任せておけ」
先に動いたのはバルドーラ側であった。そこに居たのは世界に3人しかいないという第1等級魔道士の1人。
男の名はフォルク。バルドーラの切り札と言われる魔道士でこの決戦のために送られてきたのである。
フォルクは詠唱を始める。戦略級殲滅魔法となるとその詠唱は長く、1分では終わらない。そのため通常は出会い頭にぶつけるのである。
そしてフォルクの詠唱が終わる。ベルムント側はゆっくりと陣形を維持したまま前に進む。接敵まで3km。普通の魔法では到底届かない距離である。
「さあ、死ぬがいい! 炎龍閃砲!」
炎が龍の形となり、天に昇ったかと思うとベルムント軍に向かって急降下を始めた。
時間は少し遡る。瞬は先頭の騎兵の後ろに乗せてもらいながら遠視で敵軍の様子を見ていた。
「敵さん何か魔法で攻撃してくるみたいね。バリスタも用意してるか。とりあえずそれ防ぎます」
現状を把握し、瞬が馬を降りる。使うのは防衛だが、1枚では心許ない。それを前方に10枚配置し、バリスタに備える。次は魔法の処理である。
少し待つと炎の龍が空を舞い、降りてくる。
「飛翔」
「反射」
新たに作った魔法は3つ。飛行魔法と魔法反射、そして広域殲滅魔法である。
飛行魔法で空を飛び、迫り来る炎の龍を反射で跳ね返す。跳ね返った先は術者の位置である。
「も、戻ってきただとおおおおおおっっっ!?」
有り得ない自体にフォルクは絶叫した。付きの対魔法用の魔道士達が慌てて防御で上空に壁を作る。
迫り来る炎龍。その牙は敵軍ではなく術者に噛みつき、辺りを炎で焼く。防御は無惨にも崩壊。前線はその炎で混乱が生じ恐慌状態に陥った。フォルクは自らの炎で焼かれ骨も残らない。
炎はバリスタ部隊にも広がり木製のそれは炎に巻かれ焼け落ちていった。
「そ、総員退却!!」
退却命令が出て後ろの司令官を先頭に退却を始める。前線の方では消火魔法で火消しにかかっていた。しかし炎の勢いは凄まじく、辺りは炎に巻かれ、ベルムントも迂闊に攻め込めなくなり、進軍が止まる。
「あの炎なんとかならんか?」
「消してみます」
瞬は高速飛行で一気に敵の前線まで飛んでいく。
「氷砕の竜巻」
これが瞬が新たに作った戦略級殲滅魔法。その竜巻に巻き込まれた者は瞬時に凍りつくほどの超低温の冷気。空気中の窒素すらも液体にしてしまう程であり、その液体窒素が敵の兵士に甚大な凍傷を負わせていく。瞬時に体温を奪われた兵士は低体温症に陥り戦う力どころか命すらも危うくされていった。
そんな竜巻が1本のみならず3本で敵の前線を掻き乱し、敵軍の損耗は2割を超える。
竜巻が止む頃には炎は消えたが、大地は屍で埋め尽くされていた。瞬はそれらを無限収納で回収し道を作り始める。終わった後に敵国に引き渡せないか、と考えてのことであった。
死体を見るのは初めてではない。護衛依頼のときに山賊の死体を見たことがあったが、戦場の遺体はまた違う悲惨さがあった。
全身を焼かれた遺体、凍傷や低体温症のせいで冷たくなった遺体、あるいは氷をぶつけられたり吹き飛ばされたりで損壊した遺体。多くの死がそこにあった。
ふと足が止まる。自分のしたことが恐ろしくて仕方がなかった。震える脚に命令して頑張って歩く。
初めて人を殺した。しかもこんなにも大勢。
「うっ…」
そして突如うずくまり込み上げるものを口から吐き出す。堪えきれず涙が零れた。覚悟はしていたが予想以上にきつく、呼吸が乱れる。
それでも遺体の回収を終え皆の待つ部隊へと戻っていった。
「気になることがある。シュンを呼べ」
ライオネスに呼ばれ瞬が本陣へと戻る。そしてライオネスに向かって片膝を付き頭を下げた。まがりなりにも王族なので一つ一つ言葉を選んで対応する。
「お呼びでしょうか殿下」
「敵の部隊の下がった位置周辺に伏兵がいないか調べてきてくれ。あの辺りは森があってな、伏兵がやりやすいんだ」
「かしこまりました」
瞬は命令を受け取ると遠視で確認を行う。ライオネスの言う通り撤退した部隊の先には右脚側に森があり、左側に向かうと鉱山へと続いている。そして森の方では大部隊が隠れていた。その数は撤退した部隊よりも多く、バリスタ等の大型の飛び道具も用意されている。そして鉱山側にも部隊が展開しているが、これも結構な数である。恐らく見えてる2部隊で挟撃と見せかけもう1部隊が背後をつくつもりなのだろう。
瞬はその事をライオネスに伝えると満足そうに頷いた。
「ふん、教科書通りの戦略だな。しかしその魔法は本当に便利だな。どうだ、私に仕える気はないか?」
「今はやることがございまして。その旅が終わった後でよろしければ前向きに検討させていただきます」
「そうか。相応の待遇は約束しよう。御苦労だった。下がっていいぞ」
「はい。では失礼いたします」
瞬としてはこの旅の目的さえ達成できるのであれば、王宮仕えもかまわないと思っている。旅が終わった後のことなど考えてはいなかったが、明達もいるしそれもいいかな、と思ったのだ。
ライオネスは正直断られると思っていただけに、その返答はまぉまぁ満足のいくものだった。戦略級殲滅魔法が使えて便利な魔法を数多く持ち、高い戦闘力を持つ家臣が手に入る。しかも恋人が第1等級冒険者の中でも相当な実力者と名高いエアリア=フォルティスなのだ。上手くいけば彼女も自分の陣営に加わることになるのである。そう思うと笑いが込み上げてくるのだった。
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