決戦の前に
あれから2日経ち、王国からの増援部隊がやって来た。王国騎士白銀騎士団8000名、義勇軍1500名、他領からも領軍5000名が集められ、ハラス軍2500名、傭兵部隊800名と合わせると約20000近い大所帯である。
当然この間にもバルドーラも軍を編成しているだろう。ベルムント側もこの決戦は負けられない戦いなのであった。
「ツヴェイ、待たせたな。開戦までもう間がない。急いで軍議を始めよう」
「こ、これはライオネス殿下! まさかお越しいただけるとは…!」
ツヴェイはまさか第1王子が来るとは思わず恐縮する。ハラスは戦略的に重要な場所である。それはバルドーラにとっても同じであり、戦線に出れば当然危険も伴う。士気は上がるだろうが、いかんせんこれはライオネスにとって初陣なのであった。
「ああ、大きな戦だ。私の初陣にこれ程相応しい戦場はあるまい。なに、勇者殿もいるゆえ大船に乗った気でいてくれ」
ライオネスが優秀なのはツヴェイも知っているが、戦というものはそう単純なものでもない。経験のないライオネスにどこまでやれるのか不安が過ぎったが、口にできるわけがない。
ツヴェイは丁寧な対応で軍議のための会場へ案内するのだった。
軍議は20人ほどが座れる小さな会議室で行われた。
参加者はライオネス王子とゼスト騎士団長、ツヴェイ、ハラス領主ウォーゼン辺境伯、勇者陽神明、拳の聖女天寺水衣、エアリアと瞬、後は部隊長クラスの騎士や幹部と義勇軍リーダーである。
エアリアと瞬がここにいるのは重要な戦力としてツヴェイが紹介するためであった。
ライオネス達が会議室に入ると瞬と目が合った。ライオネスも当然彼を覚えていたが、直ぐに席に着いてまっすぐ前を見ていた。その横をゼスト騎士団長、明、水衣と座り、3人も瞬と目が合い驚きの表情を見せる。
「始める前に皆さんに紹介します。こちら、第1等級冒険者のエアリアとそのパートナーのシュンです。このシュンは戦略級殲滅魔法の使い手といういことでここに招きました」
ツヴェイが早速2人を紹介するとどよめきが起こる。何せ戦略級殲滅魔法は使い手の少ない魔法である。いればそれは間違いなく戦況を左右する戦力であった。
「私はこの少年を知っている。本当に彼にそんな力があるとは思えないのだが…」
ライオネスの疑問も最もで、彼の知る瞬の恩恵は暴れん坊チワワである。スキルも使えるものではなく、無いも同然だったはずであった。
「…第1等級冒険者のエアリアです。シュンは私と共に旅をしてゴブリンの巣食う廃村を丸ごと灰燼にしました。また、ベンジスでも複数のグレーターデーモンを倒しています。彼の実力は私が保証しましょう」
「殿下。彼の強さは本物です。彼の相手になったのはエアリア殿くらい。魔法の矢を無数に生み出したり、魔法の壁で大砲の弾を受け止めたりと我が目を疑いました」
「それは素晴らしい。この戦、勝ったも同然だな」
エアリアとツヴェイの話にライオネスは気を良くし、顔がニヤける。初陣で自軍が勝利し、凱旋する自分を想像したのだろう。
それから会議が進み、部隊の内訳と布陣、作戦を決めていった。明と水衣は戦力というより部隊の士気高揚のために連れてきたらしく、ライオネスとともに後方に位置するという。
瞬とエアリアは当然最前線に送られ、当日まで勇者と聖女の護衛という名目で一緒にいることを許可された。この配慮はライオネスによるもので、瞬が持ちかける前に鶴の一声で決まったのである。
そしてその夜、2人は夜空を見ながら話をしていた。人数が多いため街の外に天幕を貼りそこで過ごしていたのである。
「瞬、どうして参加した? 人を殺すんだぞ!」
「わかってる。良く考えて出した結論だから」
「すまん…!」
明にはわかっていた。瞬はそういう奴だと。自分達が参加することを知ってのことだと気づいていたのだ。そしてそんな悲痛な決意を見せてくれた親友に頭を下げる。
「死ぬなよ…」
「お前もな。そのために戦うんだから」
「いや、俺は高みの見物だし? まぁ俺の分も頑張れ」
そう言って明が冗談を言うと、また以前のように馬鹿話に花を咲かせるのだった。
「エアリアさん、なに話って」
「…呼び出してごめん、水衣。でも言わなきゃいけないことがある」
「なに?」
「…スイイはアキラと寝た?」
どストレートな質問に水衣が顔を真っ赤にして絶句する。2人は清い交際なのであった。
「な、な、な、な、なに言ってるのーーー!?」
「…これは真面目な話。この戦いが終わったら、私はシュンに抱かれようと思う」
「えええええええーーーー!!!!」
エアリアの爆弾発言に驚きを隠せない水衣であった。しかしこれは絶対必要だとエアリアは考えていた。
「…この戦いでシュンはたくさんの人を殺す。その覚悟できたし、私はそれを責めない。そうしないとこの街のたくさんの人が死ぬから。でも、そのためにシュンは心を鬼にしないといけない。人の心を捨てないといけない。だからシュンが元のシュンに戻ってもらうために必要。傷ついた心を癒すために、自分が守ったのだと肌で感じてもらうために」
エアリアは水衣を見つめる。先程の様子とは違ってその話に聴き入り、理解しようとしていた。
「…もしアキラが傷ついていたら、それを癒せるのはスイイだけ。シュンとアキラが再び笑い合えるよう心を尽くしてあげて欲しい」
「でも出来たら困らない…?」
「…避妊魔法なら神殿でしてもらえる。解除も簡単にできるから心配いらない」
避妊魔法は需要が高く、娼館や大抵の女性冒険者が施している。苗床にする魔物がいたり、間違いで出来ることもあるため必要なものなのだ。
「…多分、この戦いはあなた達3人にとって大きな転機になると思う。どうか大事なものだけは見失わないで欲しい」
「うん、そうだね。実感はイマイチわかないけど、心に留めておくよ」
そして2日後には態勢も整い戦争が始まるのであった。
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