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少年の覚悟

「僕はどうしたらいいんだろう…」


高台から街を見下ろし、瞬は途方に暮れる。明後日には恐らく明と水衣が来る。そうなると2人は当然その戦争に参加することとなるのだ。


「平和な世界から来た人間に戦争をしろ、かよ…」


戦争に参加すれば死ぬかもしれないし、人を殺さなければならない。実際、人を殺すというのは簡単なものではない。戦争において最も兵士が嫌がったことは人を殺すことであり、戦争後も人を殺したことでPTSDになることは珍しくもないのである。


それを15歳の青年にやれという。いや、この世界であれば珍しい話ではない。特に貴族であれば敵を殺すことに躊躇いのないよう育てられる場合だってあるのだ。

しかし瞬も明も水衣も、宮松だって日本人だ。その倫理観は人を殺すことを忌避させる。瞬でさえ、盗賊を殺せず石にすることで回避していたのだ。


瞬は考える。明も水衣も宮松だって死なせたくない。宮松も別に好きではないが、死んで欲しいわけではない。この手を血に染めるのを勇気と呼んでいいかは瞬にはわからなかったが、自分には力がある。それこそ単騎で数千を屠ることさえできるだろう。


「明達にだけ押し付けるわけにはいかないよな…」


じっと自分の手を見る。自分にとって守りたいもののために少年は覚悟を決める。


たとえこの手が血に染まろうともかまわない。自分の守りたいものはこの手で守るのだ、と。




「…どうするか決めた?」


とっていた宿に戻るとエアリアがいた。胸鎧を着込み既に出かける準備はできているようだ。瞬が出す答えはわかっていたのだろう。


「決めたよ。傭兵に参加する。明達を死なせたくない」

「…うん、わかった。なら行こう」


エアリアは立ち上がると2人でツヴェイのところへと向かった。



「そうか、参加してくれるか。ありがたい!」


2人の返事を聞き、ツヴェイは満足そうに笑みを浮かべてうんうん頷く。


「…その代わり来るであろう勇者と聖女の護衛を任せて欲しい。その2人は多分知ってる人だから」

「ん? そうなのか。とはいえ、わし一人で決められるものでもないからな。だができる限り尽力しよう。恐らく最前線に放り込まれることになるぞ?」

「任せてもらえるならかまいません」

「わかった。総指揮は王都のゼスト騎士団長がとる事になっている。彼に進言しておこう」


ゼストは瞬を路地裏まで運んだあの騎士のことである。瞬も一応その人のことは覚えていた。もし自分のことを覚えていれば護衛に付けるかもしれないが、瞬の強さも露見してしまうのは避けられない。それでも明達を死なせることに比べれば些細なことなのだ。


「ありがとうございます」

「ところでそちらの少年は確か第4等級魔道士だったね。魔道士としては半人前だが…」

「…シュンなら第1等級をとれる。この後取ってきたらいい」


第1等級魔道士ともなるとこの世にまだ3人しかいない。そのクラスの条件は広範囲殲滅魔法や収束広域魔法を実戦レベルで使用可能なことである。ただし、とれば国の保有戦力として徴発される可能性が高く、下手をすると消されてもおかしくないだろう。怒らせると国ごと滅ぼされかねないため手出しが出来ない者が一人いるが、それは例外である。


「めんどくさいことにならない?」

「…覚悟を決めたなら変に実力を隠すのは良くない。第1等級だと国の保護対象だけど、そこは報奨と交渉で旅の許可を貰って欲しい」

「…使えるのかね? 戦略級殲滅魔法が」

「…この間ゴブリンが巣食ってた廃村を丸ごと灰にした」

「それは凄い! その話、嘘はないだろうね?」


資格の詐称に準ずる行為であり、ここでの嘘は冒険者の強がりでは済まない。軍に参加しての詐称は重罪なのだ。


「…嘘じゃない。資格をとれば済む話」

「待て待て。それが本当なら戦略級殲滅魔法を使うことになるんだろ? そんなもん使ったら、そういう戦力があることがばれるだろ。それは拙い」


ツヴェイの言う通りむざむざ切り札を知られるリスクは犯すべきではない。その話に納得し、資格をとるのはやめにした。


「…訓練所を見せて欲しい」

「ああ、かまわんよ」


ツヴェイに案内され、2人は訓練所へと赴く。

そこでは人型の模型に対し木剣を振り下ろす者や掛かり稽古をする者など、皆訓練に精を出していた。


「ここが訓練所だ」


案内され、エアリアは人型の模型を指さす。


「…シュンにはあの訓練が必要」

「え? あんなの一撃で破壊できるけど」


その模型は人型の木の人形に鎧をつけたもので、顔の作りも人に近かった。


「…シュン、どうして人型の模型で訓練すると思う?」

「対人を想定しているから?」

「…50点。正解は人を斬ることに躊躇いを無くすため。シュンは人を殺めたことがない。それはとてもいいこと。でも、戦争ではそうはいかない」


事実、この手法は実際に行われていたものである。

瞬は何も答えぬまま模型の前に立つ。そして構えをとり、フットワークを使い始めた。

そして電光石火。

新しく新調した神鉄鉱オリハルコン製のグローブの破壊力に聖光気セイクリッドオーラを上乗せして模型を殴る。

その鋭い一撃は鎧を穿ち、模型をへし折った。


「…覚悟を決めたからここに立ってる。心配いらないよ」

「す、凄い…!」


瞬はへし折った模型を見下ろし、静かに告げるのだった。


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