強制《ギアス》
長い夜が終わり、街は復興に向けて動いていた。ベンジスの被害は相当なもので、教会の求心力低下を恐れた教会と領主はその原因を魔族の襲撃とだけ公表。それを率いた悪魔は聖堂騎士団団長エライネによって倒されたとした。
瞬とエアリアはそのエライネ、ローハル大司教と領主であるボルフォード=フラーレン=ベンジス子爵と領主邸の応接室で会談をしていた。
「さて、君たち2人に来てもらったのは他でもない。公式の発表は聞いたと思う。本来なら撃退したのは君たち2人がいたからこそなし得たことだ。名声を横取りする真似をしたのは本当にすまないと思っている」
領主は2人を前に淡々と説明を始める。はっきり言ってやっていることはゲスいこと極まりない。しかし聖堂騎士団が役に立たず他の冒険者によって悪魔たちを撃退した、となると求心力の低下は免れなかった。
「…私は別に構わない」
「僕もです。有名になりたいわけじゃないし」
瞬としてはエアリアとさえ一緒にいられるなら後は別にどうでもよかった。むしろ名前が売れると返って名声が邪魔になることだって有りうるのだ。
「そうか、すまんな。その分礼金は期待してくれ」
「…それより問題はエライネの力不足。民衆に期待された力もないのに持ち上げられると不幸しかない」
「うっ、それは耳が痛い…。せめてもっと強い剣があればグレーターデーモンにも遅れはとらないのだが…」
実際支給されたミスリルの武器ですら一撃で腕の1本とはいかない。魔力を通していない武器だとグレーターデーモンの障壁を突破するのが困難だからである。そのためヴァサーの浄滅魔法による撃退が殆どであった。
そしてエアリアは思案する。エライネを強くする方法はある。いずれも瞬頼みなのだが、1つは瞬から加護を得る方法だ。話によると加護を受けたエルザ達はグレーターデーモンを軽々と屠っていたという。
もう1つはもしかしたらぐらいの話だが、瞬なら強い魔力剣を作れるのではないか、というものだ。何せエアリアの付けているミスリルリングは無限収納付与という有り得ない付与がされているのだ。それならとんでもない武具を作れそうである。
「…少しシュンと相談させて欲しい」
「なにかあるのかい、エアリア。その少年は、シュンという少年は何者なのだい? 彼の治癒魔法は普通じゃない。それに聖光気を持っているね?」
ローハル大司教に聞かれ、返答に困る。知られれば教会は瞬を利用しようとするだろう。しかしローハル大司教には嘘をつきたくなかった。そんなエアリアの様子を察し、瞬が口を開く。
「答えてもいいですけど、条件があります。僕のことを口外出来ないように契約魔法を使わせてもらいます」
「契約魔法…?」
「そうです。如何なる手段を用いても他人に伝えることはできなくなりますね。解呪した場合は死にますけど」
今はまだその魔法を作ってはいない。しかし作れるだろうとは思っていた。そしてその話に領主が怒る。
「ふざけるな! そんなもの呑めるわけがない! できるなら協力せんか!」
ボルフォードは瞬を指差して怒鳴りつける。所詮貴族なんてこんなもんなんだろうな、とため息をつく。
「では記憶を消させて貰います」
「待ちたまえ、条件を呑もうじゃないか。ボルフォード、我々は頼む側だ。断っても何もいいことはない」
ローハル大司教が領主を制し、怒りを抑える。
「私も条件を呑もう。恩を仇で返すことはしない。約束しよう」
「わかった、条件を呑もう…」
エライネは快く応じてくれた。ボルフォードもまだ不満げだが呑む気になったようである。瞬はその返答に満足し、新たな魔法を作る。
強制。特定の言動を強制または不可能にさせる契約魔法である。相手が受け入れれば成功は確実だが、拒否している場合は完成に相応の時間を要するか失敗する。
つまり同意無しでも契約の強制をできてしまう場合がある恐ろしい魔法でもあった。ちなみに解呪で死ぬことはない。
「では契約魔法を使わせて貰います。強制。禁則事項は僕の能力を他人に伝えないこと。それに関し、如何なる手段も禁じます」
瞬の指が妖しく黒く光る。そしてボルフォードの、ローハル大司教の、エライネの額に指を当てると黒い光がその身を包み、中へと取り込まれていった。
「はい、終わりました。契約は成立です」
「そうか。なら話してもらおうか」
ボルフォードはまだ不機嫌なままであった。この辺は貴族なら仕方がないだろう。構わず瞬は話に入った。
「僕は神代創魔師です。系譜はヴェルム=カッソ。そしてスキルに恩寵の祝福と神器創造がありまして。恩寵の祝福を使えばエライネさんに加護を与え、聖光気を使えるようにできます」
「なに! そんなものがあるなら騎士団員全員に加護を与えたまえ」
想像通りの無茶を言われ、やはりかとげんなりする。
「僕にもデメリットがあるんです。無茶を言わないでください。後は強い魔力剣を作れるかもしれない、てとこですかね。作ったことは無いので試さないと何とも言えないところはありますが。実際に剣を打つのではなくスキルによる作製なので材料さえあれば作れると思います」
「ふむ、ではミスリルを提供しよう。それで試してくれ。工房が必要なら用意させよう」
先ほどとは打って変わった態度である。こういうのは大抵無茶振りの前触れだったりするのだが、これもその類だった。
「それで私に仕える気はないかね?」
「お断りします」
即答。ジロリと瞬が睨むとボルフォードは少し怯んだ。
「ああ、そうだ。希硬鉱石が少しあったな。それも使ってくれ」
「報酬として素材の一部をいただきますね。そのくらいはいいでしょう?」
「わかった、そのくらいは呑もう」
正直報酬は期待できなかったが、聖堂騎士団では魔人ジルバも捕らえられている。もしジルバが暴れ出せば多数の犠牲を出す。それを防ぐためには対抗できる戦力が必要であった。ここまでサービスするのもそのためである。
「こちらからももう1つ頼みたいことがある」
「なんでしょう?」
ボルフォードが真顔になる。何か大切なことのようだと思い聞いてみると、とんでもなかった。
「滞在中何人かと子作りをしていけ。祝福持ちは高い資質の子が生まれるからな。全員養子にする」
その内容に瞬愕然。そしてエアリアが領主を睨む。
「ずぇったい嫌です!」
「ヘタレか!」
断られると思ってなかったボルフォードは仰天していた。
おもしろいな、続きが気になる、と感じていただけたら、広告下の評価やいいね、ブックマークをいただけると嬉しいです(๑•̀ㅁ•́ฅ✨
また、もっとこうして欲しいなどの要望や感想などのコメントをいただけると励みになります꒰ঌ(๑≧ᗜ≦)໒꒱⋆⸜♡⸝⋆




