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貴婦人

「…夕食前に温泉に入って来る」


そう言ってエアリアは着替えとタオルを用意していた。


「シャンプーとボディソープ作ってみたんだ。試しに使ってみて」


瞬は木でできた容器を2つ渡す。外側は木だが、実は中側はプラスチックである。さすがにこの世界にはプラスチックは存在しておらず、作る方法はない。神器創造で作り上げた品である。


そしてその中身も神器創造で作り上げたもので、この世界のシャンプーや石鹸とは品質が桁違いであった。というよりは石鹸はともかく、シャンプーは存在しない。そもそも昔は髪を洗う習慣があまりなかった。地球人の召喚により髪を洗う習慣もでき始めていたが、シャンプーと呼べるものは未だ存在していないのである。


「…シャンプーってなに?」

「シャンプーてのは髪を洗う液体石鹸みたいなもんだよ。これはトリートメントも要らない」

「…トリートメント? いつもは薄めた石鹸水で洗って薄めたお酢をかけてた。お酢は要らないってこと?」

「そういうこと。でもなるほど、アルカリ性と酸性か」


エアリアの話を聞き、瞬は納得した。代替方法があるならあまり研究されなかったのだろうと。


「…ありがとう。とても嬉しい」


エアリアはシャンプーとボディソープを受け取ると、ルンルン気分で温泉へと行くのであった。






エアリアは早速洗い場でタオルにボディソープをかけ、身体を洗い始めた。今まで使っていた石鹸とは比べ物にならないほどの泡立ち。そしてフローラルな香りに感動すら覚えるのだった。優しく撫でるように洗っていくと、汚れが取れていくのがわかるようでつい鼻歌を口ずさんでしまう。


次は髪。早速手に付け、延ばして髪を洗う。またも石鹸水とは比べ物にならない泡立ちとフローラルな香りに気分が明るくなった。お湯で流すと自慢の髪がより一層の輝きを帯びているのが自分でもわかるほどである。


「…これ凄い」


使い終わったシャンプーとボディソープをしまう。と同時に声をかけられた。


「ねぇ、あなた」


話しかけてきたのは美しい貴婦人であった。とても平民には見えない。


「…なにか」

「使っていた液体石鹸、私にも使わせていただけないかしら」


エアリアはすっかり注目の的になっていた。この宿は富裕層が多く、当然貴族の子女も多い。美に対する欲求は桁違いであり、洗う前と後の違いを見ていた人も多かったのだ。


「…だめ。この様子だと1人に認めるとみんなに必要になる」

「もちろんタダとは言わないわ。その2つ、金貨1枚でどう?」


エアリアは考える。ボディソープとシャンプーは瞬が作ってくれたものである。無論頼めばまた作ってはくれるだろう。しかしこれを売るのはやはり違うと思った。他ならぬ瞬が自分の為に作ってくれた物なのだから。


「…それは無理」


エアリアは提案を断ると温泉に浸かる。すると貴婦人も付いてきた。


「あなた、とても綺麗ね。その液体石鹸のおかげかしら? どこで手に入れたのか教えてくれるだけでもいいのよ?」

「…これは売ってない」

「そうなのね。では誰が作ったのかしら?」


貴婦人はなおも食い下がる。そして諦める気はない。なぜならそこに美の探究があるからである。

そしてエアリアは失敗に気づく。売ってないなら作ったに決まっているのだ。そして売ってない、ということは他の人には手に入らない。つまり圧倒的な差が生まれるのである。


「…教えられない。じゃあお先」


仕方なく温泉を出ることにした。素早く着替え、脱衣場を出ると、しっかり貴婦人が笑顔で後ろに立っている。

少し早足で歩くも当然付いて来た。狭い廊下を走るわけにもいかないし、外に出て撒こうとして貴婦人が置いてけぼりになるのも拙い。部屋まで付いてこられても困る。

仕方なくスタッフに頼ることにし、受け付けへ行く。普通に付いてきたのでスタッフに助けを求めた。


「…すいません。この方がずっと付いてきて困ってます」

「あ、は…いぃっ!?」


スタッフはその貴婦人を見て驚く。

もしかして上位貴族なのでは、と嫌な予感がして来た。それを示すように、貴婦人は口に人差し指をあてている。


「あ、あのこちらの方がなにか…」


スタッフは真っ青な顔で貴婦人に尋ねる。これは拙いなとエアリアは感じ始めていた。


「…なんでもない」


これは無理だな、と感じ諦める。そして端に寄った。


「…わかった。譲る。お金もいらない。その代わり全て忘れて見逃して」


これが最大限の譲歩であった。エアリアにとっての最悪は作ったのが瞬であるとバレることである。これを呑んでくれるならいいかとさえ思えた。


「ふふっ、それじゃ私が悪いことしているみたいだわ。借りにしておいてあげるわね」


白々しい態度に腹が立ったが、機嫌を損ねるわけにはいかない。シャンプーとボディソープを取り出して貴婦人に渡す。


「ふふっ、嬉しいわー。これが無くなったら指名依頼出そうかしらね、エ ア リ アさん」


してやったりと貴婦人は2つのお宝を受け取り立ち去るのだった。


「…してやられた」


どうせ逃げられはしなかっただろうが敗北感が凄かった。



気落ちして部屋に戻り、事情を話して頭を下げる。


「災難だったね。また作るから大丈夫だよ」


と全く気にしてなかったが、エアリアはそれでも気が晴れなかった。

夕食時も気落ちしたままで、瞬はその貴婦人ぜってぇ許さんと誓うのであった。



寝る頃になると、


「…悲しいからシュンを抱き枕にする」


と言われ、2人は同じベッドで寝た。エッ、なことはなかったが、瞬的には十分嬉しいことである。

風呂上がりなのも相まっていい匂いがして夢心地であった。

ちょっとその貴婦人を許そうかな、と思ってしまうほどに。

そして瞬は知る。この世界にブラジャーがあることを。着ているシャツ越しの感触でわかったのである。


そして2人が寝ていた頃、街中に警報の鐘がガンガン鳴り響き、異常事態を知らせていた。

2人は飛び起きると急いで着替え、外へ出る。


「…教会が燃えている…!」


ヴァサー教会だけにとどまらず、街のあちこちで火の手が上がっていた。


これが後にベンジス事変と呼ばれる、教会襲撃事件の始まりであった。

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