マウテアという男3〜愚か者の企み〜
「クソクソクソクソクソクソクソクソクソーー!!!」
マウテアは怒りが治まらず人の見てない路地裏で地団駄を踏んでいた。自分の為に帰ってきたと思い込んでいたのに、いざ会いに行けば袖にされ、あまつさえ他の男とデキていたのだ。それは悔しいだろう。
しかし帰ってきた、と言ってもベンジスはエアリアの故郷ではない。自分のいる所が彼女の帰るべきところだと思い込んでいたからこその思い込みなのである。
「こうなったら奴に決闘を申し込み、彼女の目を覚ますしかない! 先ずはギルドでどんな奴なのか情報収集だ」
思い立つが早いか足早に冒険者ギルドへと向かう。そして受け付けで情報を求めることにした。
「聖堂騎士団のマウテアだ。エアリアと組んでる男の情報が欲しい」
「エアリアさんと組んでる…。ああ、分かりました。少々お待ちください」
受け付けで用件を述べると、冒険者の名簿から瞬の開示情報を取り出す。
開示情報といっても能力や恩恵の記載はない。なぜなら手の内を知られることを冒険者は嫌うからである。しかしそれではその人がどの程度の者なのかの判別が難しい。そのためにあるのがライセンス制度であった。
「ふむ、冒険者第4等級。ライセンスは魔道士第4等級か」
魔道士第4等級で冒険者第4等級は通常有り得ない。一般に魔道士第4等級は魔法を使ってある程度戦えるが半人前という評価なのだ。しかし冒険者第4等級は冒険者としては1人前である。
「15歳でランクアップも最近、登録も最近だと!? 何か特別な能力を持ってるな…」
マウテアはそのギャップとランクアップの早さにそれなりの実力があると見てとった。
「誰かシュンという冒険者の情報は持ってないか! なんでもいい。内容次第では報酬を払う!」
マウテアは周囲に情報を求めた。通常こんなふうに求めても教える者はいない。しかしそこにたまたま居合わせた1人の冒険者が名乗り出た。
「その少年なら知ってるねぇ。どうしてシュンの情報が欲しいんだい? 教えるかどうかは内容次第だ」
その話に興味を持ったのはエルザだった。その女性らしからぬ巨体でマウテアの顔を覗き込む。
「ふっ、実はだな。私の愛しき人がそのシュンという男に騙されていてな。決闘でその男を降し、彼女の目を覚まさせてあげたいのだよ」
しかしエルザに動じることなくその妄想を伝える。エルザは呆気に取られていたが、面白いことを思いついてしまった。
せっかくだしとことん煽ってやろう。その決闘もいい暇つぶしになりそうだ、と考えたのであった。
「その彼女ってのは極滅、エアリアのことだろう?」
「そうとも」
一応確認を取るとまさにその通りでほくそ笑む。
「なら良くしってるねぇ。何せ一緒に護衛依頼でここまで来たんだからねぇ。報酬は期待していいんだろ?」
「もちろんだとも。小金貨1枚出そうじゃないか」
━━同じ冒険者の情報を売るってのに安く見られたもんさねぇ。ま、痛い目見るがいいさ。
「いいだろう。話してやるよ。そのシュンて奴はな山賊が出てきたのに1人も殺さなかったのさ。おまけにヘタレでねぇ。(キスされたくらいで)パニックになって気を失ってねぇ。(夜いい感じで2人でいたのに)何もしなかった腰抜けさぁね」
と、エルザは瞬の能力を隠して戦闘以外の話を始める。無論、肝心な部分は意図して隠しているためマウテアは誤解していくのだが。
「なんだ大したことないのか」
「さぁ、それは私の口からは言えないねぇ。ランクが早く上がったのも極滅が教導についてゴブリン退治を完遂させたからだと聞いてるよ。ゴブリンキング等の上位種もいたが、それは極滅が退治したんだってねぇ」
一応嘘は言っていない。ゴブリンキングを倒したのはエアリアだが、ゴブリンジョーカーを倒したのは瞬である。
「ふむ、有益な情報感謝する。ならば決闘だな」
聞いた内容に満足するとマウテアは小金貨を指で弾きエルザに投げ渡した。
「決闘するなら立ち会いが必要だろ? 私は教導資格があるからねぇ。公正に私が立ち会おうじゃないか」
こんな面白いもの見ない訳にはいかなかった。でなければ煽った甲斐がない。そして立ち会いを自分がやることでマウテアの贔屓も防げる。恐らくそれすら必要ないというのがエルザの見立てであったが念の為であった。
「なるほど、公正さは大事だな。まぁ、結果は火を見るより明らかだ。誰がやっても同じだが君に頼もう」
「確かに火を見るより明らかだねぇ。いつやるんだい?」
戦乙女はここベンジスでも良く活動をしているため、マウテアのことは知っていた。その評価は戦闘に関してはそこそこ有能だがエストにはギリギリ届かない程度。彼が最も有能なのは書類仕事なのである。
「今からすぐだ!」
高笑いをあげながらのっしのっしとギルドを後にするのだった。
いい退屈しのぎが出来たとエルザがほくそ笑むのも気づかずに…。
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