護衛依頼5〜唇を奪え!〜
夕食も終え夜も深まった頃、瞬とエアリアは夜の番をしていた。護衛依頼で複数人が夜の番をする場合は最低2人一組で行うのが決まりである。
2人は身を寄せ合い、焚き火の前で過ごしていた。
「…シュン、ニャムの誘い断ったって聞いた」
「ニャムの奴話したのか…」
瞬は頭を抱える。単に気恥しいだけであるが。
「…うん。大事にしろって言われた。それと…」
「ストップ。続きは言わなくていいよ」
なんとなく言いそうなことが予想ついてしまう。恐らくは男女のそういう話であるのは想像に難くなかった。
「僕は無理してないし、エアリア以外の女性には興味無いから。正直自分でも驚いてるけど」
エアリアの目を見て努めて優しく語りかける。
「…うん、嬉しい」
にこっと微笑む。
「僕はさ、ここに来る前は全然モテなくてもね。今まで沢山の子に告白してはふられてたよ。それで言われたんだ。君は本当の恋をしていないって」
瞬は俯いて元の世界にいた頃の話を始めた。
「それでこの世界に来て、エアリアに会った。一目惚れだったんだよ。今まで感じたことないくらい胸が高鳴って、どうしようもないくらい目を奪われて」
普通ならこんなことを話はしないだろう。それでも瞬が話したのは偏にエアリアのためである。
何か負い目を持っている、そう感じたのだ。駆け引き等せず真剣に向かい合いたい。心のベクトルを全て自分が護りたい相手に向けたかったからに他ならない。
「…照れる」
真正面から言われ、赤面して俯く。
「…私は、受け入れてもらったのが嬉しかったから。自分のためにはどうしても必要なことで、どうやったら助けて貰えるだろう、利用できるだろうってそんな事ばかり考えてた」
瞬の気持ちが純粋なものなのに自分は、とちょっと自己嫌悪に陥ってしまう。それこそ、力ずくとか色仕掛けとか色々考えていたのである。
「その事情なら仕方ないと思うよ? 対価はもらってるから気にすんな」
と、元気づけるように親指を立てはにかんだ。
そんな様子をこっそり見てる影が2つあった。
「うーん、ここからだと良く聞こえないわね…」
「どうも極滅には悩みがあるみたいニャ。シュンはそれを解決できるらしいことはわかったニャ」
エストとニャムであった。恋バナに興味津々の2人はこっそり馬車から2人の様子を見守っていたのである。
そしてニャムの耳は常人のそれを遥かに上回る。エストには聞き取れなくてもニャムには十分聞こえていた。
「シュンはやっぱりヘタレニャ。早く押し倒すニャ」
「いや、ここで始められても…。見たいけどさ」
「…ありがとう。私は少しでもシュンの気持ちに応えたい」
そして胸鎧を外す。下に着ていた服はぱつんぱつんではちきれそうであった。その豊かな果実に眼を奪われていると、エアリアは瞬を抱き寄せその胸に閉じ込める。
「ふおおおあおっっっ!?」
驚きつつもその優しい感触に囚われ、溶けてしまいそうだった。逃れる気もないが、ガッチリ締められ逃れることもできずただその感触に浸る。
「…シュン、そのまま聞いて欲しい。私前より強くなってた。いつの間にか加護が2つもついてたの」
「ふふぁふ(ふたつ)?」
瞬が喋るとピクン、とエアリアの腕が跳ねる。
「…1つは信愛の誓い。効果は精神汚染、支配の無効化と魔力供与、呪詛抵抗。瞬と会ってから悪夢を見なくなったから、これは多分瞬が私を護ると誓ってくれたからだと思う」
もう嫌な夢を見ないで済んでいるなら瞬にとっても喜ばしい限りだった。
「…もう1つが神代の洗礼。効果は資質の向上、聖光気の習得と魔法耐性の向上。これはもしかしたら瞬とのキスが原因かもしれないの」
それを聞き、これはスキル恩寵の祝福の効果なんだろーなーと呑気に構えていた。
「…細かい条件はわからないけど、もしそれだけで加護が手に入るならシュンの元に女の子が殺到してしまう…」
今は自分しかいないが、この先のことはわからない。もしかしたら他の誰かに惹かれ、離れていってしまうかもしれない。そんな不安もあったのだ。
「いいことを聞いたニャ…!」
「え、なになに?」
「シュンとキスするだけで加護が手に入るらしいニャ。つまりシュンはかなり強力な祝福スキルを持ってるってことニャ」
その情報をニャムは目を輝かせて話す。
「ウソ! どんな効果なの?」
「資質の向上と聖光気の習得と魔法耐性の向上ニャ。こんな強力な祝福聞いたことないニャ!」
2人の目の色が変わり、これは是非、と顔を見合わせるのだった。
そして見張りの交代時間になった。
エアリアが戦乙女たちに声をかけて起こす。
「ふぅ、もうそんな時間かい。じゃあ交代だ」
エルザはそう言うと大きな欠伸をする。
「じゃあ極滅はゆっくり休むといいニャ」
「…何かあったら起こして」
「あら、何かあっても出番はないわ。寝てていいわよ」
妙にウキウキしている2人に違和感を抱きつつもエアリアは毛布に包まり馬車の中で休む。馬車は2台あるため、男性と女性で寝る所を分けていた。そのためエアリアは1人で寝ることになる。
3人が見張りを開始し、小一時間してのことだった。
「ではシュンの唇を奪いに行くニャ」
「おいおい、何考えてんだい。あいつは極滅に操を立ててんだろ? やめときな」
ニャムが悪巧みを口にするもエルザが止める。
「いやー、それがねエルザ。実はさ…」
エストがニャムから聞いた情報を話すとエルザがにぃ、と口を歪めた。
「なるほどねぇ。でも極滅が怒らないか心配だねぇ」
しかしながら歳下だがエアリアを尊敬しているエルザにしてみれば少し気が引ける話ではあった。
「バレなきゃいいニャ!」
「あんたは興奮して襲わないようにね」
エストとしてはそれが心配だった。
「まぁ、確証がないなら先ずはニャムが試すんだね」
「もちろんニャよ。じっくり味わうニャ!」
「味わうな!」
ヨダレを垂らすニャムの頭をエストが叩いた。
「よく寝てるニャ…」
ニャム達3人が瞬の寝ている馬車に近づく。すぐ動けるよう馬車の荷台入り口辺りで寝ている瞬。幸せそうな寝顔である。
仰向けで寝ており、おあつらえ向きの格好であった。
「いただきますニャ〜」
軽く唇を合わせ、すぐ離す。瞬は寝たままである。
「うーん、変化無しニャ。舌を入れてみるニャ」
「え!」
変化がなかったので更に踏み込むつもりだった。その発言にエストが声を出しそうになる。
「目が覚めたら任せな」
エルザが瞬の傍に行きスタンバイ。明らかに状況を楽しんでいる。
「ではガチでいくニャ」
むちゅちゅちゅちゅちゅぱあっ!
ニャムが唇を奪い、舌を吸う。完全に発情していた。
「…!?」
さすがに瞬が驚いて目を覚ます。目の前にはニャムの顔。
そして唇を吸われている。一体何が起こっているのか理解が追いつかず、パニックになっていた。
「キタニャ!」
ニャムが唇を離す。そしてなんと身体から金色のオーラが溢れ出した。
「なるほど、ズバリ唾液ね!」
その効果にエストが目を輝かせる。
「ちょ、な、何を…!」
瞬が身体を起こすと、抗議の声をあげる前にエルザが後ろからガッチリと身体をロック。その力は凄まじく、瞬の素のパワーではビクともしない。
「いただきぃ!」
そこを更にエストが覆い被さり、ディープキスをかました。
「〜〜〜〜〜!?」
抵抗虚しく唇を奪われ、ますますパニックになる。
「きゅう」
そして頭がオーバーヒートして気を失う。意外とヘタレな瞬であった。
「キタわー!」
エストにも金色のオーラが浮き出て歓喜の声をあげる。なお、護衛対象の2人はこんな状況でも起きなかった。
とそこへ、
「…なにしてるの?」
エアリアが起きて来た。固まる面々。
「あ、やば…」
戦乙女たちはこぞって冷や汗が吹き出てきた。そしてニャムとエストに金色のオーラ。拘束されている瞬。
「…ちょっとこっちへ」
むんず、とエルザのヨロイとニャムの服の襟を掴むと荷台から引きずり下ろし、見張りをしていた所まで引きずられる。
「…エストも」
逆らってはいけないと感じたエストはカチコチになりながらエアリアの元へ行く。
「いや、違うんだ極滅これは…!」
「ちょろーっと加護が欲しかっただけニャ」
エルザが慌てて言い訳を始め、ニャムが内情をばらす。
「…瞬の唇奪った? なんで知ってるの?」
とそこでああ、あのときかと思い至る。
「ニャハハハハ…」
と愛想笑いで誤魔化す。
「…ニャムの耳を甘くみてた。失敗ね」
喋ってしまった自分のうかつさを恥じ、ため息をつく。
「うーん」
そうこうしているうちに瞬が目を覚ます。エアリアが既に取り返しており、彼女の腕の中である。
「…目、覚めた? 大丈夫?」
「あ…、エ、エアリア、ち、違うんだこれは…!」
声をかけるとキスされたことを思い出し、慌てて誤解を解こうとした。
「…大丈夫。わかってるから」
「「「ごめんなさい…」」」
エアリアが優しく応えると、戦乙女の面々は土下座で謝罪した。頭に大きなたんこぶを作ったまま…。
「…やったものはしょうがない。せっかくだし検証しようと思うの。ニャムの話ではシュンの唾液が加護に関係してるらしいんだけど…」
そう。唇を重ねただけではなんの効果もなし。しかし唾液を絡めると加護が付いたという。そこで瞬はピンと来た。
「もしかして血かな? 唾液って微妙に血液混じってるんだよね。単純に体液かもしんないけど」
「…試していい?」
「いいけど、どうするの?」
「…エルザがまだ加護を持ってない。エルザが血を舐めてみればそれでハッキリする」
「わかった。直にはなんだからこれで」
と瞬は木のコップにを取り出し、水で満たす。それを地面に置くと、マインゴーシュで指先を少し傷つけて血を1滴垂らした。そしてエルザがそれを受け取ると、一気に飲み干した。
「美味い水だねぇ、おおっ!?」
エルザは力が湧いてくるのを感じていた。そして発動してしまった。聖光気が。
「発動してる!」
エストが驚く。
「…本気で拙いことが判明してしまったわ…」
エアリアの顔色が青ざめていく。
たった1滴の血で加護が得られる。こんなことを知られたら一体どうなるか。想像するだけで恐ろしかった。
「この加護、取り消せないみたい…」
加護の取り消しを試みたのだが、聖光気が消えなかったのだ。その一言に更に頭痛の種が増える。
「おおー、じゃあこの力はずっと残るニャね」
ニャムは嬉しそうだ。
「よし、極滅。このことは決して口外しないと約束する。代わりといっちゃなんだが今回のことは大目に見てくれ」
エルザとしてはエアリアの恨みなど買いたくもない。
「…わかった。その代わり私たちが必要なときに力を貸して。シュンもそれでいい?」
「うんまぁ、それでいいよ」
キスのことを責められなくて良かった、と安堵する瞬であった。単にそれどころでは無いだけの話だが。
「でもキスでこれならエッチしたらどうなるのかニャ? シュン筆おろししてやるニャよ?」
その一言に固まる瞬。
「…それはダメ」
目が笑ってなかった。極滅気が滲み出ており、殺意すら溢れている。
「じょ、冗談ニャ…」
その迫力に命の危険を感じるニャムであった。
「あの〜」
おずおずとエストが手を挙げる。
「どうかしたかニャ?」
「どうも加護として定着してないのか、スキルに聖光気も加護ないんだけど…」
バフであれば取り消せないのも道理である。
「…つまりスキルではなくバフってこと?」
「確かにないねぇ。少し待ってみようか」
10分後。
「聖光気が出なくなったねぇ」
先に無くなったのはエストで次にニャム。最後はエルザの順にバフが消えていった。
「うーーー、残念ニャーー」
とほほーと落ち込むニャム。
「てことは貸し無しでいいよね?」
「口止め料欲しいくらいだけどねぇ。高ランク冒険者のすることじゃないし弱ったねぇ」
チラチラっと3人がエアリアを見る。それはもう物欲しそうに。
「絶対口外しないという約束の代わりに加護あげてもいいよ。それと貸し1つってことで。いいよね、エアリア」
瞬にしてみれば3人くらいならデメリットの影響はほとんどない。試験的な意味もあり、加護の付与を提案する。
「…構わない。戦乙女に貸し1つなら悪くない」
「ほんとかい! 恩に着るよ!」
「話せるニャ〜」
「いやー、悪いわねぇ」
エアリアが承諾すると3人は口々に喜びの声をあげた。
「先に言っておくけど、喋ったら加護剥奪するから」
ないだろうとは思うが釘を刺すのを忘れない。剥奪もできると知り、3人はコクコク頷く。
こうして3人は瞬の加護、神代の洗礼を受け取るのだった。
この決断が後に大きな役割を果たすこととなる。
こうして騒がしい夜が過ぎ、朝が来るのだった。
先に断言します。
ハーレムにはなりませんw
それやるとテーマから外れるので๛ก(ー̀ωー́ก)
次回更新は29日です(* 'ᵕ' )☆
次から新章に入ります(๑•̀ㅁ•́ฅ✨
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