護衛依頼1〜再会〜
ゴブリン討伐から帰った後、疲れを残さないため2日程は仕事を入れず休んでいた。
その2日目の夜、瞬はジョーカーの残した魔石を前に思案に耽っていた。売れば実に金貨500枚にはなると言われ是非譲って欲しいとギルマスに頼まれたが断ったのだ。ちなみに絶死の鎌は金貨350枚で売れた。ユニーク武器で大変希少で強力だったからだ。
エアリアもお金には困ってないから好きにしていいと言われていた。売るか使うかの2択である。
瞬はそこで新たなスキルを獲得することにした。
神器創造。それは材料と魔石があれば魔力を使い、高度な魔法道具やそれこそ神器と呼ぶに相応しいものを作ることが可能となる能力。これもまた随分頭のおかしいスキルで、作る際の様々な工程をすっ飛ばし、多少の材料不足でさえも余分な魔力の消費でカバーできるのだ。
そして露店で買ったミスリル銀のシルバーリング。虹鉱石という希少な宝石があしらわれ、お洒落なデザインがとても気に入った。これに付与をしてエアリアにプレゼントしようと思ったのである。
付与するのはスキル無限収納である。このスキル自体が相当なぶっ壊れ性能であるため、ジョーカーの魔石でも足りずかなりの魔力を持っていかれたが満足のいく出来だった。
祝福の恩寵の効果で常時回復、バイオリズム向上のおまけ付きであるが、作った当人は気づいていない。
試しにその辺にある椅子を収納。成功した。容量の確認は難しいが大丈夫だろうと考える。
念の為保険として使用できる人間の制限も設けておいた。
翌朝、エアリアが瞬の部屋に入って来た。
「…おはよう、瞬」
「おはようエアリア」
エアリアはいつもの胸鎧に肩当て、ウェストガードにウェストポーチを装着していた。
「あのさ、渡したい物があるんだ。手を出して」
エアリアを中に招き入れると、早速プレゼントの指輪を嵌めようとした。
ちょっとサイズが大きかった。
一瞬どうしよう、とか思ってしまったが、すぐに神器創造で直すことを思いつく。それで左手の薬指にピッタリはまった。
「…綺麗。とても嬉しい」
はめてもらった指輪を眺め、頬を染めて微笑む。
なお、この世界に婚約指輪という習慣はない。瞬は当然そんなことは知らないが、喜んでくれたことが嬉しくて仕方がなかった。
「僕の無限収納の効果を付与してあるから、これでエアリアも荷物軽くなるよね」
へへっと笑って彼女を見つめる。
「…スキルを付与したの? しかも無限収納…」
瞬のやったことは実は相当規格外である。実はスキルの付与など不可能と考えられており、そして収納魔法というものは付与が不可能な代物なのである。なぜかというと、窃盗においてこれ程有用なものはないからであった。そのため、この魔法を司る知恵の神イテリーズが許していないのである。ちなみに店舗によっては魔法を使用すると警報が鳴る防犯装置も置いてあるのだ。
「ジョーカーの魔石使った。初めて自分で倒した強敵の魔石をエアリアのために使いたかったから」
それを聞き、エアリアは思わず瞬を抱きしめる。惜しむらくは胸鎧のせいで豊満な胸の感触を味わえないことか。
「…ありがとう。とても嬉しい」
それでも喜んでくれたことがとても幸せに思えた。
2人は朝食を摂りながら今後のことを話し合った。話し合った、と言っても何をしていいかわからない瞬はエアリアに同行するだけだが。
ちなみに今日の朝ご飯はハムと卵のサンドイッチとサラダである。卵は町内生産であるため新鮮なのだ。
「…目的地はゼナのいる隣国ゾーラントのフォーンという村。そこは私とアリーの住んでたとこだけど、結構かかると思う」
「エアリアの住んでたとこかー」
ゼナはエアリアの魔法の師匠だという。もし親子のような関係だったら「お前に娘はやらん!」みたいな展開でもあるんかなー、等と考えていた。
「…ルートとしてはアクアデイルに寄りたいから、その途中にあるベンジスって街がとりあえずの目的地。一応出かける前にギルドに寄って挨拶に行こうと思う」
「うん、それでいいよ」
こうして方針が決定するのだった。
朝2の鐘が鳴り響くと冒険者ギルドでは大量の依頼が張り出され混雑する。混雑は避けたかったのでその前にギルドへ行き、受け付け嬢に旅に出ることを話した。
「え〜、エアリアさん達行っちゃうんですかぁ? シュンさんも期待の新人だったのにぃ」
とても残念そうに嬢が話す。この街に第1等級冒険者はエアリアだけであり、ゴブリンジョーカーとも渡り合った瞬はまさに期待の新人だったのだ。ギルドとしては痛い話だろう。
「…目的があるから。先ずはベンジスへ行こうと思う」
「あ、ベンジスですか? それ明日にできませんか?」
ベンジスと聞き、嬢が拝むようにお願いをする。
「…かまわない。護衛?」
「そうなんです。募集人数が5人程なんですけど、先に3人が応募しててあと2人欲しかったんです。そこは最近山賊が出没してるのでお2人なら安心ですから」
山賊相手に5人でも人数的には厳しいのだろうが、腕のたつ冒険者であれば山賊などものの数ではないのだ。
山賊の武器は肉体と人数であり、そこに修練による強さは微塵もない。そもそも修練を真面目にするほど勤勉なら山賊に身をやつしたりしないものである。
「…依頼書を見せて欲しい」
依頼書を確認するのは報酬や条件を見るためである。
依頼書
依頼主 ハクリタ商会ベルムント本店 セイル
ベンジスまでの護衛依頼 報酬 1人金貨2枚
山賊との戦闘が予想されるため対応出来る方5名程
食事は当方負担 水は各自でお願いします
収納魔法がある場合は事前にお知らせ下さい
日程 5月1日 朝8時頃ベルムント北門前集合
〜5月2日 到着予定
瞬も見せてもらう。暦が地球そっくりなのは暦が輸入され、その考えが導入されたからである。この世界の1年は360日なので1ヶ月30日の均等割りとわかりやすい。そして1日24時間となぜか一緒だったため時間の概念も地球のものが採用された経緯があった。
「…報酬は悪くない。山賊が出るにしても多いくらい」
「相場ってどのくらいなの?」
「…普通は1日小金貨7枚。何かいる?」
この世界の一般家庭のだいたいの月収は銀貨250枚〜350枚くらいである。食事も出るのでお得であった。
「結構被害が出てるので出来たら討伐していただけると」
せがむようにエアリアの服の裾を掴んでいる。
「…わかった。シュンもいい?」
「おけ」
瞬に確認をとると親指を立てて了承され、受注が決まる。
「ありがとうございますー」
依頼書に受け付け嬢が判を押し、依頼書を受け取った。
「ちょっと予定が変わったし少し一緒に歩こうよ」
瞬がエアリアを誘い、手を取ると握り返してくれる。
まだ朝早いため露店も店舗もやってないが、散歩するだけで良かったのだ。
2人が仲睦まじく手を繋いで歩いていると、ヴァサーの神殿の近くで後ろから声をかけられた。
「瞬! 無事だったのか!」
「瞬!」
声をかけて来たのは親友の陽神明とその彼女、天寺水衣だった。瞬は振り向いて2人の顔を確認すると、懐かしさに嬉しさが込み上げてくる。
「明! 水衣!」
「…誰?」
エアリアも振り向く。
「うおっ、すげぇ美人!」
「むっ!」
明が思わず感嘆の声をあげると、嫉妬した水衣が明の頬をつねる。
「この人はエアリア。命の恩人だよ」
へへーっ、と自慢するように紹介すると2人はほぉー、と感嘆の声をあげた。
「エアリア、この2人は明と水衣。僕の友人だ」
「…エアリアです。よろしく」
紹介を受け深々と頭を下げる。
「手ぇ繋いでたよねぇ、もしかしてそういう関係?」
水衣がにやーっと笑みを浮かべからかう。
すると2人は目を見合わせると照れて顔を赤らめうつむく。
それだけで丸わかりであった。
「おま、手早いな…。まぁ、無理もないか」
明もちょっと呆れたが、まるでモデルのような美女にさもありなんと思うのだった。
「おめでとうー、私天寺水衣。よろしくねー」
自己紹介するとエアリアの手をとる。
「…うん」
そして微笑みを返した。
「…ヤバっ、尊み…」
その笑顔にクラッときた水衣であった。
それから4人はこれまでのことを話し合った。明はあの騎士団長のゼストから腕のたつ冒険者に拾われたことは聞いていたが、こんな美女だとは思わなかったと話す。
瞬はゴブリン退治の話をし、恩恵を手に入れたことも話した。
「そっか、瞬が元気でいてくれて嬉しいわ。こっちはとにかく訓練の毎日だよ。基本的な剣技や動きができてないからな。3人の中じゃ俺が1番弱いよ、勇者なのに」
ケラケラと陽気に笑う明は何も変わってないな、と瞬は安心したようだ。
「僕のことは内緒で頼むよ。明日から旅に出るけど、変に目をつけられると困るし」
「わかってるわよ。宮松にも話さないわ。あいつ口軽いから」
水衣がへっ、とジト目で向こうを見る。仲はやはり良くないようだ。
「でもそっか、旅に出るならしばらく会えないか。でも見つけたんだな、やりたいことが」
「まぁね。また会えるさ」
にっ、と笑うと瞬が立ち上がる。
「そうだな。また会おうぜ。今日は会えて良かったよ」
それを受け明も立ち上がる。
「「生きて会おうぜ親友」」
2人の声が重なり、お互いの拳がちょんと触れ合った。
「男同士だねぇ…」
水衣が2人のやりとりをやれやれと眺めている。
「…ちょっと憧れるな…」
エアリアはその姿を優しい表情で眺めていた。
護衛依頼編完結まで毎日投稿します꒰ঌ(๑≧ᗜ≦)໒꒱⋆⸜♡⸝⋆
バトル関連に重点を置いた話ではないです。
そういや短編集更新してないw
あれは実験場なんで別にいっか…。




