ゴ(キ)ブリン退治6〜瞬の昇格〜
ゴブリンキングとジョーカーを倒したことで生き残ったゴブリン達は恐怖に慄いていた。
後始末のためにも逃すわけにはいかない。
瞬は急いで逃さないための魔法を構築することにした。ジョーカーや大量のゴブリンを狩ったことにより、そのポイントは10000にも達しており、十分過ぎるほどである。
構築が終わり、魔法を発動させる。
「封絶!」
その魔法は瞬時に廃村全域を包み込み、隔離空間を形成した。事前に廃村全体を見回しているため、取りこぼしはない。
「これで逃げられないはずだよ」
そう伝えると、ゴブリンジョーカー、キング、ジェネラル、新種の遺体を回収する。
「…まずは囚われた人達の確保を優先。みんなはゆっくり後を着いてきて」
瞬の封絶の後エアリアが指示を伝えると、瞬とエアリアは猛ダッシュで囚われた人達のいる家屋へと向かう。
マルクス達はゆっくり着いていった。
「復活」
囚われた娘たちを魔法で癒す。身体の傷は癒えても心の傷までは癒せない。大変だが廃村を出ればリアカーを用意してある。それに乗せて移動となるのだが、そこまでは自力である。一応毛布や着替え等も用意してあったが、娘達は悲嘆に暮れていた。
時間をかけ、廃村の入り口まで戻る。瞬が結界に人が通れるくらいの穴を作ってそこを通ってもらう。
マルクス達は娘達を連れて帰還、瞬とエアリアは殲滅と実況見分である。
  
マルクス達を見送った後、一気に殲滅するべく全力の魔法を展開し、即退避。これが予定であった。
先にエアリアも退避させ、瞬が全力の水爆を準備する。
遅延魔法と呼ばれる技法があり、魔法の発動をわざと遅らせることが出来るのだ。
「水爆を5分後に!」
廃村の中央に魔法を仕掛けると、周囲から酸素と水素が集まっていく。
空間移動を使い、空間を渡りながら結界の外を目指す。そして外へ出て完全に結界を閉じた。
しばらくして、結界が激しく揺れた。封絶のため音は聞こえなかったが、その揺れが爆発の凄まじさを物語っていた。生きてるゴブリンはまずいないだろう。
ちなみにポイントも1500くらい増えていた。上位種も混じっていたのだろう。
封絶を解除すると、廃村の殆どが消し炭になっており、瓦礫の山が端にできていた。ゴブリンの遺体も消し炭になったようで、端に大量の魔石が転がっていた。そして真ん中の方は巨大なクレーターになっており、ゴブリンの生存は当然皆無である。
魔石を回収していると魔石に紛れて黒い石を見つけ、拾い上げた。
「これ、賢者の石…? 前見たのと似てるけど…」
瞬が拾い上げたものをエアリアに見せる。
「…間違いない。それは賢者の石。でもどうして…」
エアリアが思案に耽る。
「…そういえばあの新種、ゴブリンというよりはゴキブリの顔をゴブリンしたみたいだった。あんな進化考えにくい」
エアリアは思い出したくもなかったが、あの新種の姿を思い浮かべる。ちょっと気分が悪くなった。
「つまり、作られた新種ってことか」
瞬は思い立ち、例の新種を一匹取り出す。そしてマインゴーシュで中を切り裂くと、やはり中から賢者の石が出てきた。
そしてそれを取り去ると、新種は日に晒され灰となっていった。これで確定である。新種が少なかったのは生殖能力が無かったからだろう。
これはもはやギルマス案件となったのである。
魔石を大方集め、帰路に着くと、村人達が歓迎してくれた。
心の傷は深かったが、今は生きて帰ってきたことを喜んだのである。さすがに宴会、とまで陽気な気分にはなれなかったろうが、それでも無事帰してくれたことに感謝しないわけにはいかなかった。
なぜなら本来は状況が変わってしまったため、依頼を断られても文句は言えない。依頼料の値上げ交渉もせず討伐してくれてのである。ゴブリンキングがいたのだから10倍どころの騒ぎではなく、ジョーカーの存在で100倍以上は間違いなかった。
村長の家で精一杯の料理を振るわれ、一行は疲れを癒したのである。さすがにみんなヘトヘトで、帰りは明日となったのであった。
  
後日、一行はギルドに戻り、報告と手続きを行っていた。
「…これはあなた達の取り分」
そう伝え、エアリアは依頼の報酬全てとレッドキャップの魔石を4つ。それからゴブリンやホブの魔石も結構な数を渡す。全部合わせると金貨80枚以上にはなりそうだった。
「え! こんなに良いんですか!?」
マルクスはその数に驚く。自分たちで倒した以上に貰ったからだ。
「…レッドキャップを倒したのは事実。実績は十分だから昇格祝い」
「うおおおおー! すげぇ、俺たち第5等級昇格ですか!」
エアリアがニコッと微笑むと、バークやマルクス、ロエルナとマーニャがお互いを見合わせ昇格を喜んだ。周りの冒険者達からも拍手があがり、祝いの言葉が飛び交う。
「…あの戦いを生き延び、レッドキャップ2体とゴブリン複数を相手どったのだから当然。私が推薦した。まだまだ未熟だから気を抜かないで」
普通の駆け出しならほぼ全滅する相手である。加護のバフはあったものの、自信には繋がっただろう。エアリアなりの祝福に湧く勇士の紋章であった。
そしてエアリアと瞬は例のごとく応接室でギルマスと話し合いをしていた。
「未だに信じられんな。この駆け出しがゴブリンジョーカーを倒したのか…」
ギルマスにも遺体は見せており、ゴブリンジョーカーが自らの力で生み出すという武器「絶死の鎌」も鑑定の結果本物であった。
「…一対一で勝ったのはシュン。これは第4等級まで上げてもいいレベル」
エアリアの言うことももっともで、実力だけなら間違いなく第1等級である。
モンスターには危険指数が設定されており、冒険者は等級により対応指数が定められ、討伐の目安となっている。
ゴブリンキングが危険指数200に対し、第3等級冒険者が100で第2等級で250、ゴブリンジョーカーはなんと700で第1等級冒険者でさえ対応指数は400なのだ。
「まぁ、確かに勇士の紋章の奴らも証言してたが…」
そう。勇士の紋章の面々も証言しており、遺体もある。その傷も身体に穴が空いており、エアリアによるものではないことは一目瞭然だったのだ。
「…私はキングやジェネラル、レッドキャップに新種を複数相手にしてたから手が回らない」
「それも十分異常だぞ。わかったわかった、ギルマス権限で飛び級を承諾する。それでいいか?」
エアリアの擁護にもう納得しないとダメか、と認めるギルマスであった。
「あざす」
瞬はにっと笑って返事をした。
「で、次はもっと凄い難題だな」
さすがにこの話は見過ごせない問題であった。
賢者の石を作る技術は神の器しかない。それが新種の中から出てきたということは、新しい魔物を生み出す実験をしているということである。
「新種が作られた魔物とはね。生殖能力はないと考えていいのか?」
「楽観はできないけど、数からみてその可能性は低いかな」
あくまで可能性で確認のしようがなかった。まさか囚われた娘達に聞くわけにもいくまい。
「その、言いにくいことだと思うが聞いていいか?」
ギルマスがメガネを光らせ改まる。
「…なに?」
「お前、子供産めるのか?」
デリカシーの欠けらも無い質問だった。
エアリアの顔が真っ赤になる。
瞬は思わず口にしたお茶を吹き出してしまった。
「…わ、私は産める…はず。ゼナがそう言ってた」
顔を赤らめたままそっぽを向いて答えると、チラッと瞬の方を見た。同じく顔真っ赤っかである。それでエアリアも顔から煙が出そうなほど更に赤みが増す。
「なるほど、となると楽観視は禁物か」
ニヤニヤしながらメガネの奥ではいやらしい光が点っていた。
「…セクハラ」
激おこなエアリアであった。
旅立ちの章なのにまだ旅立ってねぇw
  
次回はちょっとだけ陽神君出ます。
忘れられてそうなメインキャラだからたまに出さないとw
次回は23日に更新します๛ก(ー̀ωー́ก)
以下は蛇足です。物語には(多分)一切影響がないかもですが、こういうの決めておくと物語作りやすいので。偽金貨作る犯罪者の話とかw
ざっくり貨幣価値について。
この世界の金貨は
1枚5g程で純度90%です。ざっくり1枚3〜4万円
を基準に考えてます。割と大きいかも?
銀貨? 銅貨?
混ぜ物とか色々あるのでそこで調整されてると思っていただけるとw
異世界なのでレートが地球に準拠してる必要があるのかは知りませんが…。
1オンスの値段とかは一応調べたけど、流通金貨1オンスとか普通にありえんw
それ以上の額は金の延べ棒に刻印のされた通貨(王金貨と呼ばれてます)が存在してて、1枚実に460g(重さ計算すると足りない?)で刻印のされた純度97%のものが金貨100枚分として存在します。
発行は4つの国によってされており、刻印は違いますが規格を統一することでレートの統一を図っています。
それを定めた規定があり、魔物や悪魔のいる世界なので国際機関も一応存在するのです。情報ツールでは魔法通話というテレビ電話がありますが、バカ高いのでギルドを含む国際機関でしか使われていません。
当然それで含有量のおかしい偽金貨が発見されて戦争になったこともありますw
偽金貨の鑑定は秤を使いますが、その鑑定は商人同士や国の財務担当官等の取り引きでの慣例になってます。
やり方は簡単で、金貨を枚数を数えて2つに分けて計り、均一であればその重さを計って判断します。枚数を素早く計る道具くらいはあるので合わなければその時点でニセモノです。これなら手間は少ないですからね。
多少の齟齬は大目に見てくださいw
 




