ゴ(キ)ブリン退治5〜血戦〜
先に動いたのはジョーカーだった。
超高速の斬撃。それを瞬はバックステップで躱すと、瞬時に間合いを詰める。
しかし、瞬の脳裏に冷たいものが過った。
勘に従いしゃがむとその頭上を鎌が通過していく。どうやら振ってきたのは鎌の背の方だったらしい。
瞬は再びバックステップで離れ、斬撃を回避した。
「ヤルデハナイカ。ソウコナクテハ」
ジョーカーが口を半月のように開け、ニタリと嗤う。
「そっちこそな」
こんな状況だが瞬に笑みがこぼれていた。
戦いの高揚感。ボクシングジムで初めてプロの先輩と拳を交わした時以上のものを瞬は感じていたのだ。
オルクス達は回り込んで来た2体のレッドキャップを相手にしていた。攻撃は何とか大盾で防げるのだが、いかんせんバークの技量ではなかなか当たらない。加護のおかげで実力以上のものを発揮できているのだが、元々の技量がそこまで高くなく苦戦していた。
近距離では弓矢も使いづらく、徒手格闘の経験もないため聖光気を使いこなせず、ロエルナは完全にお荷物状態であった。
「クソッ。たった2体が倒せねぇ!」
バークに焦りが生まれ、ますます躱される。そこを1匹がすり抜け、マーニャに狙いを定めた。
「防御!」
そこへマーニャが魔法の壁を作り、勢い余ってレッドキャップが壁にぶつかる。そこをバークが剣を突き刺して息の根を止めた。
「や、やった!」
確かな手応えを感じ取り、油断が生まれる。
「ギギッー!」
オルクスが雑魚ゴブリンの攻撃を防いでいた隙にレッドキャップがすり抜け、ナイフがバークの脇腹に突き立てられた。
エアリアはゴブリンジェネラルを一瞬で葬り去ると、向かってきたレッドキャップを軽々と斬り伏せ、極滅気を飛ばして雑魚ゴブリンをまとめて葬りさっていく。
「…ここから先は行かせない」
エアリアは真正面のゴブリン達の侵攻を1人で防いでいた。回り込んで来たレッドキャップは逃したが、エアリアの前にはゴブリンの死体が無数に転がっている。
「ゴロゼーーー!」
その様子にキングは怒り狂っていた。この王が居ると統率が生まれ、ゴブリンは命知らずに向かってくる。しかし王が倒れると蜘蛛の子を散らすように逃げていく心配があった。それがエアリアの懸念である。キングさえ存命ならゴブリンは居る数だけ攻めて来るため、それは1番最後で良かった。
「千の光矢!」
光の矢を1000本生み出し、ジョーカーに向かって広範囲に飛ばす。
「ソンナモノガツウヨウスルカ!」
ジョーカーが鎌を振るうと大きな闇の盾が生まれ直撃を避ける。その間足は止まり、鎌も触れず前が見えていない。そう思い瞬は軽やかなステップで距離を詰める。
左ジャブ。それをそのまま闇の盾で受けると盾にヒビが入った。そこから右ストレート。
盾を割るがジョーカーの姿はない。
急いで横に跳ぶと、瞬のいた場所に魔弾が着弾した。
「上か!」
高く跳んだジョーカーは着地の隙を無くすため、さらに四方八方に魔弾を飛ばす。それは味方のゴブリンも巻き込み地面に穴を開けていった。
少し離れた位置に着地すると、またも魔弾を撃ち込んできたため、防衛で防ぐ。そして今度はジョーカーが間合いを詰めてきた。
防衛に向かって鎌を振り下ろす。しかしその壁は頑強で一撃では壊れない。
2撃、3撃でヒビが入り、4撃目。防衛が破壊される。その間隙を縫い、瞬の右フックが炸裂。腹に当たるが少し浅かった。
カウンターでジョーカーの蹴りが瞬に胸に当たると、体重の軽さが災いして後ろへ飛ばされる。倒れこそしなかったものの低い姿勢で勢いを殺したため、足が止まる。
「喰ラエ!」
ジョーカーが間合いを詰める。渾身の一撃が振り下ろされ、闇のオーラと光のオーラが激しくぶつかった。
バークに突き立てられたナイフは聖光気によってギリギリ届かなかった。その生まれた隙にロエルナが腰のナイフを抜いてレッドキャップの首に突き立てる。それは身体の小さいレッドキャップには致命傷だった。
そこをさらに回り込んできたゴブリンが遅いかかる。しかしマルクスが大盾で防いだ後、持っていた短剣でトドメを刺す。
辛くもマルクス達はその役割を果たしたのであった。
エアリアは闇の閃光を放って多くのゴブリン達消し飛ばし、近づくレッドキャップやホブを斬り伏せ、獅子奮迅の活躍を見せていた。
一騎当千。これが極滅と恐れられたエアリアの実力だった。
キング程度ならいつでも殺せる。それ程の能力があるのだ。
もはやゴブリンの数も大分減っていた。と、そこへ新種の黒いゴブリン達が飛来、エアリアに向かって襲いかかって来る。
その姿はまさにゴキブリ。
黒い虫のような身体。黒いGのような羽、そして虫のような手足。言うなればそれはゴキブリの頭がゴブリンになって黒くなっただけの歪な存在。
「…ゴ、ゴキブリ…ン!」
エアリアの中で何かがプツン、と切れた。
極滅気全力発動。
エウルードの鎌が瞬時に新種達を真っ二つにし、キングに肉薄。キングが拳を振り上げるも、振り下ろす間もなく八つ裂きにされ、絶命する。
「…ゴキブリもゴブリンも殺す!」
その黒い威圧にゴブリン達の動きが止まり、気づけばバラバラに切り刻まれたゴブリンが大量に散らばっているのだった。
激しくぶつかり合う闇と光のオーラは闇に軍杯が上がった。
切り落とされる瞬の左腕。しかし瞬はかまわず全力の右フックをジョーカーの横腹に叩き込んだ。
アドレナリンが痛みを軽減するとはいえ、その行動は常軌を逸していた。
エアリアを護れるくらい強くなりたい。
エアリアに相応しい男でありたい。
その想いこそが瞬の全てだった。
そのためなら命を賭す覚悟があった。
その事に迷いはない。それが瞬を支えていた。
そんな想いの込もった一撃をまともにくらい、血を吐くジョーカー。慌てて距離をとる。
「ヤルジャナイカ…。楽シイナ!」
ジョーカーが歓喜の声をあげる。その間に瞬は自分の左腕を拾い、くっつけた。
「復活」
「…! ナンダソレハ!」
いとも簡単に左腕がくっつき、後遺症もなく左手をグーパーさせるとジョーカーが驚愕の声をあげた。
「いや、むっちゃ痛かったわ。そろそろ決着をつけようか」
瞬が軽やかにステップを踏み始める。
「イイゾイイゾ! オ前ハ最高ダ!」
ジョーカーが歓喜の声をあげつつ再びその身を闇に包み、瞬に迫る。
それを防衛で防ぐ。
「通用セヌ!」
「果たしてそうかな?」
使用したのは千の光矢。
ジョーカーのまさに目の前に無数の矢が生まれた。
「…!」
出現と同時にジョーカーは前方に闇の盾を作り、後ろへとバックステップを踏む。そこへ1000本の矢がジョーカーを襲う。
「空間移動」
これが瞬の新たな切り札、空間移動である。これは完全な初見殺しであり、2度目は警戒される。そのため確実に決めたかったのだ。
一瞬で背後に回り込み、バックステップで矢を受けて動きの止まったジョーカーは完全に虚をつかれた。
無防備の背中に叩き込まれた右フックはジョーカーの肉体を激しく損傷させ、穴を空ける。闇の盾に回した分、ダメージを軽減するオーラが無くなっていたからであった。
「グハッ!」
吐血。そしてフラフラとしながらも距離を取り、瞬に向き直る。
「クク…、アア、楽シカッタナァ…」
ジョーカーは笑う。それはそれはとても満足そうに。
そして血を吐き、倒れ伏した。
それが最凶最悪と恐れられたゴブリンジョーカーの。
名も無き戦士の最期であった。
「僕も楽しかった。じゃあな、名も無き強者よ」
瞬は右の拳を突き出し、その戦士に敬意を示すのだった。
なんか予定と違ってるーw
元々はエアリアがゴキブリ型ゴブリンにキレて廃村ごと吹っ飛ばす予定だったのになんでこうなったw
(村娘が攫われたから)
勢いで書くとプロットと内容が変わることってあるよね?w
なんかゴブリンジョーカーかっちょええぞw




