ゴ(キ)ブリン退治4〜最凶のゴブリン〜
一行は朝食を済ませた後居間で作戦会議を行うことにした。そこで瞬が新たに作った魔法が役に立つことになる。「…本当なら教導としてマルクスに作戦の立案等してもらうんだけど、今回はそれはなしにする。シュンが面白い魔法持ってるから」
さすがに作った、とは言えずそう説明した。もっとも昨日作った2つの魔法のうち1つは軍隊なら是が非でも欲しくなる魔法であったが。
「僕の遠視はここにいながらゴブリンのアジトを視ることができる。だからまずは囚われた人達と敵の戦力を調べるよ」
新しく作った魔法のひとつは遠視。現地に行かなくても偵察でき、気づかれることもそうないであろう魔法である。デメリットとしては使用中は戦闘等の複雑な思考を要することは出来ない、ということだ。しかし使う時は通常戦闘前なので気になるレベルではなかった。
瞬はゴブリンたちのいる廃村に意識を飛ばした。村は広く、見張りのゴブリンは通常種ばかりである。たまにホブや例の黒い新種も見かけ、そして杖を持った者もいた。
さらに奥に意識を飛ばす。大きな建物があり、その中に一際大きいゴブリン、そしてやたらとがっしりした体格のまるでオーガを思わせるゴブリンもいた。
そして地下には囚われた娘達。栄養状態も悪く、薄汚れて傷も負っていて正視に耐えるものではなかった。
一応他の家屋も見て回ったが、囚われた人達はいないようである。そしてその中に妙な気配を持つゴブリンが。
赤い帽子を被り、精悍な顔つきのゴブリンたちであった。そして何より、その中にいた背丈が大人の人間並みのゴブリン。ひょろ長い見た目は不気味で、そして異様な雰囲気を纏っていた。それは見られていることに気づいているのか、瞬に向かって指をクイクイと曲げ、まるでかかって来いと言っているようにさえ思えた。
遠視での偵察を終え、エアリアや勇士の紋章たちにその内容を話す。それを聞いていた勇士の紋章たちの顔がみるみる青ざめていった。
「お前、それレッドキャップじゃねぇか!」
「最悪よ、私たちじゃ殺されるだけだわ!」
レッドキャップ。それは言うなればゴブリンの精鋭部隊である。幾多の戦闘経験を経て進化したそれはスキルを持っていることも多く、単体の戦闘力でもキングに勝るとも劣らない。第3等級冒険者以上でないと対処は難しいと言われている強敵なのだ。その危険指数は120とされており、第6等級冒険者の対応指数は6とされている。第6等級冒険者ではレッドキャップ一匹
屠ることが相当困難ということになるのだ。
「…おまけにシャーマン、ジェネラルらしいのもいるしキングもいると思う。普通ならこの戦力だとかなりキツイ」
単純に戦力を分析するなら無謀という他ない。最悪火事になるため水爆は扱いも限定される。物理現象によって引き起こすその魔法は強力だが、精霊系の火魔法のように術者の意思で消せる炎ではないのだ。
「そうだね。僕とエアリアだけでやってもこの数の暴力は苦労する。そこで実は面白い魔法があるんだ」
圧倒的戦力差が数によるものなら、一騎当千のメンツを増やす他ない。
「その魔法は高らかなる祈り。僕が味方と認識した人全員に戦意高揚、集中力増大、常時回復、バイオリズム向上、そして聖光気が付与される。効果時間は1時間だから切れたら困るよね。だから分断されないよう注意してほしい。余程離れてない限り追加で効果時間延長できるから」
ハッキリ言ってぶっ壊れ性能としか言えないその魔法は瞬のスキル祝福の恩寵の効果であって、実は魔法ではない。
祝福の恩寵の効果は主に加護の付与であり、その加護の効果が先程あげた効果である。聖光気の付与はそのスキルを入手したときに追加された要素であった。そして一時的、というのも真っ赤な嘘で加護を剥奪しない限り永続する。そしてそれは相手を視認できていればいいのだ。
代償はないが人数制限があり、その数は最大MPを100で割った数である。今最大MPは既に2700に達しており、人数的にはかなり余裕があった。そして瞬には原初の魔素があるため、MPはアホみたいな成長力があるのだ。
そして嘘をつく理由は簡単で、そんなものをもし知られたら面倒臭い未来しかない。王族に囲われ、自由等一切なくエアリアとも旅を続けられなくなるだろう。それか貴族の養子にされていいように人生を勝手に決められるか。エアリアに話した時など卒倒しそうになっていたほどである。
「お、俺にも聖光気が? す、すげぇよそれ! なんかやれそうな気がしてきた!」
バークが興奮して身震いをしていた。武者震いというやつである。実際、瞬が使った時はオーガを圧倒したほどで、その効果の高さは御伽噺や吟遊詩人の歌でも紹介されているのだ。
「…シュンの魔法は他言無用でお願い」
「はい、それはもちろんです!」
念の為エアリアが釘を刺す。罰則はないが、信頼を大きく損なう行為であり、守秘義務も守れない相手と思われれば指名依頼も来ないし共同依頼などまず受けさせてもらえない。それは彼等もわかっていることだがエアリアも必死なのである。
こうして方針も決まり、現地へ赴くのであった。
「見張りがいるわね」
木かげに身を隠し、状況を確認。廃村なので柵も大部分が壊れているが、門の入口には見張りの下っ端ゴブリンが警備をしていた。数は3匹。中に入ればウヨウヨいるが、先制で魔法攻撃を中にぶっぱなしたいため邪魔なのだ。
「私の弓じゃ一匹が限界だわ。後の2体お願い」
ロエルナが弓を引き絞る。瞬も光矢を2本生み出す。3本の矢は同時に放たれ、見張りのゴブリン3匹を始末する。
「よし、行くぞ! 瞬さん頼みます」
「おう」
「じゃ、いくよ高らかなる祈り」
瞬は4人に加護を付与する。エアリアにはダルクアンクレプリカにどんな影響があるかわからないため、加護はやめておこうとなったのだ。
4人は聖光気の発動を事前に練習しており、MPの減りを確認している。普通、闘気系のスキルはその発動維持にMPが消費され続けていくことが知られているが、瞬の加護の場合は原初の魔素の影響も受ける。そのスキルには常時MPの超回復があるため減る以上に回復していくという壊れっぷりを発揮していた。
そして5人が聖光気を使うならエアリアが極滅気を使っても全力でさえ無ければ影響はないようであった。
瞬は門のヨコの柵の壊れた所から侵入し、まず防衛で自分たちの防御を確保。そしてできるだけ遠くの位置で水爆を発動させる。
大きな爆発が起こり、辺りのゴブリンと家屋をまとめて吹っ飛ばす。後には瓦礫とゴブリンたちの死体が残り、爆発音に驚いたゴブリン達が次々と湧いてくる。
「大分集まってきたな」
マルクスが大盾を構える。もっと数を減らさないといけないのでまだマルクスたちの出番は無い。
「極滅閃光衝」
エアリアの極滅気を利用した収束閃光魔法である。闇の波動が新種を含む数多のゴブリン達を死滅させていき、射線上にある家屋もろとも消し飛ばす。この一撃でゴブリンを大量に掃討したが、今度はゴブリン達の射た矢が大量に降り注いできた。
しかしそれは防御によりことごとく弾き返され被害はない。
それよりも真正面からではなく、外の柵から回り込んできたゴブリン達の方が問題だった。
「防御」
マーニャが片側に魔法の壁を設置して進撃を阻み、囲まれるリスクはあるが広く見渡せる場所まで移動する。柵に隠れての強襲を恐れたのマルクスの指示だった。
そして戦いは乱戦へと移行する。瞬が光矢を乱れ撃ちしつつ牽制、撃破していく。ホブやシャーマン、新種もいたが何もさせず矢の餌食にしていく。
マルクスが近づくゴブリンたちの襲撃を盾で防ぎつつ短剣で仕留め、バークも近づくゴブリンを次々と斬り伏せていく。聖光気の恩恵もあり、剣の切れ味が増しているのだ。
マーニャも壁で進撃を阻み、ロエルナが弓矢で遠くのゴブリンも射抜いていく。
エアリアは踊るようにエウルードを振り回すと次々と斬り伏せていった。
そんな中、ついにレッドキャップやキング、ジェネラルといった上位種が姿を見せ、その中でも特にひょろ長く怪しい雰囲気を纏ったレッドキャップがいた。
それこそが瞬の遠視に視線を感じ、挑発してきた者。
ゴブリンジョーカー。
目撃例は極端に少なく、そしてその強さは第2等級冒険者のパーティですら犠牲無しで倒すのは困難と言われていた。
レッドキャップからの究極進化を果たした、ゴブリン界の死神と恐れられた存在。
その最凶の存在こそがゴブリンジョーカーなのである。
「あのひょろ長い奴。相当やばいから僕がやる。エアリアは他をお願い」
瞬が前へ出てそのジョーカーを指差した。
「…わかった。他は任せて。オルクス達はここで向かって来たのを相手にしてて。なるべく通さないようにするから」
「無茶振りですぜそれは…。でも聖光気もありますしやって見せますよ…」
エアリアの無茶振りにバークが答える。上位種とはやり合いたくなかったがそうも言ってられなかった。
「とにかく生き延びることを考えるんだ!」
マルクスがパーティーメンバーに活を入れる。
「ソコノ小サイ魔道士。ワカルゾ。見テタノハキサマダナ」
ジョーカーが瞬を指差し、言葉を発した。
「そうだよ。僕とやりたいんだろ? 相手になるよ」
瞬がボクシングのスタイルに構えた。
「面白イ! 同胞ニ告グ! 俺トコイツノ間ニ入ル者ハ例エ仲間デアッテモ殺ス! 邪魔ヲスルナ!」
ジョーカーが吼え、どこから入手したのか巨大な鎌を振り回して構える。
そして最凶最悪のゴブリン、ジョーカーとの血戦が幕を開けた。
ジョーカーの鎌はスキルにより生じたものです。絶死の鎌というジョーカーの闇のオーラを物質化した武器ですね。
スキルなんでもありだなw
ちなみにトランプもリバーシもチェスもこの世界で娯楽として定着してます。
だからジョーカーって言葉もちゃんとあるんです(*^^)v




