ゴ(キ)ブリン退治2〜エアリアの教導〜
依頼を受けた2人はギルド内の修練場に行き、教導のための顔合わせ兼打ち合わせを行っていた。
「えーっと、俺がチーム『勇士の紋章』リーダーのオルクスだ。恩恵は堅牢なる者だ。よろしく頼む」
オルクスはエアリアに向かって深々と頭を下げる。このオルクスは重鎧を着込み大盾を使っていた。タンクトップなのだろう、その身体は2メートルを超え実に頼もしい。
「私はロエリナ。スカウトです。恩恵はまだ貰ってないです」
身軽な軽鎧に身を包み、髪は肩で切りそろえれている。弓が得意なようである。彼女もエアリアに頭を下げた。
「俺はバーク。剣士だ。俺も恩恵はまだだ」
バークはレザープレートに身を包んだスピードタイプの剣士である。
「私は治療師のマーニャです。恩恵は治癒です」
マーニャは白のローブと白の帽子を身につけている。長髪のブロンドで先端より少し戻った位置をリボンで結んでいた。
彼女も例に漏れずエアリアに頭を下げる。
「魔道士の瞬です。恩恵は…チワワです」
自分で言って悲しくなる瞬であった。なにせ鑑定しても暴れん坊チワワと出るのだから仕方がない。
「…エアリアです。今回の教導官は私。依頼はエルゥ村の近くの廃墟に住み着いたゴブリンの殲滅。新種も確認されてる」
エアリアも挨拶をすると依頼の内容の確認を始めた。教導付きの依頼の場合、原則教導者はあまり手を出さず事前に打ち合わせをし、討伐の事前準備の確認をしたり必要な知識や手順の確認を行なうのである。
「…エルゥ村はここから行けば約4時間。廃墟も歩いて1時間と結構遠い。着いたらエルゥ村で休んでから行く。それから…」
と行程の確認に入る。そして装備の確認。ヒーラーがいるとはいえ回復薬は必携で持たせ、予備の武器や縄、ナイフ、マッチ等の点火具といった凡庸性のある道具の確認も行った。
「…もう準備出来てるのは高評価」
エアリアがメモ用紙を取り出しチェックを入れる。瞬は昨日既に揃えてあったため元々問題はない。
「…では指揮はオルクスがお願い。シュンも悪いけど指揮下に入って。それと聖光気は極力使わず魔法も光矢だけでお願い。そうしないと教導にならないから」
「わかった」
エアリアの指示に手を挙げて答える。そして勇士の紋章たちの視線が瞬に注がれた。
「聖光気使えるの? 凄い!」
ロエリナが感嘆の声をあげた。聖光気は相当ランクの高いスキルであり、持っていればそれだけで羨望の的となるだ。
「…わかってると思うけど、依頼で知り得た仲間の情報は漏らしちゃダメだから内緒でお願い」
それが冒険者の暗黙の了解なのだが、依頼人にその義務はなく結構依頼人から漏れたりするのである。それでも冒険者でないとわからないこともあるため、このルールは必要なのだ。
「は、はい。もちろんです」
リーダーのオルクスが答える。他のメンバーもうんうんと頷く。
「…じゃあ準備できてるし早速行く?」
「はい!」
そして早速出発するのであった。
エルゥ村までは道ができており、道の途中には案内板もあるため特に迷うことは無い。魔物も街道にはあまり出てこないが、出てくる時は単体か集団であることが多いという極端さがあった。
オルクスを先頭にし、その後ろをバーク、さらにその後ろをロエリナとマーニャが並び、瞬とエアリアは1番後ろである。エアリアは基本手を出さないため、後ろの対処は瞬が行なうのでこの配置であった。
かれこれ2時間ほど歩くと山の麓に到着する。時間的にはもうじきお昼であろうか。
みんなでその辺に座り、購入した弁当を食べることにした。
「モンスターも出ないしいい調子ね」
ロエリナが唐揚げを飲み込むと空を見上げる。今日は快晴で気分もいい。これがピクニックならさぞ楽しかっただろう。
「俺はモンスターが出なくて物足りないな。もう少し貯まればヴァサー教会で恩恵の洗礼受けれるのによぉ」
バークが拳を握り、ヘヘッと笑う。
「恩恵って教会でもらうんですね」
「ん? 異世界こら来たから知らねぇのか。まぁいいか、そうだぜ。恩恵はヴァサーかその眷属から貰うんだけどよぉ、洗礼に金貨1枚だぜ?」
瞬が聞くとバークは洗礼がぼったくりだと不平を言う。
「結構高いよね。だから私らの場合、生き残るために先ずは防御担当と回復担当を優先したわけ。スキルがなくてもモンスターは倒せるからね」
ロエリナも話に乗り、チームの内部事情を話す。ただこの言い方だと貰える方向性が決められるようにも聞こえた。
「貰える恩恵って選べるんです?」
「そうだな。俺のように防御系が欲しい場合は戦神カリーンの洗礼を受けるんだが、攻撃系か防御系か選ぶくらいの融通は効く」
瞬の疑問にマルクスが答える。
「私の治癒は慈悲の神ラフティで、他の魔法系は知恵の神イテリーズ、太陽神ヴァサーだけは特殊で資格があれば洗礼の時教えてもらえます」
マーニャがさらに説明を加えると瞬はなるほどなるほどと頷くのであった。
「…たまに生まれつき持ってる人もいる。その場合、大抵は強い恩恵を得ていることが多い」
エアリアもさらに補足を入れ、恩恵やスキルの話で盛り上がった。
休憩を終え、再び一行は歩き始める。
山に入るためここからは魔物の出る危険性も増す。ロエリナは周囲を警戒しながらオルクスの後を付いていった。
少し歩くとエアリアが何かの気配を捕らえたようだが、今回は教導なので警戒だけはするが教えずにいた。
しばらく歩くと茂みから何かが飛び出して来た。
黒い狼がその口を大きく開けてマーニャに飛びかかったのだ。不意打ちに気づいていなかったバークは反応が遅れ、判断に迷いが生じて動けなかった。
マーニャは慌てて腕で首を隠す。
「光矢」
そこを瞬が魔法で迎撃。光の矢が黒狼の首を貫く。その一撃で黒狼は息絶えた。
「あ、ありがとう」
マーニャも動けずにいたせいで冷や汗が出ていた。バークもホッと胸を撫で下ろす。
「気をつけて。囲まれてるよ」
安心し、気が抜けているバークに言い聞かせるように瞬が伝える。
「なんだって! 全員外側に向けて円陣だ!」
マルクスの号令に全員が素早く円陣を組む。瞬ももの凄く言いたいことがあったようだが、指揮下にあるので従うことにする。
茂みで背の低い黒狼はわかり辛く、広い道でもないため剣を振るにも仲間が近すぎるという状態になっていた。それに見通しも悪く弓矢を使うにも条件が悪い。
しかし黒狼は待ってはくれない。茂みの中から次々と現れては一行に襲いかかってきた。
「ぬぅ!」
マルクスが黒狼の攻撃を受け止めてはいるが、全体をカバーできるわけもなく、
「きゃあ!」
マーニャにも黒狼の牙が迫る。それを瞬が殴り飛ばすが決定打にはならず茂みの中に退避していく。
バークも辛うじて剣で防いではいるものの、振り回すこともできないため傷を負わせられずにいた。
「…このままだとジリ貧。瞬は防衛使っていい」
「防衛」
エアリアが許可を出すと即時に防衛を発動。両サイドに展開し、茂みからの強襲に備える。
「一点突破するよ!」
瞬が声をかけ、前を走る。横の安全は確保したので道を塞いでいる黒狼に攻撃を仕掛けた。
「光矢」
速度が弓矢とそう変わらないため単発で撃っても避けらてしまう。ならば数を増やせばいいのだ。
さすがに1000本はやりすぎなので50本位を前方に拡散させて撃つ。黒狼は逃げきれず前方にいた2体を射抜いた。
そして背中を見せて走れぱ当然狼は追いかけて来る。追いかけてきてのは4匹。姿を見せたなら対処は可能である。
マルクスが最後尾にいたため、ちょうどいい位置にタンクがいたおかげか。『勇士の紋章』の面々もなんとか黒狼4匹を仕留め、事なきを得る。
「ふぅ、や、やったか?」
マルクスが状況を確認する。もう狼の姿はなく、危機は去ったようであった。
「魔物の気配はないと思う」
ロエリナが辺りを確認し状況を判断する。
「…状況終了。ちょっと危なかった。何が悪かったか考えて」
「…場所が狭くて思うように動けませんでした。円陣の間隔が狭すぎました」
状況終了の確認後エアリアは教導に入る。彼女の見立てではそこまでするはずはない相手。現に正面からぶつかったときは怪我もなく殲滅していた。しかしその前。実力的には勝てるはずの相手に苦戦していたのだ。その反省である。
「…違う。そうじゃない。シュンが囲まれてると伝えたのにその場に留まるのはダメ。戦闘において大事なのは死なないこと。もっと言えば怪我をしないこと。退路の確保を優先するのが大事。これが1つ」
自分の答えにダメだしされ、しょげるオルクス。
「…もう1つは相手の有利な状況をそのままにしてしまったこと。マーニャは壁系の魔法無い?」
「いえ、防御があります」
防御も瞬の防御と同じく魔法の壁を生み出す魔法である。つまり、瞬のとった行動は勇士の紋章にも出来たということだ。そのことに気づき、マーニャもうつむく。
「…一方向の攻撃を塞ぐだけでもかなり違う。上手く使えば有利になるから使い方を考えて」
「すいません、俺の判断ミスです」
オルクスが悔しそうに歯噛みする。上位冒険者にいいところを見せようと思ったのにとんだ有様だと悔しくて仕方がなかった。
「…オルクスはしょげる必要ない。成功より失敗の方が勉強になる。大事なのは同じミスをしないこと。この教導では思う存分失敗してくれていい。フォローはするから」
エアリアは反省しているなら叱らない主義である。だから優しく笑顔を混じえて伝えるのだった。
「…良かったところは一点突破の後の陣形。ちゃんとオルクスが殿を務め、連携も取れていた。マーニャも襲われた時ちゃんと首を腕で隠してたのも正解」
褒めるとこはちゃんと褒め、正しかったことを伝えるのも忘れない。
他にもいくつかアドバイスを受け、彼等はその心に刻むのだった。全ては生き残るために。
「ところでエアリア。僕にはなんにもないの?」
そう。一応瞬も教導を受けている立場である。しかし何も言及がないのだ。
「…シュンは手慣れすぎ。包囲をどう抜けるかも知ってたし落ち着いていた。叱るとこを敢えて言うなら、陣形が間違ってることに気づいてたのに何も言わなかったこと。でもこれは私が指揮下に入るよう言ったから、というのもあると思う」
エアリアが瞬を褒めなかったのは勇士の紋章に配慮してのことである。もし勇士の紋章だけを叱って瞬は褒めるだけとなると彼等はどう思うか。面白くもないし、自分のパートナーだから贔屓していると思われ、今後に影響が出るかもしれない。
そのこと伝えてなかったのは失敗だったな、とも考えたがエアリアは瞬を信じたのである。
その後瞬が6体の黒狼を収納し再びエルゥ村を目指した。そこからもゴブリンやオークの襲撃に逢いながらもエルゥ村に到着。その頃には午後4時近くになっていた。
冒険者の等級についての説明を本編であまりしてなかったなと
ざっくり書くと
特級 歴史に残る英雄。アリーがそう。
第1等級 実質の最上位。超一流。エアリアがここ。
第2等級 一流冒険者
第3等級 ベテランクラス。教導資格を取る必要あり。
第4等級 1人前。護衛依頼の成功または実績が必要。
第5等級 駆け出し卒業 教導または講習完了後 昇格試験
で合格か教導資格者の推薦必須。
第6等級 駆け出し冒険者 昇格試験で合格または実績
瞬がここ。
第7等級 採取依頼のみ受けられる。年齢制限あり(14歳以
上)
第8等級 街の中の雑用のみ。14歳未満。
なんだけど、一応本編でもある程度の説明を挟む予定です




