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幻影道 第五巻    作者: SAKI
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「夏の終わりと新たな挑戦」その4

☆★☆★ ユイ


 今日はなんて最悪だろう、ユカリちゃんには嫁有るまじき行為をして心を看破られるし挙げ句ナイフを床に蹴られて自傷することすら出来なくなった。ユカリちゃんは泣くことは無かったけど感情が重く伸し掛かった一つ一つの発言に胸が蝕まれて二度目の敗北を突き付けられた。


 復讐に心血を注ぎ子どもをあやしながら店の経営に足を運び戦闘を繰り返す毎日、私なら出来ると思っていた、けどそれは私の思い込みだった。


 子どもをあやしながら他の面倒を見る時間が足りない、店の経営も時間と共に疲労しミスが増えていく一方、戦闘こそ手慣れているが復讐心が前に出ると広い視野も土地勘も人の行動すら見えなくなり傷だらけになりながらも復讐を遂げることしか出来なくなった。


 私は何もかも中途半端なんだ、何一つとしてまともに出来ない出来の悪い姉だ。


 確かにこれなら憎たらしい研究員に同情してしまう程酷いのだ。結局何も上手く行かない、予定通りの斜め上の結果に焦って酒を片手に脳内を初期化して翌日は二日酔いと大人として恥を晒して子どもにお守りをされる羽目になる惨めな私に嫌気が差していた。


 だから本当は皆にはこう言いたい、私は皆が思ってる程私は何もできない女だって。


 それでも皆が期待してくれる、それだけで私は何とかしようと試行錯誤を繰り返す。私の存在意義なんて最初から存在してないのかも知れない。


 けどそんな時に私の事を見てくれたのがユカリちゃんだった、あの子は外面だけじゃなくて中身を見てくれる。だらしなくても疲労して倒れても、二日酔いしている時も失敗した時もあの娘のルビー色の瞳に映る私への“期待”と“誇り”は変わらなかった。


 そして今日気付いた、私が抱くユカリちゃんへの感情はただの愛情ではなく恋心だった。私に無かった優しさと誰かの為に働く姿、私の事を絶対に失望せずいつまでも誇り高きお姉さんだと自覚させてくれるんだ。


 私はそんな可愛い嫁を傷付けて今度こそ嫌われたと思っていたがやはりあの“瞳”は変わらなかった、私は泣いた、私の事をここまで好きでいてくれるのはユカリちゃんだけだった。


 沢山泣いて宥められ、姉の威厳は崩壊していた。


「ありがとうユカリちゃん」


 もう平気と離れると今度はユカリちゃんの方から手を握られた。


「ゆいゆい、一度負けたぐらいで心が折れる人のじゃないよね?」


 再度質問されると私は今度は思い詰めることなく頷いた。


「勿論よ、お姉さんはまだ負けてない、金星を一つ譲っただけ………本番はこれからよ」


 私の闘志は燃え尽きていない、ただちょっとした泥沼にハマり脱げ足せなくなっただけ………彼奴は一人では手に余るけど二人なら負けない。ユカリちゃんが私に期待してくれるだけで私の勝率は上がる、必ず勝ってせわしない幸せな日を送る為の糧になっまてもらう、そしてハルカの居場所を聞き出してやる。


 燃え上がる闘志にユカリちゃんは満足気に笑った。


「ならもうウジウジしないでよ?」


 愛らしい笑顔に私はお礼の変わりに沢山の愛情を注いだ、手始めに頭を撫でるとユカリちゃんは大喜びする。


「あんな恥は二度としないよ、だって私は―――― 」


 最凶の戦士兼皆のお姉さん“ユイ”だからね☆


 私は再び立ち上がるとどっかの本で読んだ内容を思い出した、“言葉は人を成長させる力がある”と、確かピグマリオン効果だっけ?期待させるとその気にすることを言う心理学の記事だったかな、そんな学問とか言い伝えとか興味無いし信じて無いけど、今回の件に関しては正解かもしれないね。


 一人では生きていけなくても誰かの期待に応えようとする私の独り善がりのせいでユカリちゃんに迷惑を掛けてしまった、それでも期待するユカリちゃんの瞳に私は言葉と共に立ち上がりまた目標の為に歩むことが出来たんだから。

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