「刺客」その3
ユカリちゃんを探していると突然背後からの悪寒を感じた、私は冷や汗をかいて振り向くとそこにはあの男が呑気に歩いて来た。
「全く、相変わらずえげつないねぇ〜」
彼は黒いコートに身を包みながら死体を踏みつける。
「アンタ……」
夏の夜、暑さは然程感じないのに汗が止まらない、私はこいつが来たことの驚きよりも緊張が上回った。
「あはは!ユイは強くなったと聞いたらまさか俺達の仲間を二人殺るんだからな!あれほどユイを舐めるなっていったのにさー」
歓楽的で戦闘狂、研究そっちのけで戦闘する男、イグニス………私が唯一勝てる気がしない男。元々戦闘はこいつから学んだものを自分なりのスタイルに変化させたもので私はこいつに一度も勝てたことが無い。薄々戦うことは分かっていたけど少し傷を負いすぎてしまった。
「ゆいゆい?」
すると後ろから一番最悪のタイミングでユカリちゃんが現れてしまった、彼はニヤリと笑い烈火の如く疾走しユカリちゃんに一撃を与えようとした。
「ユカリちゃん!!」
私はなりふり構わず盾になるが奴の拳は顔面を捉えていた、一撃の重みはまるで鉄骨に殴られたかのような痛みに砕ける頬、勢いよく殴り飛ばされた私は大量の血を鼻と口から流れ出る。
「ゆ、ゆいゆい!?」
だがちゃんと守れた、可愛いお嫁さんは無傷で済み駆け寄ってくれた。起き上がってもフラフラして戦える気がしない、睡魔と激痛に顔面麻痺を共に構えるも彼は何故か拳を引いた。
「ちっ、何だ万全の状態じゃないのかよ」
と彼はメモをユカリちゃんに投げつけると彼はそのまま踵を返した。
「待ちなさい………私はまだ!!」
剣を作り出して戦おうとしたがイグニスは鼻で嘲笑った。
「やめときな、俺は万全の状態でお前を殺したいんだ。そこに俺の研究所があるから支度が整ったら来いよ、お前みたいな戦士くずれでも少しは戦えるだろう?」
完全に舐められてる、死中に活ありという言葉を知らないのか私は最後に一撃をかましてやろうとしたけどユカリちゃんに止められた。
「ゆいゆい、今は止めよ……可愛い顔が………」
血の気が引いた顔でユカリちゃんは私の顔を撫でる、この子に心配されて戦うことは出来ない、私は睨みながらも秘書を担いでその場を去って行った。
気迫なんて感じないのに、私はまたあいつに負けた…へらへらしてる奴に私は負けた……絶対に殺してやる。
アンタは今の私の方が強いと証明してやる、必ず殺してハルカの手向けにしてやる。
私は強い復讐心を抱きながらも膝から崩れ落ちて地に突っ伏して意識を刈り取られてしまった。




