第40話④ シェールの戦い・終結
「こ、ここ、こんなん勝てるかよ……っ」
リッキーは逃げていた。
地面に潜ったり、透明になったりしながら、町の門に向かって逃げていた。
少しぐらいなら手伝っても仕方ないか、なんて思っていたものの、人が虫けらのようにどんどん殺されていくのを目の前にして―――彼は踵を返した。
「お、俺だって、まだ……まだ、死にたい、訳じゃ……ねぇ、んだよ───。」
一心不乱に逃げる…………ドッ。
その足にぶつかる、此処まで飛ばされてきたのだろう―――手と、可愛らしい赤く汚れた犬のぬいぐるみ。
足から力が抜け、ギューッと目を瞑り、自分の情けなさを他人事のように嘲笑う膝を手で握りしめる。
『姫と同じ学院に入れる者が泥棒に成り下がったのか!?』
ジュニアからの罵倒が脳裏を過り、強がる為の、せせら笑う顔を作る。
「逃げて何が悪いんだ―――真面目にやってたって、どうせ奪われんじゃねぇか。
諦めなければ報われるってんなら、なんでこいつらが俺より先に死んでんだよ」
屁理屈だ。言い訳だ。自身の吐いた臭いに吐き気がする、と、彼の感情が理性に唾を吐くが、理性から漏れるのはやはり、なきべそかいたような保身的だった。
ポートでの戦いのときは、圧倒的な数の差があったものの、希望があった。勇者がいたからだ。化物みたいに強い勇者が。
月明りを反射する、あの黒い鎧兜……不法侵入した家の窓から見えた、魔物の首を腕の力だけで引き千切るような化物───それが味方だったから、戦いもしないリッキーですら何故か、あの戦いに負けると思うことはなかった。
だが、今ばかりは違う。負ける。いや、既に負けている。シェールの首都の半分以上がぐちゃぐちゃだ。
シェール軍はあとどのくらい残っている?
これから魔物の軍勢も少しずつ町に溢れてくるのに?
そもそもあの巨大蛇は倒せるのか───?
「ああ! ハゲだ!!」
「!?」
突然声を掛けられ飛び上がるリッキー。
彼の背に声を掛けたのは、白く塗った顔、赤い鼻、タラコ唇の小さなピエロの魔物たち……ルター三兄弟だった。
「な、なんだよ、お前らまだ生きてたのかよ」
「なんだその言い草は!」「ひでぇ奴だ!」「ひでぇ奴!」
「お前らのお仲間のせいでこの国も終わりなんだよ、ちくしょうめ」
そう言うと、ルター三兄弟は不満そうにジタバタした。
「仲間だってぇ?! 冗談じゃないぞ!」
「あんなの魔族じゃないよ! オレたちだって死にかけたんだ!」などとほざく。
その後ろで
「わーっ! か~わいいぬいぐるみ~♡」
末っ子のマレックが、足下で血に濡れていた犬のぬいぐるみを見つけて持ち上げようと手を伸ばしたが
「マレック、それはその子のだぞ」
円錐の帽子を被った長男クボルタが、犬のぬいぐるみを抱えて”眠る”子を指差した。
「えーっ! けど……」
「ぬいぐるみなら新品をこのハゲに盗んでもらおうぜ!」
「……は?」
「そうだそうだ! その方が汚れてなくていいぞ!」
「うーん……わかったよぅ」
「えらいぞマレック! 流石は俺たちの弟だ!!」
「えっへへ〜」
「盗みOKなガバガバ倫理観なんなんだよ」
なんてことはない一面だったが、リッキーはふと
「お前ら本当に兄弟なのか?」
ルター三兄弟が魔物のように思えなくなって、そう初めて問いかけた。
「えー、今更ぁ?
ぼくら、”エルフ”だったんだよ」
「は?」
「セイレーンのおばさんが変なモクモクを出してね。
そしたらね、こんな姿になっちゃったの」
「あの煙、くっそ臭かったよな」
「なー」
「なー……じゃねぇだろ!
それならそうって先、に……言っても……俺は、何もできねぇけど」
どこまで信じていいかわからない発言だったが、無邪気さしかない三男が嘘をつくようにも思えず、リッキーは混乱した。
(ま、魔物が人だった?は?何言ってんだ?魔族ってやつのことを言ってんのか? いやいや、いやいやいや……)
「魔物になっちゃったけど、別に喋れるし、お腹空くし、困らないし。
魔物が僕らを叩かなくなったから、こうなってラッキーというか」
(いやいやいやいやいや)
「けど、同じ様な魔族に意地悪な奴も出て来てさー。そういうところ取り締まってほしいよなー、バーブラ様」
「───。」
「そんなことよりマレックのために可愛いぬいぐるみを探してくれよ!」
「探して探してぇ〜!」
「……っ、あーっくそ! この世は掃き溜めなのか!?
くそ断りづれぇじゃねぇかよ!」
まあ、今なら壊れた町中をいくら漁っても人目につかない。ぬいぐるみぐらいならすぐに見つかるだろうし……そう思った、瞬間。
「!?」
ズズン……彼らの前に現れたのは、二本足で歩き、牛の如き立派な角を持った獅子の魔物だった。
だが、威厳さえ覚える立派な出で立ちでいながら、その獅子は不埒によだれを垂れ流し、炎を乗り越え赤熱したたてがみを揺らし、鋭い爪と牙が柔らかな血肉を求めている。
「やべぇっ逃げろ!!」
リッキーは一目散に逃げたが
「おっ、ヨハネのじっちゃんだ」
ルター三兄弟は、その魔物に、仲のいい知り合いとばかりに逃げない。
「バッ───カ 何やってんだ!逃げろよ!」
「何を言っているんだハゲめ」「ハゲめ」
「じっちゃんはファウストの族長なんだぞぉ〜偉くてとっても強ぉいの〜」
などと、馴れ馴れしく近づくが
「ヨハネのじっちゃん?」
その魔物は、どう考えても、理性が残っていない。
「うわっ!?」
案の定、魔物は長男のクボルタの首を掴み上げ───
「ちくしょうッ!!」
リッキーは反射的に飛び出しざま───地面に液状化の変性術をかけて、魔物の両足を沈めてわずかふらついた。その隙に、魔物の分厚い腕に掴みかかり、軟化の変性術を使って粘土の如く腕を捻じ曲げ、クボルタを引き剥がすと、呆気に取られている二人の弟目掛けて投げつけた。
だが、その魔物は変性術の解呪方法を知っているのか、腕を戻し、両足を地面から剥がした。
「うげっ」
彼の首を絞め、もう片方の爪を構えた。
(あ……死んだなこれ)
喉を抑えられていて声が出ない。刺魔を介した変性術を使うにも、魔物の解呪速度を考えれば、二度も同じ手で潜り抜けられそうにない。
助からない────。
「キミ カッコイイ ジャナイ」
「!?」
だが―――ゴッ!! 突然、獅子の魔物は横から殴られてよろめき、リッキーを手放した。
尻餅をつき、見上げるリッキーの目には、“見た事のある”土で出来た巨体が映った。
「ココ トンプソン マカセル ノダ」
「デカい!魔術効かねぇ!なのに硬い奴!
ワッハッハ! ソイツなら”予習”が済んでる」
ラタはその身を雷で纏い、瞬間転移を駆使しながら、巨大蛇の攻撃を回避しながら誰もいない方へと誘導してから―――体当たりを空振らせる。
態勢を直す隙、ラタは根の顔面をつかみ、詰め寄った。
「よもやお前さん、アイツじゃねぇだろうな」
複雑に絡み合う根の隙間から化物の中身を覗き込むが、無数の黒いうじゃうじゃしか見えない。
「んまあ、どちらにしたって……テメェはおイタが過ぎたぜ」
巨大蛇の振り払いよりもラタの蹴りが早く、1回転して地面に着地したラタに
「おっさん!この化物!何かに操縦されてるらしいんだ!!」
「ほほほう! 情報サンキュー!」
ランディアがラタに声を届けると、巨大蛇があからさまに彼女を殺そうと方向を変───「俺が相手だろうがよッ!」
オリハルコンの斧から放たれる衝撃波が巨大蛇の顎を弾き上げ、その頭上に転移したラタの振り下ろしが続く。
ヅゴンッ! 巨大蛇の頭が地面に深くめり込み、丸みを帯びていた頭が平らに陥没した。
「操縦ってんなら、効く筈だな」
これに堪らず、巨大蛇が地面に潜ろうと試みるが
「フゥ ス―――
ハッ ! ! !」
ラタが放ったのは声だ。正しくは魔力の圧。魔術を組み上げることなく放つ、衝撃波が巨大蛇の身体を駆け抜ける。
「!?」
すると、膨大な魔力を一挙に押し付けることで呼吸を一瞬止めるトリック反射が───半生体である錬金蜘蛛の魔術を解呪した。
プツン、と、糸が切れた様に、巨大蛇が地面に半分頭を突っ込んだ状態でその場に力なく倒れ込んだ。
だが、倒れてからすぐ後、ゴゴゴゴゴ、と、ゆっくり動き出す巨大蛇。
ラタはその尾を掴むと、釣り上げるように───強引に巨大蛇を地下から引っ張り上げると
「フンヌオオオオオオオオオ!!!!」
巨大蛇の巨体を―――ブォン!! 町の外に向けて放り投げた!
誰もが見上げる放物線、くるくると回転しながら空を舞う数秒……ひゅるひゅるひゅる ズズズンッッ!!!
「う、うおおおおお!!!」
町の外の公道へと転がっていく巨大蛇に、遅れて歓声が飛び交った。
(す、っげぇ 肉体強化のレベルが違う……!
普通あんな出力じゃすぐ魔力切れして、筋肉がぶっ壊れんだろ……!)
ランディアも思わず兜のフェイスカバーを上げて、ラタの常人離れした攻撃力に感嘆した。
彼女も携帯鎧の力を借りることで魔力不足と筋肉負担を補い、人の上限を底上げする肉体強化を行っているが、それでも肉体強化には反動があり、自分の限界を超えた場合、最悪は反動で死ぬことだってある。
(常人離れの肉体強化に雷魔術の無詠唱まで……な、何者なんだ?)
ただ、彼は仲間でいてくれるらしい。それ以上のことがわからずとも、この安心感は変わらない。
「まさか、このタイミングで来てくれるなんてね……」
ワンダは顔に垂れる血を拭いながら、荒い呼吸で魔力回復に努めていた。
「おばさん、知り合いなのか?」
「おばっ―――こ、れだか、ら」
「お姉さん」
「……彼は単独で、上級の魔物の大群を追い返した人間よ。
それ以上の詮索はしなかった……魔女の許へ向かうと言っていたから」
「魔女の?」
「なんでも、女神の予言を受けた勇者を探すとか言っていたけれど……あの分では、彼が勇者ではないのかと問いたくなりますが」
「そうか、ミトと一緒にいたラタって、あのおっさんなのか!」
しかし、よりにもよって同行者に選んだのが、”勇者”の如く人間離れした男とは―――つくづく。
「ミト……お前はやっぱり、そうなんだよ」
マイティアは普通の人とは違う、運命を引き寄せる類の何かを持っている……ランディアは拳を握り締めた。
『ワンダ様! ナラ・ハから虫型の魔物が増え―――グアアアア』
「!?」
そのとき、伝聞の雷魔術を介した悲鳴がワンダの脳裏を貫き、北の方角へ目を向けると
「くっ! この期に及んで虫型の魔物まで―――っ!」
空に点々と見えてくる、いつも地竜平原を徘徊していた羽根を持った虫型の魔物だ。血に飢えた魔物たちもまだ続々と町へと入り込んできているというのに。
「悪いけどあなた、もう少し役に立ってもらえるかしら」
「勿論さ―――あとでがっぽり飯を奢ってくれよな」
「なあ、テメェ……ちゃんと見聞きしてんだよな」
再三と巨大蛇を地面に伏し、その上に立ったラタは、足下に唾を吐いた。
「自分の手を汚さねぇで、人に汚れ仕事をやらせる奴らを、俺は五万と見てきた……が
そん中でもテメェは一際、虫唾が走る」
口角が上がったままだった頬は低く垂れ、瞬きすらしない冷めた目には、憤怒と軽蔑が浮かんでいる。
「お前、まあまあ上の立場で、部下を持ってて、自分に力があると思ってんだろ。
だが、親の七光りか、自分の力でその立場を手に入れてねぇから、込み入った案件は他人に任せて、自分で責任を取ろうとしねぇ。部下に頼る割に、部下を召使いのように扱う。自分の手を煩わせればすぐ大激怒すんだろ?」
彼は根の隙間から見える、一際大きな目玉を持つ蜘蛛を見下げ
「自分以外の事、虫けらだとでも思ってんだ。
だから、そんな虫けらの姿になるんだぜ―――鏡見たことあんのかクソ女」
その向こうに見える操縦者の顔を見抜いているかのように、静かな罵声を浴びせかけた。
それから間もなく―――巨大蛇の根の隙間に巣食っていた錬金蜘蛛が、ラタに向けて網状の糸を無数に吐き出し始めるが、一切の動揺なく、ラタは瞬雷の雷魔術で距離を離した。
巨大蛇は何処か自暴自棄に、周囲に当たり散らすよう暴れ出した。まるで、金切り声が発せられているかのような悶え方だ。
「おいおい図星炸裂してんじゃねぇかい。
さてはお前、俺よりバカだな」
その隙に、ラタはオリハルコンの斧を、竹とんぼを飛ばすように胸の前でコロコロと回転させ、魔力の雷を斧に充電させた。
「来いよ。
テメェとのお遊びを長引かせたかねぇ」
属性魔術の中でも最強と名高い雷魔術でも、所詮は、魔術だ。
あらゆる魔術を相殺する魔法障壁の前では雷魔術の威力も相殺されるものと―――巨大蛇は無策に、ラタを押し潰そうと長い身体を叩きつける。
それをのらりくらり、瞬雷の雷魔術を使うまでもなく、後方宙返り。側転。サイドステップ。魔力を十分に回復させる。
そして―――。
「我は黄金の竜が導きし隷属
我が道を阻む者には、天誅が下るぞ」
振るわれる巨大な棍棒を、髪に掠るまで引きつけた後、瞬雷の雷魔術で十分に距離を取り
「神の寛大さを顧みぬならば、然と魂に焼き刻むがいい
偉大なる黄金の御霊代を!」
詠唱と共に光り輝く斧を、振り下ろし放たれるは───瞼を貫き眼に焼きつけられる強烈な閃光。
バリバリバリィイ!! 鼓膜を蹂躙する雷の轟音が刹那遅れて 誰もが視界を保てない暴力的な光の中に降臨する“雷の竜”が、視界を閉ざされ立ち竦む巨大蛇を呑み込んだ!
それが魔術ならば、ワンダたち同様に魔法障壁で弾かれた筈だったが
ラタが呼び出したのは、雷魔術ではなく───雷の招来───八竜(黄金の竜ゴルドー)の力を、借りることを許された特別な雷だった。
バヂヂヂヂャッ! 世界樹の根を塵にまで分解し、内部の蜘蛛を消し炭にしても尚、雷の竜は勢い衰えないまま空の曇天へと昇り、暗雲と変わった雲から何千もの落雷が、巨大蛇一点に向けて降らした。
ズズンズズンズズズズン!!!! 雷の鎗が地面を撃つ度に地響きが起き、人々は耳を抑えながら目を瞑り、頭を抱えて平伏し、神の怒りが収まるまで待つしかなかった。
「ゴルドー様たぁ、はあ、やる気満々だね……ふぅぃぃ。流石に魔力が切れたぜ……はぁ。
だが、つまるところ……コイツには、なんかあるんだな」
ラタが唱えたのは、八竜が隷属である彼に許した八竜魔術だった。
だが、彼は賢者程の知識や技術がある訳ではないため、八竜魔術を使用する為には幾つかの条件を達成しなければならない。
神鳴りの招雷───この魔術は二段階詠唱であり、一つ目に、ラタは対象に勧告を与えなければならない。
この勧告中、ないし、勧告直後に敵から攻撃を受けたときのみ、黄金の竜ゴルドーからの魔力共有回路がラタの魂に連結し、魔術発動の為の二つ目の詠唱で発動される。
八竜なりにパワーバランスを保つべく条件付きにされている魔術───なのだが、唱えたラタにとっても、黄金の竜ゴルドーが貸してきた力は想定以上だった。
言い換えれば、ゴルドーが、この化物を殺したい、という明確な意志を表していた。
すっかりお椀状に陥没してしまった焦げた大地、帯電した土埃が風に消えていくと
その身のほとんどを失い、焼き焦げた巨大蛇の残骸が見えてきた。
内側に無数に這っていた蜘蛛は跡形もなく消え失せていたのだが
「コイツ は ―――」
蒸気を上げているだけ、ほぼ無事なものが、あった。
それは―――”人骨”だった。
ず
ず ず
ず ず
ず ず
「!?」突如、ラタは自分の足元から這いよる何かを感じて反射的に空へ跳び上が―――った直後、ずっ 彼の影から伸びた黒い爪が空を切った。
「誰だ!?」
巨大蛇を操っていた程度の気配ではない───もっと、ヤバイ何かだ。
「ま だ だ
ま だ お わ ら ぬ」
「!!」
五臓六腑が震える低音と、鼓膜を引っ掻くような囁き声。
「待て!やめろ!!」
ラタが地面に着地して間もなく───人骨は影に呑み込まれ───そのまま気配が街に向かい……悲鳴が上がった。
「ちくしょう!」
飛翔の風魔術を使い、魔力切れギリギリで唱え、急いで街に戻ると
「お、お……っ、意外と無事?」
人々はあたふたと戸惑っているが、傷つけられているようには見えなかった。
だが、人々の顔はすっかりと青ざめている。
「だ、大丈夫だ……生きている連中はなんともなかった。
ただ……、仲間の死体が」
「死体?」
兵士が指差す先にあったのは、血溜まりだ。
つい先程まで、亡くなった仲間がそこにいたらしいが、血溜まりから手のようなものが伸びて、死体を血の中に沈めてしまったのだという。
その報告は少し遅れて、何十とラタの耳にも集まってきた。
「死体だけで……何千人規模、か」
十中八九、何かしらの死霊術だろう。
巨大蛇が積み上げた死体を、何かに利用するために一斉に回収したのだろうが……街一つ、いや、もしかしたら国という範囲でこの魔術が使われたのだとしたら、人の領域の魔術ではない。
「……まだ人類の滅亡にご執心とは恐れ入るぜ、神様よ」
ラタは拳を握り締めた。
勇者はその目で、”彼”を確認した。
いや、魔王は、”勇者”を見ていた。
虚空を見つめるような目で、感情の消えた目で―――疲れ切った目で───かつて自分を討った勇者を見た。
(悪い……約束を破ったのは俺だ)
もう二度と目覚めないよう、彼を封印したはずなのに、自分の不注意で、黒曜石の原盤を持って行かれてしまった。
今でも、どうやって持って行かれたのかさっぱり意味がわかっていない……だが、魔王はそこにいた。
頭の中に渦巻く後悔に歪む───バチン! 頬を、周りが驚くほど大きな音で叩く。
(今の術者がエバンナであれ、誰であれ
クソッタレ死霊術師は、今度こそ―――俺がぶっ殺してやる!!)
2023/05/05改稿しました