小話・男のレッスン
「子どもを作る方法?
さあ、よく分からないや」
勇者ネロスの純粋無垢な解答に、グラッパ含めドワーフたちは大きな目をこれでもかと丸め、驚愕した。
「おまっ……! ま、まさかっ! 知らないというのか!? 生物が生物たる本能、崇高なる叡智を……っ!」
「そんなこと言われたって知らないものは知らないよ。グラッパたちは知ってるの?」
マイティアがグランバニク侯爵の元へ向かっている間、グラッパたちはネロスを取り囲んで事情聴取をしていた。
というのも、マイティアがさも美しい女性であったからだ。
ドワーフたちの感覚でも、マイティアが人間の中でも上位に位置する美貌であることは分かっていた。これに加え、巨大死霊を相手にしても臆さず戦う度胸。嫌味なトトリの貴族たちを言い負かせるだけの話術。そして、王族のみが使役することを許される国鳥の鷹を連れていることから、少なくとも王族であるという確固たる地位がありながら、一般市民と分け隔てなく会話をする寛容さが、彼女にはあるのだ。最早、付け入る隙が見当たらない程に”優良な相手”である。
(勇者が魔王を討伐するとなりゃあ、褒美にお姫様と結婚するって相場は決まってんだ!)
(えれぇべっぴんさんを抱くってんなら”基礎知識”も”技術”も万全にしとかなきゃあならねぇ!)
などというお節介甚だしい理由で、アレなことを彼らは率直にネロスへ訊ねたのであった。
そして、返ってきた反応が、完全無知。
グラッパたちは顔に疑問符を浮かべたままのネロスを部屋のど真ん中に放置して、緊急作戦会議を開いた。
(どうする!? 誰かが教えてやらねぇと勇者の将来が危ういぞ!)
(だ、誰かってグラッパよぅ、オメェが言い出しっぺなんだし、大家族だし、テクってもんを教えてやりゃあいいじゃねぇか!)
(いや、人間とドワーフでは生物学的に構造が違うから俺のテクは通じねぇ)
(精通してんじゃねぇよこのエロオヤジ!)
(だ、誰かエロ本を持ってきてねぇのか!? ま、先ずは教科書を読ませて……)
(んなもん持って誰が戦場に行くかってんだ!死んだ後に性癖ぶちまけられるだなんて何の拷問だよ!女神様に見放されちまうじゃねぇか!)
(くそぉ〜っ! 何か、何かいい案はッ!)
「へぇー、ふんふん、そっかー」
突如、ネロスがひとりでに声を上げる。その声にドワーフたちが恐る恐る振り返ると、ネロスは聖剣に話しかけている様子だった。女神が宿っているという噂の聖剣に。
「ねぇ、グラッパ」
「お、おう。どうした?」
「ベラがね、あー、女神がね、こんな機会は滅多にないのだから是非とも教えてもらいなさいって」
「な・ん・だ・と!?!」
ネロスの口から発せられたのは思ってもない言葉だった。それも女神公認ともなれば、拒む理由などなかった。
「よ、よし、分かった! このグラッパが、責任を持ってお前に叡智を授けてやろう!
いいか、ネロス。心して見聞きし、学ぶように!」
「うん」
「あと、その聖剣は、ちょっとの間、何処かにしまっておこうな」
「どうして?」
「女神様にお見せするわけにゃあいかねぇからよ」
ネロスはあまり納得していなかったが
「え? ああ、うん。分かった。ベラもその方がいいって言ってるし」と、聖剣に宿る女神から説得されたようだった。
「流石は女神様だ!
よーし!女神様! 勇者のことは俺に任せてくれ! 俺が立派な”男”にしてやろう!」
「???」
そして、ネロスはマイティアが戻ってくるまで、みっちりと、グラッパたちから男のレッスンを受けたのであった。