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勇者の死霊術  作者: 山本さん
第二部
72/212

第32話① その鷹は知っている


 濡れたタオルを1回しするとカチカチに固まる寒さの中の、ドッピンカンな快晴。


 マイティアはとんでもない晴れ女のようだ。

 彼女の目覚めたときのやる気次第で、ついさっきまでビュービュー吹き付けていた吹雪が消えるのだから。


「今度こそ町に行くもんね!」


 青空目掛けて高らかに決意表明したマイティアは、浮かない顔の保護者サーティアを連れて、力いっぱい雪山を降り始めた……その後すぐのことだ。


「あれ?」


 マイティアは途中でピタリと止まり、進行方向ではない森の奥を見つめた。

 サーティアもその先を見るが、マイティアが気にしているだろうものは何も見えない。

「何かいるの?」

「鷹……私たちの方を見てる」

 しかし、サーティアには雪と、木の幹しか見えなかった。別に彼女の視力が悪い訳ではなかったが、王国の鷹の多くは冬季になると真っ白な羽根に覆われる。銀世界の背景から冬鷹を見つけるのはそもそも人の目では難しい。

 それを、彼女の目は見ているとすれば……恐るべき観察力だ。


 マイティアは、もっそ もっそ もっそ……、誰も踏んでいない新雪の中をゆっくりと確実に進んでいくと……

「あ」木の上から、何かが落ちてきた。


「ホズ!?」


 サーティアは思わず悲鳴を上げ

 マイティアは雪の上に落ちた鷹を抱え上げた。


 その鷹は随分と痩せ細り、羽根は傷み、足の傷が化膿し、弱っていた。

 人が鷹を仰向けで持ち上げても何も抵抗せず、大きな目をクリクリと丸めて

「ぴぃ……」小さく鳴くだけ、人に触れられて暴れる様子はない。


「今日はもう戻るわ

 この鷹を助けてあげなきゃ」


 2人は急いで、弱った鷹を教会に連れ帰った。

 足の傷を治療し、冷えた身体を温め、食事を取らせる……外へ行きたいとも言うこともなく、マイティアは献身的に鷹を介抱した。

 その甲斐があってか、数日もすれば、鷹は元気になって飛べるようになった。怪我した足はしっかりと枝を掴み、羽根もキレイな純白に生え変わり始めていた。


「そろそろ自然に返さないとね……」

 マイティアは晴れた日に鷹を外に出し、飛び立つように促した。しかし、鷹は飛び上がって間もなく

「あららら」

 180度旋回してマイティアの眼前に着地した。ちょこちょこと地面を器用に歩いて……マイティアの足元に戻ってきてしまった。

 2回も3回も。4回もだ。

 人に慣れている……もしかしたら、”飼われていた”個体かもしれない。


「どうしよう……懐かれちゃった」


 鷹は王国の国鳥だ。気高い気質、本性を見抜く力を持つため、フォールガス王家の守護神ともされている。

 だから、一般市民が飼い慣らす事は禁じられており、見つかれば即刻捕まってしまう。


「帰らないとダメだよ

 きっと相棒が寂しく思ってるわ」


 しかし、そんな事情など知ってか知らずか

 鷹は「ピィピィ」ひなのように甘えた鳴き声でマイティアに擦り寄ってくる。

 挙げ句の果てには無防備にお腹を見せて、マッサージしてぇ、と訴えてくるような眼差しを向けてきた。

 かといって、傍らでマイティアのサポートをしているサーティアにその甘えん坊な姿を見せる素振りはない。


 マイティアは試しに……鷹の要望通りに腹を撫でた。

 どこか懐かしさを覚えながら、マイティアはわしゃわしゃもふもふと撫でた。こねこねと頭を指先で撫で回して、くにくにと首を優しくつまんで揉みほぐす。乾いたタオルでやんわりと目隠しをして、伸び過ぎた爪をヤスリでゴリゴリ削り、僅かに欠けたくちばしの形もジョリジョリ整えていく……が、信じられないほどに大人しかった。彼女に完全に身を委ねてリラックスしている。


 その様には、サーティアも

「ホズが……、あ、いや、その鷹が、怪我していた理由も気になるし……しばらく、保護したら?」と呆れたように言った。

「え……けど、誰かに見られたら捕まっちゃうよ」

「そもそも此処に人は来ないじゃない」

「確かに」


 目隠しの外された鷹は、クリックリな大きな目で、そわそわしているマイティアを映した。


 大人の姿をした幼い女の子の――――久しく見ることの叶わなかった、希望と期待の籠った”金色の目”。

 本当に私でいいの? それに対する鷹の答えを引き出すために、鷹の目の奥にある物言わぬ真意を見抜こうとしている―――美しくも鋭い、剣の如きいい目だ。

 彼女は失っていなかった。


「ピィーッ!」

 鷹は高らかに鳴いた。

 物言わぬ鳴き声の返事を、マイティアは見抜き

 そして


「じゃあホズだね! ホズ!

 サーティアもそう言ってるし、あなたにピッタリな名前だわ!」

「ピピィ!」


 マイティアはホズを抱き上げ、初めて誕生日プレゼントを貰った子どものようにはしゃぎ、心の底から喜んだ。


「一緒にいてね、ホズ!」


 ”ホズ”も安堵し、喜んでいるようだった。


2023/1/21改稿しました

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